見出し画像

(連載小説)気がつけば女子高生~わたしの学園日記㊴ 夏休み・新女子たちのインターンシップ LGBTツーリズムへの学びと涙の実習最終日~

「おはようございまーす!。」この夏休みを利用したインターンシップのJPNトラベルでの4日目は昨日の優和学園での先生の小旅行のご説明がつつがなく終えられた事や他にも波方さんと顧客回りをさせていただく中でのなかなかな気づきを得られた事もあってわたしはいつもより機嫌よく出勤して朝のお掃除をしていた。

電車が遅れて実習先に遅刻するのもなんだからわたしはいつも余裕を持って出勤するようにしているのだが、ラッキーな事にここまで電車の遅れはなく、また始業時間より早めに到着している事もあって学校でも誰か早く登校した生徒が自主的に軽く教室のお掃除をするのにならってここでも同じように言われた訳ではないのだけど机を拭いたり軽くほこりが溜まっているところをお掃除させてもらっている。

そのうち波方さんも出勤してこられ、業務課の社員さんから昨日追加手配を依頼された吉野先生の金沢での海鮮料理夕食の予約確認書とクーポンを受け取り、こちらは改めて来週に来月早々にある海外語学研修旅行の最終打ち合わせで優和学園に行く用事があるとの事でその時にお渡しすると言われホッとする。

さてここJPNトラベル城西支店でのインターンシップも4日目になり、少しは要領が分かってきたわたしは今日もまずは1階のカウンターで足りないパンフレットの補充をし、2階に戻ってからは営業課の社員さんの資料作りのお手伝いをしていると内線電話がかかってきてわたしと波方さんは3階のLGBTツーリズム部に行くように言われた。

JPNトラベルにはLGBTツーリズム部と云うセクションがあり、城西支店の3階にオフィスを構えている。

初日にわたしも支店長さんに連れられてLGBTツーリズム部に挨拶には伺っていたけど形式的なものでそれ以降は営業課や業務課、それに1階のカウンターで補助業務をさせてもらっていたので3階のオフィスには特に伺う事はなかったけど一体なんだろう?・・・・・。

そう思いながら3階のオフィスにお邪魔するとわたしにせっかくなので最近のティーンや優和学園内でのLGBT事情について生の声を聞いておきたかったのでお呼ばれしたとの事だった。

わたしは自分が定義されているLGBTなのかどうかは実は微妙だと思っているのだけど”新女子”として毎日学校に通っているのは紛れもなく事実だし見た目も立ち居振る舞いも”女子そのもの”でもあるわたしがLGBTにやさしい学園づくりを掲げているの優和学園での生活の中で感じた事や見聞きした事をそのまま”感想”としてお伝えした。

それにしても印象的だったのはLGBTツーリズムと云うカテゴリーでの世界的な市場規模がなんと年間で円換算で23兆円もあると云う事と、世界全体での旅行者のうちゲイやレズビアンの方の割合が推定で10%はあるのではなかろうかと云う事だった。

またオーストラリアや台湾をはじめとした色んな国や場所ででLGBT当事者の方が参加するパレードやイベントも増えてきているようで、わたしも梨子ちゃんからシドニーに住んでいた時にその様子を見たと云う事を聞いていたし、林ちゃんも台湾で同じようにLGBTの方がパレードをしているのを見たと言っていたのを思い出した。

そんな中で会社としても最近の日本社会全般でSDG’sと云う事でジェンダーフリーな社会を目指す事や市場規模から見てもLGBTツーリズムについて取り組む必要があるのではないかと云う事でこの春に部署が設けられたのだけどLGBTツーリズム部は城西支店の一部門ではなく、本社の経営戦略室直轄の部署でただ本社が手狭と云う理由でここ城西支店の3階にオフィスを置いているのだとか。

言ってみれば会社としても「新たなジャンル」としてこのLGBTツーリズムに取り組むと云う事でまずは市場やお客様の動向や旅行に関しての具体的な意向などをリサーチしながら理解を深め、その上で企画を考えたり、実際にLGBTの方のご旅行に際しての配慮やどのようにすればよりサービス面で満足いただけるかと云った点などにも注目しつつノウハウを積んでLGBTの方にやさしい「LGBTフレンドリー」な旅行会社を目ざす目的があるようだ。

