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映画のミカタ/vol.1「SFの魅力って?」

【Whipped本誌連載】「Encounters/トビラを開ける」①

映画を見るの大好き!けれど、気づけばいつも同じようなトーンの作品ばかりだったかも…。価値観を揺さぶられるような作品に出会ってこそ、自分が本当に大切にしていた事に、気づけたりするのかも。子供の頃、何にだって自由に手を伸ばして、ワクワクを思いっきり吸い込んだように、大人だって好きなだけときめいていい。新しいジャンルに、今こそ飛び込んでみよう。男子目線で送る、カルチャー案内。

『ブレードランナー2049』(2017年/ドゥニ・ヴィルヌーブ監督)

時の止まったような静けさと、色彩や明暗にこだわりぬいた映像の美しさ。ヴィルヌーブ監督の作品を初めて観たとき、余計な感情や説明をそぎ落としたドライな描写の中に、心を揺さぶられるような叙情性を感じて引き込まれた。『ブレードランナー2049』では、退廃しきった未来都市という無機質な舞台にその特徴が発揮されて、すべてのシーンが泣きたくなるほどに痛々しかった。「哀しい」という言葉をまだ知らない子どもだからといって、哀しみを感じないわけはない。主人公「K」を演じるライアン・ゴズリングの、暴れ出す感情が今にも皮膚をつきやぶりそうな、繊細で抑えた演技。ファンタジックでスタイリッシュ、”現実感”などどこにもない未来を舞台に、心を持たないはずのレプリカントと、あきらめの中に生きる人間との葛藤が、どうしてこれほどリアルに胸に迫るのか。

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私達が生きる現実があまりに残酷なゆえに、SFという、”ここではないどこか、今ではないいつか"によってのみ真実が描かれ、蓋をしてきた何かに向き合わざるを得なくなるのかもしれない。夢中になって画面を見つめる視線がくるりとこちらを向いて突き刺さるみたいに、大好きな映画に出会った後は、必ずそのツケが返ってくる。鏡で素顔の自分と向き合うように、次の一歩を、ふと疑問に思うように。それらはときに辛さを伴う作業ではあるけれど、だからこそ、映画が好きなんだと思う。『ブレードランナー』シリーズは、近未来への美しく哀しい旅を通して、自分にとって”本当に大事なもの"ってなんだろう?という、大切な問いを投げかけてくれた作品だ。

【第1作の紹介】『ブレードランナー』(1982年/リドリー・スコット監督)

人間に反乱するレプリカントと、彼らの「殺し屋」ブレードランナーとの壮絶な戦いを描く。人間が(人造)人間を支配する、おぞましくも考えさせられる設定と、酸性雨の降りしきる未来都市の衝撃的なビジュアルとともに、カルトSFの古典として語り継がれる作品。心を持ったレプリカントの生き様が哀しいほどに胸に訴える。






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