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わたしのお父さんは至る所にいる

 辛いことがあった時に、異性の家族がいればよかったのにと思うことがあります。母親と二人暮らしを始めて、もう6回目の冬です。

 私にとってお父さんという人は、困った時に背中で語ってくれるみたいな、多くを語らずに見守ってくれているみたいな、時々いいこと言ってくれるじゃんみたいな、そういう存在だというイメージがあります。私の記憶の中にお父さんはいないけれど、だからこそそういう人がいてくれたらいいなと思ったりします。お母さんと黄色い声で盛り上がる食卓も好きだけど、たまにはそういう存在に手を差し伸べられてみたくなるものです。


 高校入試で第一志望校に不合格になってしまった時、今にも泣きそうな表情を必死に隠しながら笑っていた私に、「お前の価値なんか5科目試験の1回や2回で決まらねえよ」と力強く声をかけてくださった先生がいました。私の大好きな、中学校の美術の先生です。3年間私たち生徒をずっと大切にしてくださった、とても素敵な先生でした。「お前には文章を書く才能があるのだから、そういうことをもっと大事にしろ」「周囲の評価なんて気にしてるうちはまだまだだって気づける日がいつかくるよ」と言いながら、先生は凡人にはよく理解できない奇妙な彫刻をひたすら作っていました。思えば今私は、あの先生のおっしゃる通りペーパーではない試験に挑戦したり、ここにいろいろと文字を綴ったりしています。

 学校に行きたくないことが高校3年間で何度かありました。特にこれといった理由はないけれど、とにかく教室に入るのが苦痛になることが何度かありました。私はそういう日は決まって、最寄駅前のマクドナルドでカフェラテを飲んで時間を潰しています。無理をしてまでいく必要はないと思っているし、先生にもちゃんと連絡をして、学校に行きたくなるまで、ゆっくりと時間を消化していくのです。
 朝のシフトにはいられているのは40代以上の方が多く感じます。お砂糖要りますか?と声をかけてくださるイケオジの店員さんは、俯いて制服姿でマクドナルドに入る私を明らかに気にかけてくれていました。いっぱいください!と答えて砂糖をたくさん入れて、とびきり甘いカフェラテを飲みました。そういう時間があるからこそ、私は何度も立ち上がれる気がするのです。
 誰かが落ち込んでいる時にどうすればいいかわからなくなった時は、大抵、一緒に甘いものを食べようと誘います。同じものを注文して味を共有したりする時間も大好きです。相手の表情がだんだん晴れていくのを見るのはもっと好きです。

 ここ最近、夜眠れないほどの体調不良に悩まされています。共通テストまで30日を切りましたが、立ち上がったりするのもしんどいほどです。昨日病院に行ってきたところ、コロナもインフルも陰性、胃腸炎でもない。その結果導き出された診断結果は、「極度の肩凝り」でした。勉強頑張ってるんだねと声をかけられて、先生と看護師さんと一緒に、3人で肩のストレッチをしました。たくさん笑って、受験頑張ってね!と声をかけられて、そんなはずはないけれど、肩が凝っていてよかったのかなあなんて思いながら病院を出ました。
 学校では友達にその話をして、教室の後ろの方で、みんなでストレッチをしました。受験生は机に向かっている時間が長いから、友達の多くは深刻な肩凝りという悩みを抱えていました。楽になるね〜!と言いながら笑い合って、本当に大事なのはストレッチよりもこの瞬間なんだろうなとも思いました。


 わたしは確かに、あの時のあの人の背中を見習っています。たくさん会話を交わしたわけではないけれど、あの時のその瞬間に何度も助けられています。
 わたしに父親はいません。だけど、わたしのお父さんはどこにでもいて、困った時には何度でも助けてくれます。わたしにとってのお父さんとは、そういう存在です。


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