また実際に中高生でLGBTだと云う事をカミングアウトする生徒も徐々に増えてきているそうでその場合に修学旅行や遠足と云った校外学習をどのように学校側としても当該生徒に配慮を持って実施するのかアドバイスを求められる事も増えているようでその観点からもわたしにお話しを聞きたいみたいだった。

わたしと波方さんは結局1時間ちょっとLGBTツーリズム部であれこれと参考になったのかどうか分からないとりとめの無い話をさせていただいたのだがその際の雑談の中で個人的な意見と前置きしながら部長さんがおっしゃった「トランスジェンダーって仕事する上で結構”食べていくのが大変”な場合が多い」と云うのは耳に残った。

確かに建前としては最近になって一応「ジェンダーフリー」や「男女平等社会」とか「マイノリティにもやさしい社会」とかよく言われるようにはなっているけど、実際は会社でもなんでも日本社会全体でまだ「男性上位」的なところは根強く残っているし、そんな中で心と体の性が一致していない人が自分の気持ちを無理に押さえながら職場の中で「男のくせに」「女のくせに」と言われたり「男らしく」「女らしく」と従来からの性的役割を求められながら仕事をするのは確かに精神的に大変だし、かと言って堪えきれなくて思い切ってカミングアウトしてもそれが周りに理解してもらえなければ更に偏見と差別の中では職場に居づらいだろうし大変だろうなと云うのは思った。

そんな事を思いながら3階から2階の営業課に戻っている時に階段でわたしは波方さんに前からずっと聞きたかった「新女子」についてどう思っているのかを伺ってみた。

すると波方さんは女子であっても新女子であっても自分にとっては担当している優和学園の修学旅行にご参加される「大切なお客様」の一人でしかなく、それ以上も以下もなく特別な感情も無いのだと言う。

確かに「新女子」は厳密には女子とは違うので例えばホテルの予約をする際の必要な部屋数を算出する際に新女子は何名なので何部屋必要だけど女子は何名だから他に何部屋必要と云う計算や、立ち寄る観光地にどの程度「どこでもトイレ」の数と場所がある事の把握等は必要だけどそれ位なのだとか。

「それに神原さんって私からすればどこからどう見ても”袴の似合う素直でかわいい女子高生”だけどね。だから”男子”や”元男子”だからどうなんて全く一度も思ったことなんかないのね。あと”新女子”ってわたしからすれば”新女子になったからこそできる体験”もあるだろうからある意味うらやましい。」

そうなんだ・・・・・そんな風に波方さんってわたしの事を見ているんだな・・・・・確かにわたしも新女子として優和学園に通っているからこそ着物の着付けができるようになった訳だしそんなの普通に男子のまま高校に通ってたらできないよね・・・・・などと思っているうちに2階のオフィスにわたしたちは戻ってきた。

4日目の午後は引き続きパンフレットの整理や補充、書庫のお片付けに資料作成のお手伝いや来客用のお茶出し、それに近所のちょっとしたおつかいにちょこまか歩きで頑張ってみた。

特に夏休みを迎え、カウンターにも週前半と比べて多くのお客様がお見えになったりカウンターで旅行の相談やお申し込みをされないまでも参考資料としてどこかいいところはないかなとパンフレットをお持ち帰りになる方も明らかに増え、その分わたしもパンフレットの整理・補充に頻度を割くようになっていた。

そうしているうちに今日も終業時間となり、帰宅途中にそう言えばシャンプーとトリートメントが切れていたのに気づいて買いに行った時に化粧品のコーナーに新商品らしきかわいい感じのピンク色をしたリップがあるのに目が留まる。

「よし、明日は最終日だしせっかくだからこの新色のリップをつけて出勤してみるとしますか・・・・・。」

インターンシップでメイクして出勤するのは勤務先によっては薄いメイクだったらその方がかえってすっぴんより自然と云う会社もあるから事前にメイクの可不可は聞いていて、このJPNトラベル城西支店は薄めのナチュラルメイクはOKと云う事だったのでこれまでも軽くファンデーションを塗ってリップ位はしていたんだけど最終日の明日はいつもとちょっと変わったメイクをして行く事にしてわたしはそのピンク色のリップを買い求めた。

