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(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" もうひとつの学園祭のミスコン ①

「こんにちわー、おじゃましまーす!、和巳いる?ー。」

今日もまた豊岡和巳が家でくつろいでいると近所に住む幼なじみ兼同じ大学に通う同級生兼カノジョの諏訪あずさがやって来る。

小学生の頃からこうしてまったく遠慮する事なくしょっちゅう和巳の家に来ては上がりこんでくるあずさ。

和巳とあずさはひょんなことから成人式の頃から付き合うようになったのだが、あずさがこうやって頻繁に和巳の家に来るのは別に今に始まった事ではないし、ましてやカノジョとして自分のカレシに会いたいとか云う訳でもなく小学生の頃から変わらず当たり前のようにやってきては自分のペースで話をして帰るのだった。

そして今日はいったい何を話すのかと思っていると「聞いて聞いて!。今度のうちの大学の学園祭でさ、今年初めての新企画があるらしいのよ。それがね・・・・・。」とあずさが言いながら出したチラシには「第1回もう一つのミスコンテスト開催決定!」とでっかく書いてある。

「これって?・・・・・。」

和巳とあずさの通う渋谷学院大学にも他の大学と同じように秋に学園祭がある。

割に都心にあると云う事で都会的でお洒落な校風やイメージもあり、学生や卒業生、関係者は元より一般の来場客も多いこの学園祭だったが、おかげで毎年盛況で1年を通して大学としても最大のイベントとなっていた。

和巳としてはこれまでも所属しているサークルが特に模擬店を出したり、展示をしたりとかはサークル自体が緩い感じの運営のサークルでもあり、特に何もせず、それもあって和巳も学園祭はもっぱら展示やステージでの催しを見るか他のサークルがやっている模擬店で何か飲み食いする程度の感じで参加していた。

一方のあずさはこれまで2年連続で学園祭での人気イベントのミスコンテストに参加して、しかも続けてファイナリストに選ばれていると言う位和巳とは違って積極的なスタンスでこの学園祭に関わってきた。

あずさは連続してファイナリストに選ばれてはいるがまだ優勝や上位入賞はした事がなく、周りの勧めもあったのと自分でも今年もこのミスコンテストに出場してせっかくなら今回は上位入賞を目指したいと云う事でとても意気込んでいた。

そんな中で今日ミスコンテストエントリー希望者への事前説明会があったらしくあずさは参加してきたのだが、その時にこの「もうひとつのミスコンテスト」が今年から開催される運びとなったのを聞いた。

「へー、そうなんだ。それにしてもわざわざもうひとつ別に学園祭にミスコンテストを実施するのもそうだし、タイトルにもあるこの”もうひとつの”ってなんだろうね?。」

そんな風にあまり意に介していない感じで話を聞いていた和巳にあずさがチラシを見せながら言ったのは余りに意外な内容だった。

「あのさ、このチラシの”参加資格”って云うのをちょっとよく見て。」

そう言われて和巳はあずさからチラシを受け取り、どれどれと眺めてみる。

「えっと・・・・・参加資格ってこれか。なになに、”参加資格・本学に在籍中の学生・大学院生で且つ医学上男性である事”だって?・・・・・。あれ?、でもこれって”ミスコン”でしょ?。ミスコンなのに”医学上男性”ってどう云う事?・・・・・。」

そう言いつつ考えながらチラシを見ていた和巳にあずさは「まだ分かんない?。これって出場者は全員男性の”女装コンテスト”なのよ。」と言う。

それを聞かされた和巳があっけに取られていると「だからエントリーした人みんな女装して女の子になった自分を審査してもらうから”もうひとつの”ミスコンなの。」とあずさは言い、和巳もそれで女装子ばっかりでミスコンをするから”もうひとつの”と付いてるんだと妙に納得していた。

そんな和巳にあずさは続けて言った。

「ねえ、和巳。このミスコンに和巳も出てみない?。」

そう言われ、飲みかけの口に含んだペットボトル飲料を思わず和巳は吹き出しそうになる。

「え!?、ゴホゴホ、なに?。僕がこの”もうひとつのミスコン”に出るって?・・・・・。」

「そうよ。和巳もまたまた女の子の”かすみ”になってこのミスコン出てみない?。だってかすみになった和巳って全然かわいくてイケてて盛れてるでしょー。かすみになってお出かけした成人式の時とかこの前の花火大会の時もまったく言われるまで元は男子だなんて誰も気が付かなかったし、充分資格あると思うけどなー。」

