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結婚を機に頭に刺青入れてみた

 頭に刺青を入れてきました。刺青と言っても2週間で消えるものです。「ジャグアタトゥー」と言って、植物由来のインクで肌を染めるものらしいのですが、消えるとはいえタトゥーはタトゥー。物々しさは否めません。

 なぜ頭に刺青を入れようと思ったかというと、ウェディングフォトを撮ることになったからです。結婚したから刺青って何だよという感じですが、詳しい理由を聞かれると言語化が難しい。

 私は汎発型円形脱毛症という全身の脱毛症を持っています。腕や足だけでなく、髪の毛ももちろん無いので友達によく寂聴と呼ばれています。発症した当初は人生どうなるのかと心配しましたが、今はどのウィッグを着けようかどんな化粧をしようかと楽しんでいます。

 髪の毛が全部なくなった時は、正直なところそこまでショックではありませんでした。高校生の時に不安障害で学校に通えなくなった経験があったため、その時の過酷さに比べると全然ましという感覚でした。ただ身体がシステム移行しただけ。シャンプー代も浮くし美容院代もかからない。なんてラッキー。そんな感じで軽く考えていました。

 しかし、同時にその考え方はただ自分を直視したくないがために現れたもののような気もしていました。

 私は営業職だったので、毎回髪型が変わればお客さんも驚きます。事あるごとに「頭がシステム移行したんですよ〜」と軽口を言いながら事情を説明していました。皆笑ってくれていましたが、口元が引き攣っているのは嫌でも分かりました。何で引き攣ってるんだ?やっぱ髪の毛ないってやばいかな?毛がない私っておかしい?徐々にそんな不安が押し寄せていきました。



 結婚して、ウェディングフォトを撮ろうと決めた時、インスタで「ブライダルメヘンディ」というものがある事を知りました。結婚式を控えた花嫁の手や腕に施されるインドのボディペイントだそうです。「花嫁の護符」という意味があるらしく、写真の手には細かい曲線や花模様が描かれており、なんて華やかで美しいんだろうと感動しました。ウェディングに合うよう白のインクで描くこともあるらしく、自分もこれをやりたいと思うようになりました。

 しかしただの花柄ではもったいない。どうせやるなら自分のやりたい柄で、と思い入れたのがこの写真になります。

 怪奇絵が好きなので「がしゃどくろ」を描いてもらいました。最初はどうなることかと冷や冷やしましたが、完成してみるとすごいクオリティです。物々しさがインクの濃淡で表現されており、かなり満足のいく仕上がりになっていました。家に帰ると夫が玄関で待ち受けており、ウィッグを外して美術館の絵になったような気分でまじまじと見られ続けました。タトゥーを入れることについては全く反対されなかったため、この人と結婚して良かったと思いました。ありがとう、夫。



 ウェディングフォトがブライダルタトゥーの存在を教えてくれ、また自分を受け入れるきっかけになってくれました。今までの私はいろんな人に軽口を言いながらも、髪の毛がなくなった自分を受け入れられていなかったんだと思います。みんなに笑ってほしかった。笑いに変えて全てを昇華したいと思っていた。かわいそうだと思われたくなかった。そんな事を考えながら、私は笑顔を続けていました。しかし、笑いに変えて自分自身を遠ざけていただけで、後ろめたい気持ちをずっと持ちながら当たり障りなく生きていたんだと思います。

 頭にタトゥーを入れるということは、私に取っては1番隠したい自分を直視することに繋がりました。半ば無理やりですが、自分の嫌なところを見つめ直して受け入れる作業をしたのだと思います。タトゥーの入った頭で撮影した時、何とも言えない充足感があったことを覚えています。自分自身に受け入れてもらえた、そんな感じでした。

 過去のトラウマなど、何かしらが原因で自分を受け入れられない、正面から向き合えていない、そんな人は数多くいると思います。しかし、何がきっかけでその壁が無くなるかは本当に分かりません。私もまさかタトゥーで壁がガラガラと崩れ去るとは思いもよりませんでした。そのために大事なのは、何に対しても肯定的でいることなのではないか、と私は思っています。ちょっとやってみようかな、食べてみようかな行ってみようかな。ほんのちょっとの好奇心が自分を変えてくれます。否定や猜疑心を0にするのは難しいかもしれません。しかし本当に少しの勇気があったおかげで、あれほど大きかった不安を取り去ってくれたことを、今悩みに振り回されてしまっている人に伝えられればと思っています。

 私の経験が、一歩踏み出す勇気に繋がれば幸いです。

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