そして最終日となり、わたしは昨日買ったピンク色の新しいリップを付け、2日目に着た白のおとなしめのデザインのレースブラウスに初日に着た紺のタイトスカートを合わせていつものように出勤した。

そして昨日のわたしの退勤後に予想以上のペースで各方面のパンフレットが持ち帰られていたのでさっそく補充をし、その後は書庫の整理や資料作成のお手伝いにお茶出しとかをしているとあっという間にお昼になった。

お昼ご飯は「行きつけ」の近所のかわいい小洒落たパン屋さんで他の会社のOLさんに交じっておいしそうなクロワッサンとチキンサンドイッチを買って済ませ、午後からも続けてあれこれと補助業務をしていた。

2時過ぎにおつかいを頼まれ、会社に帰ってきたわたしは今日も夏休みシーズンで結構忙しかったけどとりあえず突発的な問題もなくこの調子なら無事に最終日を終えられそうだと感じていた。

インターンシップ中は毎日「業務日誌」としてその日1日派遣先でどんな仕事や実習をしてそれに関しての感想や思った事を書いて派遣先の会社に提出する事となっているのだが、加えて最終日には実習を終えるにあたり派遣されていた期間全体での自分が感じた事や仕事を通じて思った事をまとめとして書いて提出する事になっていて、支店長さんからも波方さんからも最終日の午後は特に急ぎの業務がなかったら日誌を書いていてもいいと言われていたのもあり、ちょっとずつ書かせてもらうことにしていた。

そして書いていたら気が付けば3時を過ぎて喉が渇いたので自分のと他の社員さんのも含めお茶を替えに給湯室に空いたグラスを持っていった時に「事件」は起こった。

グラスを持って給湯室に入ろうとしたその時に中から女性社員の声がしてどうもとなりの業務課の女性社員のようだった。遅いランチ休憩を済ませしばし給湯室で雑談をしているようでシーズン中でランチ時間もなかなかままならなくて社員さんは大変だよねと思いつつドアノブに手を掛けようとした時にわたしの耳を疑うような言葉が聞こえてきたのだった。

「ねえねえ、ちょっと聞いて!!。今週インターンシップで優和学園から来てるあの神原さんって云う高校生ってさあ、実は男子なんだって!!。」

えっ・・・・・何??・・・・・もしかしてこの社員さんってわたしの事言ってるの?・・・・・。

「えーそれってマジ??。だってあの子小柄でかわいらしいし、声だって女の子の声そのものだよ??。誰が見たって女子でしょ。」

「そう思うでしょ。わたしも今週月曜日にあの子来てからずっと女の子だと思ってたし、女の子として接してたんだけど実は違うみたいなのよ。」

「そうなの??。でもなんで神原さんが女子じゃなくて男子だって分かったの?。」

「それなんだけどね、昨日さあ私が3階のLGBTツーリズム部に頼まれたチケット類を発券して持って行った時あったじゃない。」

「あったね。確か午前中だったっけ?。」

「そう。それでその時にあの子と波方さんがそこに居てLGBTツーリズム部の人たちとあの子が”新女子って慣れるまでボイストレーニングとか女の子のレッスンがあって結構大変なんですよ”って話してるのが聞こえてきたの。」

迂闊だった。確かに昨日の午前中のLGBTツーリズム部でのヒアリング的に雑談している時は部内の会議室スペースだったから外には話し声は漏れてないけれどその時の話しが盛り上がって気分もよく、またそこがLGBTツーリズム部と云うLGBTに理解ある人ばかりだったと云う事もあって会議室ではない通常の仕事をするスペースで新女子について聞かれるままわたしは軽く雑談をしていたのだった。

「それで”新女子”とか”ボイストレーニング””女の子のレッスン”ってなんだ?、”慣れるまで大変”ってなんだ?って思って家に帰ってから検索してみるとびっくりなのよ。ほらこれ見て。」

そう言ってすばやく自分のスマホで「優和学園 新女子」と検索したその社員さんはもう一人の社員さんに検索済みの画面を見せるように差し出す。

「ええー?なになに?”新女子とは真のジェンダーフリー時代に対応した新しい人材を育成するために本校独自の方針で設定しており・・・・・ちょっとこれってもしかして神原さんがこの新女子ってこと?。」