と冗談めかして言うけれど目と表情は割に真剣で、どうやらあずさは本気で和巳にこのもうひとつのミスコンへのエントリーを勧めたいらしい。

「大丈夫よ、和巳のあの成人式の時の女装した振袖姿って大好評だったし、それにあれがご縁で着物屋さんでも時々振袖着せてもらって男の娘向け振袖モデルアドバイザーのバイトやってるけど、それだって今まで難なくこなしててまたそれが好評なんでしょ?。夏の花火大会の時の浴衣女装だってまったく違和感無かったし、結構知らない男子からもチラチラ見られてたくらいかわいい浴衣女子になってたじゃない?。」

「まあ・・・・・それはそうだけど・・・・・でも着物屋さんで振袖着てるのはバイトって云う言ってみれば”お仕事”でしょ。それに成人式の時に振袖着たのはあずさとの思い出づくりの為だったし、花火大会の浴衣はまあ成人式で振袖を着た事でのおまけの特典みたいなもんだったから・・・・・。」

和巳はかすみになる事は正直嫌いではなかった。だからこうしてあずさがかすみになる事を勧めるとなんだかんだ言って結局あずさの押しもあったけど女装して”カノジョ”のかすみになってしまう。

だけど何度女装してもこれも正直和巳はかすみになる事がとても恥ずかしかった。

かすみにいざなったらなったで女の子としてのスィッチが入ってトーンが1トーン上がった声で女言葉を使って女の子のような喋り方になり、仕草も立ち居振る舞いも着物や浴衣を着ているせいもありまるで女の子のようになるし、何よりメイクをしてウィッグを被って女物の衣装を着たら外見はどこから見ても「年頃の二十歳前後の女子大生」にしか見えないのだけれど何度やってもやっぱりかすみになるのは和巳にとってはとても恥ずかしい事だった。

もちろんかすみになってしまえばその日は徐々にかすみでいる事に慣れて、そのうち女の子でいる事って楽しいしおめかしするっていいなと思えるようになるのと、かすみになった際に周りの人に「ほんとは元から女の子じゃなかったの?。」と言われながら女装した自分を見るともしかしてそうかも・・・・・とつい思ってしまう位自分の女装子としてのパス度は高いのだけどそれでもやっぱりかすみになるのは恥ずかしかった。

それに今回はコンテストにエントリーすると何らかの形でこの女装している学生は実は男子の「豊岡和巳」だと云う事が学内に知れ渡ってしまう訳で、男子学生でいる時は普段の学園生活全体では取り立てて目立つ存在ではなくいわば埋没している分自分の女装姿を人前で見せるのはより恥ずかしく感じるようになるのではと気になっていた。

そんな事を思いながらエントリーする事を躊躇しているとあずさがチラシに載っている優勝・入賞した時の賞品について触れながら説明してくれた。

渋谷学院大学のあずさが出ているミスコンはこちらは大変人気があり、優勝者や上位入賞者からはこれまでも地上波在京キー局の女子アナを輩出した事もある位なので世間の注目度も高く、そのせいか賞金・賞品・特典も数多く且つ豪華なのだが、”もうひとつのミスコン”の方は初回と云う事と”本家”とはちょっと毛色と云うか”趣向”が違うので、そこまででもないけれどやはり人気と注目度のある本家の渋谷学院大学のミスコンの一部・一環と云う感じでそこそこ豪華な賞品が揃っている。

例えば大手旅行会社の旅行券が5万円分とか更にデパートとかいろんなお店で使える全国共通商品券が3万円分、またレストランで食事をする際に和巳も使った事のあるお食事券の全国共通グルメギフトカードも3万円分等々と割に豪勢で、これ以外にも協賛の各社・各お店からちょっとした賞品や割引券が提供されていた。

その一覧を見て和巳は「旅行券が5万円分もあるんならあそこの旅行会社ってJRも取り扱ってるから前からずっと乗りたかったあの話題のリゾートトレインに乗れる。」とか「デパートの商品券が3万円もあるんなら来月の銀座のデパートである鉄道模型フェアで欲しかったNゲージの車両が買える。」とつい皮算用をしているとスマホが鳴る。

