風邪の味

ポカリの味は風邪の味だなと思う。
ポカリを飲む状況というのは決まって体調が悪い日のベッドの上であり、それ以外の日常で飲むことはまずない。

大人になってからはほとんど風邪をひくこともなく忘れかけていたが、ポカリを飲むと寝込んで看病してもらっていた子供時代の薄明るい空気や、やけに音のない部屋がフラッシュバックする。

誰もいない静かな家はどこかよそよそしく、知らない場所のように感じられた。普段お土産など買って帰ることのない父親も、こういう時は母が連絡していたのか、漫画やお菓子などを抱えて帰ってきてくれた。


ポカリスエットの独特な甘酸っぱさは常に倦怠感とともにあったが、同時にいつも以上に優しくしてもらえた特別感と、学校を休めるという少しの高揚感もあったので嫌いではなかった。
実際の体調よりもよっぽど大げさに心配してくれる両親を見て、子供ながらに愛されているんだなと感じられてうれしかった。

気が付いたら大人になってしまっていた。いまは誰もいない部屋で厚い布団をかぶり、自分で買ってきたポカリを一人で飲んでいる。

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