「そうらしいの。だから私びっくりしちゃって・・・・・。神原さんって確かにちょっと天然のところあるし慣れてないからいつも少し焦ってちょこまか歩いて移動してるけど、それでもさすがに優和学園の生徒さんだけあって色々とマナーとかがよく身についてて礼儀正しくて品もあるし感じだっていいし、自分でも言われなくても簡単なお掃除とかしてくれたり、考えてパンフレットの整理とか補充もしてくれてるからいい子だなって思ってたんだけど実は男の子だったとはね・・・・・。ちょっと私そう云うの無理だね。」

「私もその”新女子”とかなんとかって云うのちょっと無理・・・・・。だってうちの会社もLGBTツーリズム部とか作ってるし、世間一般ではSDG’sとかで配慮しないといけない空気なのは分かるけど個人的にはそんな”オ○マ”みたいな事するって私にはやっぱり理解できない・・・・・。」

「そうだよね・・・・・。趣味でたまに隠れてこっそりスカートはいたりメイクするのならそれはそれで個人の趣味だからいいけど、言ってみれば毎日ずうーっと堂々と人前で”オ〇マ”みたいな事してるのはなんで?って思うし、個人の気持ちとしては生理的に受け入れられないな・・・・・。」

「まあ今どき高校の修学旅行1校取ってくるって相当大変だし、それに更に学校側に深く入り込んで修学旅行だけじゃなくてそれ以外でも継続して仕事をうちの会社に優和学園はさせて下さってる訳だからこの夏休みインターンシップも頼まれると断れないんだろうけど、何も”新女子”とか云う変わった子でなくてもいいんじゃないかな?。」

わたしはドアの前で立ち尽くしていた。波方さんだけでなく支店の他のスタッフさんはどなたもこの夏休みシーズンで忙しい中でもお客さんの依頼に全力で答えようとして精力的に仕事をされていたし、また依頼をいただく以上はよりお客さんにとって満足のいくものを提供したいとあれこれ知恵を絞りながら対応しているのを見ていてこの会社ってとてもいい会社だし、これならわたしたちの修学旅行をお任せして大丈夫だと思っていた。

それはこの業務課の女子社員さんも同じでわたしが質問したりお願いした時も忙しい中でもできるだけわたしみたいな子にも嫌な顔や分け隔てする訳でもなく分かりやすく説明してくれた。

だけどわたしが実は「女子」じゃなくて「新女子」だと気づいた事で、「そう云うの無理」とか「生理的に受け入れられない」だなんてなんでそんな事・・・・・。それにこの社員さんたちだってさっきもわたしの事を天然でちょこまか歩きだけど仕事はよくやってくれるいい子だって言ってくれてたのに・・・・・。

わたしはお茶替えを止めて自分の席に戻る事も考えたけど、他の方のグラスも持ってきているしこのまま帰る訳にもいかない。そう思っていると一瞬二人の会話が途切れたのでわたしは「失礼しまーす。3時なんでお茶替えに来ましたー。」と何事もなかったかのように、そして何も聞いてない・知らなかったかのように振る舞いながら給湯室の扉を開け、中に入った。

すると先客の二人は「あ、もうそんな時間・・・・・事務所戻らなきゃ・・・・・。」「そうだね、仕事仕事っ・・・・・。」と言いながらいそいそと給湯室を出て行った。

出てからも廊下で「やば、さっきの話しって聞かれてないよね?。」「多分入ってきた時にはその話ししてなかったから大丈夫じゃないの?」と言っているけど大丈夫じゃなくてしっかりあななたちがわたしの事を”オ〇マ”って言ってたのは聞いてたんですが・・・・・。

わたしは涙をぬぐいながら陰で自分の事を偏見を持って言われていた事に落胆していた。一体”新女子”である事がこのインターンシップでこの会社・支店に何か悪材料があるのだろうか?。もちろんバイトさえもした事がなくて毎日やっと学校のカリキュラムや行事についていくのが精一杯なわたしは確かに至らないところだらけだけどそれとわたしが新女子だからどうこうと云うのは別じゃないの・・・・・。