見るといつも振袖モデルアドバイザーのバイトに行っている着物屋さんからでなんだろうと思いながら電話に出てみる。

「もしもしー豊岡さん?。今いいかしら?。今度あなたが行ってる渋谷学院大学で”もうひとつのミスコンテスト”って云う女装コンテストがあるんでしょ?。知ってた?。」

「ああはい、今ちょうどその事で同級生のあずさと話してたところです。」

「そうかー、それなら話早いわね。実は知ってるかもしれないけどその”もうひとつのミスコンテスト”にうちの着物屋もお店として協賛する事になったのね。ほら最近豊岡さんみたいに成人式に振袖を着て下さる男子のお客さんも増えてるし、一回成人式に振袖着てくださった男子のお客さんってそれからも卒業式に女袴とか花火大会やお祭りで女物の浴衣も着てくださったりとかするでしょう。だから宣伝の意味も含めて今回協賛させてもらったのよ。」

それを聞き、確かに振袖男子のここのところの増加傾向からしてもお店の宣伝と云う事でこの”もうひとつのミスコンテスト”に協賛する事は成人式を控えた男子大学生向けのPRにちょうどいいと云うのはナイスな考えだなと和巳は聞いていて思った。

「それでね、豊岡さんってとっても振袖や浴衣だけじゃなくて女の子の恰好全般が似合うからこの女装コンテストに出てみない?。出てくれるんだったらうちとしてもバイトとは言えお店のスタッフの子が出るって事で全面的に豊岡さんのバックアップさせてもらうから。大丈夫、豊岡さんには”女の子になる素質”みたいなものがあるから上位入賞もきっと間違いないわよ。」

と、そう言われ和巳は少し電話の前で考えていた。「女の子になる素質みたいなものがある」と言われて悪い気は正直しなかったし、旅行券や商品券、はたまた各種副賞が合計すると軽く10万円は超える特典の数々にも普通の大学生としては普段そんな金額や内容のご褒美にはお目にかかった事がなかったのもあり心の中で欲望と共に食指が伸びる。

「それともし優勝や上位入賞ならお店の振袖モデルアドバイザーのバイトの日当やインセンティブボーナスも増額させてもらうわよ。どう?考えてみてね。じゃあ。」

と言って電話は切れ、横であずさが「ねえ、今の電話って誰から?。」と聞いてくるので和巳はいつもバイトで行ってる着物屋さんからで、今度のもうひとつのミスコンにお店として協賛したのもあるし、いい宣伝になるからバックアップするので出て欲しいと言われた事を話した。

するとあずさは「そうでしょう!。和巳ってやっぱりこのコンテストに出るべきよ。バイト先の着物屋さんだってかすみになった時の女子力の高さにパス度の高さに感心する位自信持ってる訳だからこうして勧めてくれてるんだし、それに出るんだったら全面的にバックアップもしてくれるって言ってるし、おまけに上位入賞したらお給料もアップするんでしょ?。だったらこれはとりあえず出るだけ出ても損はないわよね。」と自分以外にも和巳がコンテストに出るのを勧めてくれている人がいるのに意を強くしてさっきより更に張り切っている。

「でもどうしよう・・・・・やっぱり僕の中では結構かすみになるって慣れてきたとは言え恥ずかしいんだよな・・・・・。」

そう躊躇している和巳にあずさは「何言ってるの?。これだけ周りの人が和巳の女装に期待してるんだし、上手く行ったら美味しい事だらけなのに出ないって事はないじゃない。大丈夫、バイトで女装するのが1回増えたって位に思っとけばいいのよ。それにバイト先のお店のスタッフさんだけでなくてわたしも女友達といっしょに手伝ってあげるから出ましょうねっ。いいよね。」とお構いなしに言い、「うん・・・・・だったら出るだけ出てみる・・・・・。」と今回も和巳は押し切られこうしてまたまたかすみになる事となった。

次の日、大学の中にある学園祭実行委員会の事務局にあずさと和巳は一緒に出向き、もうひとつのミスコンテストのエントリー手続きを済ませた。

あずさは本来のミスコンテストに毎年出ている事もあって事務局のスタッフの学生とも顔見知りで更に顔馴染みの常連と云った感じで会話もとてもお互い慣れたやりとりだったが、和巳としては今まで特に事務局とは接点がなかったのもあり、この場が自分には若干場違いなような気がしていた。

