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絵本に登場する『虎』は好きですか?意外に物語向きな、哲学を感じさせる存在

「動物の出てくる絵本・物語」というと、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?息子の園の発表会で、名作絵本『どうぞのいす』劇を鑑賞しました。登場するのは、ロバ、リス、クマ、ゾウ、それに最初に椅子を作ってくれたうさぎ。それも、幼児の日々触れる世界に沿うなじみ深い動物ばかりですね。

先輩司書から『ウェン王子とトラ』という、強いメッセージを持った(高学年むけ)作品を紹介され、一読し衝撃を受けてから、”絵本におけるトラ”というキーワードが頭から離れなくなりました。たとえば実際は人の命を奪うことのあるクマでも愛らしく擬人化され、人気作「ラチとらいおん」のように、百獣の王であるライオンのほうがまだ、絵本のキャラクターとしては愛らしく”話の分かる”奴として描かれている気がするのは私だけでしょうか。おそらく、群れで行動するライオンと、単独で狩りをするトラの性質の違いが今風にいえば「陽キャ」「陰キャ」のように棲み分けされているのかも?などと感じています。そんな中、『トラ』が主要なキャラクターとして登場する(意外にも多かった)作品群から、テイストやメッセージの異なる3作品をご紹介したいと思います。

①『ウェン王子とトラ』チェン・ジャンホン作/平岡敦訳/徳間書店

中国出身でフランス・パリにて創作活動を続けるチェン・ジャンホン氏による作品。一度目にしたら忘れられないインパクトある力強く重さを持った挿絵と、これまた重厚なテーマを持った物語が絡み合い、一本の映画を見たような感動を与えてくれます。とある王国の物語になぞらえながら、母と子、人間と獣、自然と人間……複雑に絡まり合い時に憎悪をつのらせながらも、時を経てシンプルな答えに辿り着いていく。そんな清々しさ、優しく、強くあることの雄々しさが時代背景を超えて現代の私たちの胸にも迫るのです。

②『おちゃのじかんにきたとら』ジュディス・カー作/晴海耕平訳/童話館出版

さて同じく、「とら」が登場する作品といっても、先述のジェンホンの作品とは全く世界観の異なるこちら。1968年の初版以来、何度も版を重ね、ふんわりと品のあるイラストにも物語にも、一度は触れたことのあるという方が多いのではないでしょうか。もうすぐお茶の時間、という、ありふれたイギリスのある温かな家庭に、とつぜん、「とら」が客人としてやってきて――。奇想天外なストーリーながら、「とら」をきちんとお客さんとして受け入れる母娘。お互いに心を通わせながら、楽しいお茶の時間は過ぎていきます。日常と非日常のあわいを行き来する特別な旅こそが”読書”であるのなら、そうした心楽しさを味わわせてくれる本作こそ、愛されるロングセラーとしてふさわしいのでしょう。せつなくも可笑しく、希望あふれるラストにも、ぜひご家族で触れていただきたい素敵な作品です。

③『ちびくろ・さんぼ』ヘレン・バンナーマン作/フランク・トビアス絵/光吉夏弥訳/瑞雲舎

こわーいトラが、美味しいバターに!?自由に想像を遊ばせ、子どもたちの心をぐっと掴む、不朽の名作のひとつでしょう。私自身、あまりにも好きで物語の世界に入り込み、ページが擦りきれるまで繰り返し読んだ記憶があります。途中、様々な政治的配慮から、一時絶版となるなどの歴史もある本書。時代を超えて、主人公「さんぼ」の愛らしく、機転をきかせたスリル満点のとらとの知恵比べ?は、今の子どもたちにとっても心躍る物語であることに違いありません。デザイン性の高い、パッキリとした色使いもこの作品の異国情緒をいっそう深い物にしています。”おはなし”に触れる楽しさをうんと小さな頃からも教えてくれる、愛すべき物語です。

いかがでしたでしょうか? 私たちが実際にトラの姿を目にするのは動物片くらいしか機会がありませんが、悠々と、うっそうとした木々の中を進む姿いどこか哲学的な印象を受けるのは私だけではないはず。その生き様に、想いに、想像力をかきたてる何かが「虎」という誇り高い動物にはあるのかもしれませんね。ひとつの生き物に絞ったテーマでの絵本選びも、こうして新たな視点と喜びを与えてくれるものかもしれません。ぜひ、ご家庭ならではのお気に入りを見つけてくださいね!



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