わたしは泣きながら昨日LGBTツーリズム部で言われた「LGBTって食べていくのが大変」と云う言葉が思い出され、身にしみていた。LGBTである事、特にトランスジェンダーである事は仕事をする・仕事に就く事に於いてより偏見や差別に晒されるのだと云う事が本当によく分かった。わたしがトランスジェンダーかどうかと云うのは今は微妙な立ち位置だけど、それでも世間一般からみればわたしは「男のくせに女の恰好をした異端児で変な子」なのだ。

お茶を替えて席に戻り、他の方にもお茶を配ってからはわたしは自分の席で引き続き日誌をまとめていた。

ただ先程の件でわたしの心はとても揺らいでいた。少し書いては涙がこぼれそうになって筆が止まり、その都度わたしは「パンフレット整理行ってきまーす」「トイレ行ってきまーす」などと言っては席を離れてなるべく人目につきそうにない場所に行って泣いていた。

支店長さんや波方さんはじめすばらしいスタッフさんに囲まれてとっても有意義で普段の学校生活では経験できそうになかった事をいっぱいいっぱいやらせてもらったこのインターンシップでJPNトラベルも波方さんも大好きになっていたのに最終日の午後にこんな思いをしなくちゃなんて・・・・・。

そうこうしているうちに終業時間になり、外回りから波方さんも帰ってきた。まとめた日誌を波方さんに見てもらいOKだったので支店長に提出し、最終的には支店長が読んだ上で「講評」を書き込んでから学校に送ってくださる。

そして皆さんの前でこの5日間お世話になった旨挨拶をすると初日よりずっと大きな拍手が起きた。支店長さんも課長さんも波方さんもしっかりと拍手してくれてるし、あのわたしの陰口を言っていた業務課の二人も笑顔で大きな拍手をしてくれていた。

オフィスを出てLGBTツーリズムと1階のカウンターに簡単に挨拶だけしてわたしはビルを後にした。玄関までは波方さんがわざわざ見送ってくれ「5日間本当にお疲れ様」と改めて労いの言葉を掛けてくれた。

わたしは玄関まで来た時、「あの・・・・・波方さん・・・・・」と波方さんにだけはこっそりとさっきの給湯室での陰口の事を言おうかと思い口を開いた。

学校側からも「セクハラ」やいわれのない事をされたりした場合はちゃんと言ってもいいと聞かされていたし、やっぱり「新女子」で頑張りながらやってきた事を否定されて腑に落ちなかった事もあってわたしは一言言いたかった。

でもわたしは結局「いえ・・・・・なんでもないです。今回本当にお世話になりましてありがとうございました。この会社・支店・そして波方さんに私たちの修学旅行を任せていても安心だと感じました。どうぞ2月の本番はよろしくお願いします。」とだけ言って自分が受けた事を波方さんに言うのは止めた。

ここでわたしがこの事を言ってどうなるのだろう、そう自分なりに思って言うのは止めたのだが、それはこのJPNトラベルとか城西支店がLGBTに対して批判的な社風なのではなく、社員の個人的な見解や意識がそうなのであってそれも多くの社員がそうなのではなく、一部の社員が一時的に理解が欠けているからあんな事を言うのだと思ったからで、事実最後のお礼の挨拶をしている時もわたしに大きな拍手をしてくれていたではないか。

それに学校にわたしが新女子だと云う事を揶揄されたと仮に言えばこんなにいい関係のJPNトラベル・そして波方さんに対してもある程度の対応をしないといけないだろうしそれは果たしてどうなのか、と云う思いもあった。

声を上げなければ何も変わらないし何も前に進まない、それは確かにそうだしこのまま揶揄された事について黙っているのが正しいとは言えないと云うのも分かる。

だけどわたしは波方さんに言うのを止めた。それはこの揶揄された事も含めてがわたしにとっての「インターンシップ」なのだと云う事を感じたからだった。

確かにいい気分はしないけどこれが今の世間一般での出来事で且つマジョリティ(多数派)なのだと云う事が分かったのもこのインターンシップでの収穫ではないか。

波方さんに見送られてビルを出て、それでもやっぱりわたしは堪えきれなくてビルを出てすぐの裏手にある公園のどこでもトイレに駆け込んでしばらく泣いた。

そして泣き止むとわたしは落ち込んだ気分とインターンシップを無事終えられた安堵感の両方を抱えながら帰りの電車に乗った。

(つづく)






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?