そしてあずさが「今日はもうひとつのミスコンテストのエントリーのお手伝いに来たのよ。」と言うと事務局のスタッフは「え?誰が?。」と思わず聞き返した。

「誰がってここにいるこの男子君ですけど。」とあずさが言うとスタッフは和巳の方をチラと見て「えっ・・・・・この地味でダサそうな男子が女装だって?。ほんとかね?・・・・・。」みたいな感じで訝しそうにどうやら思っているようで、「こいつ女装してもパス度とか大丈夫なんだろうか。」とも思っているのが顔に書いてある。

二人はコンテストの出場規定とか実施要項が細かく書かれた書類を受け取り、読みながら内容を確認するとコンテストの大体の内容はこんな感じだった。

まずはこれはあずさも出る本来のミスコン同様にまずは特設の専用サイトにエントリーした参加者それぞれの個人コーナーを作り、それを見てもらって事前にインターネット上で第一次審査を行い、それの上位の参加者が”ファイナリスト”として当日実際にステージ上に女装して出てもらい、その女装姿を見てもらった上で審査員と一般投票を含めた最終審査を行うと云う事になっていた。

そしてこの専用サイトには参加者が「カジュアル」と「フォーマル」の2パターンの女装した画像を載せる事になっていて、そのどちらかは短い動画で載せる事となっていた。

これは最近「加工女子」と云う事でスマホやアプリ、ソフトの性能もよくなってきてAIを利用してまるで画面上では実際に女装しなくても普通の男子がきれいでかわいい女子になってしまえるアプリやソフトが増えてきていて、それを使う事で多少の「修正」のレベルを超えてのイタズラや冷やかしはもちろんこのコンテスト自体の意義が問われかねなくなるのだが、動画だと一般的にはまだそこまで高性能なアプリはないので併用してもらう事にしたみたいだった。

まずはこのいわば「第一次ウエブ審査」を通過しないといけないのだが、載せる画像のコンセプト的なものとして「カジュアル」は「こんな女子って居るよね」と思わせる同世代の女子を、そして「フォーマル」はずばり「女子としての勝負服」を着てきれいだったりかわいい女子になった自分を表現・体現して欲しいとの事だった。

そして専用サイトを通じての投票結果を集計し、上位5名がファイナリストとして選出され、そのファイナリストに選ばれると当日の本選に出場する事になるのだけれど、その当日の本選ではなんとウエディングドレスを着てもらってそのドレス姿を会場の審査員と観客兼一般審査員が見て審査するらしい。

既にファイナリストに選ばれた段階で「参加賞」的にいくつかの賞品が頂けると記載されていたがこれにはその商品を頂けること自体がかすんでしまうくらいびっくりしたと同時に実際にコンテスト本選で着るためのウエディングドレスを用意したり、もちろんすっぴんでウエディングドレスを着る訳にもいかないだろうからメイクなどの美容面での準備も必要だろうと思われ、スポンサーや協賛各社がいるとは言え、大学側としては結構本格的にこの女装コンテストをやるつもりにもびっくりしていた。

読み終えてエントリーを済ませると先程の事務局のスタッフが事務的にエントリー手続きをしながら「ま、初めての事で俺たち事務局としてもまだまだ手探り状態なんだけどそっちもガンバって。」とこんなダサそうな男子が女装して出るだなんてと口には出さないけれど余り和巳には期待していない感じで言い、応対してくれた。

事務局の部屋を出るとあずさが「さあて!これでエントリーも済んだからさっそく準備がんばるとしますか!。それにしても和巳なんかが女装コンテスト出たって意味あるの?大丈夫かね?って口には出してないけどやな態度と対応だったよねー。和巳がかすみになったらどんだけかわいくなるのか知らないのかな?。よし、絶対見返してやりましょうね!!。」と張り切っていた。

自分としては元々の学生数も多くそしていろんな男子学生もいるこの渋谷学院大学で、賞品や副賞も豪華で他にもどれだけきれいだったりかわいい「女装子」が今後エントリーしてくるのか分からなかったし、また自分が着物屋さんで振袖モデルアドバイザーのバイトをしていて思うに結構ちゃんとメイクするとかわいくなったりきれいになったりする大学生の「女装男子」は意外に多いと経験上感じていた。

なので欲を言えばミスコンでのファイナリストって云うのはあずさも学園祭のミスコンで経験している分どんな感じなのか自分も多少興味もあってできればそこに残れればそれで充分で、仮にネット審査までで終わったとしてもそれはそれで別にいいや程度に思っていたけど、あずさはそうでなくてさっそく女物も男物も含めて在庫数のとてもありそうなディスカウントショップに和巳は連れてこられた。

「ここはねー中古品やメーカーの在庫処分品とかとにかく色んな種類とサイズの服に小物に靴にとあれこれあるお店なんだよね。まずはこのお店って安いからここでコンテストのサイトに載せるカジュアル部門の洋服を選ぶわよ。」

と言いながらツカツカと慣れた感じで店内に入っていくあずさに付いていく和巳だったが、あずさはどうもこのお店の常連で店員さんとも顔なじみのようで「諏訪さんいつもご利用ありがとう。今日は何をお探しなの?。」と向こうからあずさを見かけただけで言いながら寄ってくる。

「えっと定番のデザインで全然いいんだけど、秋らしくてできれば少しフェミニンな要素もあるようなのがあればって思いまして、ブラウスとスカートの組み合わせでもいいですし、ワンピースやセットアップものでもどちらでも構いません。」

そう言うとちょうど夏物が終わって秋物が本格的に入荷してきたところだからと店員さんに言われ、売り場に案内してもらうと店員さんの言う通りそこにはあれこれ色とりどりの洋服が所狭しと並んでいた。

言う通り半袖や生地の薄そうな夏物はほとんどなく、長袖や七分袖のものを中心とした秋物の品揃えであずさは主に「サイズ L 11~13号」と書かれて陳列してあるものの中からあれこれ手に取って見ている。

「和巳って身長いくつ?。」「だいたい170㌢ぐらいだと思うけど。」そうやりとりしているうちにあずさが何枚か陳列してあるブラウスを手に取って和巳の元にやってきて「このブラウスどうかなー。」「これも似合うかなー。」と言いながら和巳に選んできたブラウスをあてがってみる。

普段女物の洋服とかは買う事のない和巳はあずさにまるで「まな板の上の鯉」のようにあずさが選んできたブラウスをじっとしながらあてがわれていた。

「本当なら試着して買うところなんだけど、和巳今日は男の姿でしょ。ちょっとこの格好で女物のブラウスやらスカートにワンピースとか試着するって云うのもちょっとなんだからとりあえず想像して上からあてがうだけにして買うね。」とあずさが言うのだが、和巳はお任せする他なくそのまましばらくじっとしてあずさが洋服を見立てるのに付き合った。

そして何枚かのブラウス、スカート、ワンピースをあずさが選び、ついでに置いてあった自然な感じで栗色にカラーされたセミロングのウイッグといっしょにお会計を済ませて店を出た。支払いは和巳がしたのだけれどいったい女の子の服っていくらするのか見当もつかなかったが思っていたよりリサイクル品やメーカーの在庫処分品と云う事もあって全然安くて和巳の持ち合わせの範囲で収まった位だった。

家に帰るとあずさはそのまま自分の家ではなく、いつものように和巳の家に上がり込んでさっき買ってきた女物の洋服一式を和巳の部屋で広げる。

「うん、どれもまあまあ安い割にはかわいくて作りもしっかりしてていいね!。じゃあ早速試着してみようか。」

「えっ、今から?。それにここで?。」

「そうよ、だってサイズが合わなかったりするとタグのついてる今のうちに返品、交換しないといけないでしょ。ほら、早く着替えて。」

そうあずさに言われ和巳はとても恥ずかしくなっていた。こんな昼間からカノジョとは言え、同級生の女の子の前でしかも女の子の着る服に着替えるだなんて恥ずかしくてたまらない・・・・・。

そう思っていると「わたしたちって女の子同士だし別に恥ずかしがらなくてもいいよね。」とあずさはもう和巳の事を「かすみモード」で見ている。

「パンティにブラとそれとキャミソールみたいな女の子の下着は着物屋さんのバイトで着るから持ってるよね?。」

「うん・・・・・持ってるけど・・・・・。」

あずさにそう言われ和巳はタンスの中にしまっている自分用の女物の下着を出しに行った。

(つづく)





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