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(連載小説)和巳が"カレシ"で、かすみが"カノジョ" もうひとつの学園祭のミスコン ⑥

「見て見て!。”もうひとつのミスコン”の第1次審査の結果が出てるよ!。」

それから数日後、第1次ウエブ審査が締め切られ、集計結果が発表となった。

元々当初からかすみの得票数は高かったので1次審査は通過しそうだったけどそれでもやはり結果発表となれば気になるもので、どうなったか事務局のホームページを居合わせた「チームかすみ」の面々で覗き込むようにして見た。

するとそこにはダントツでかすみが1位となっていて「やったー!。1位だよ、1位!。すごーい!。」とあずさをはじめチームのみんなは自分の事のようにこのかすみの1次審査の結果に喜びを隠せないでいた。

かすみももちろん本選に出られるのもうれしかったが、それと同様にうれしかったのはSNS上に2丁目でバイト三昧してるとか変な書き込みをされた涼子さんも上位5名に入り、かすみと一緒に本選出場になった事だった。

晋吾、いや怜奈はなんとか2位を確保し、組織票もあったのだろうがやはり元々がきれいで女子力も高いところが評価され、あれ以降も票を伸ばしこちらも本選出場となった。

和巳は予選の上位5名に入り、ファイナリストとして本選に出場すると云う一応の目標は達成したので満足していた。だからこれから先は欲を出さずにこの「もうひとつのミスコン」を楽しもうと云う気持ちだった。

そしてさっそく次の日に本選に出場する5名は事務局に説明会と云う事で集められて、あれこれとコンテスト本選について話を聞いた。

学園祭は2日間あるのだけれど、「もうひとつのミスコン」は初日の午後にサブステージで行われる。

あずさの出る本家のミスコンはメイン行事でもあるので2日目の午後にメインステージで行われるのだが、それと比較するとまあこれは致し方ないところだけどそれでもサブステージと云っても毎年渋谷学院大学の学園祭のサブステージは設備も観客席も結構本格的なものと云うくらいの事は和巳も知っていた。

当日はまず自分で選んだ恰好で女装して登場し、特技を披露したり審査員からの質問に応じるのが前半で、その後休憩を挟んで後半は全員ウエディングドレスに着替えてランウエィを歩いてお披露目した後はドレスのまま壇上で「サプライズトーク」なるいくつか意味深な質問を交えたトークコーナーやそのやりとりも含めて前半の通常の女装姿と後半のドレス姿を加味した内容で審査を行うとの事だ。

審査に関しては事務局側から選んだ審査員が5名で、この人選に関しては当初は公表していたが、1次審査の途中であまりに参加者に対して誹謗中傷や変な書き込みがSNSで散見された事もあり、事前に公表するとその審査員に対して一部の参加者から妙な「アプローチ」があってもいけないとの意見が事務局内でも出たようで、審査の公平性を確保すると云う事もあり当日まで誰が審査員なのかは一切分からないようにする事に決めたのと、性別に関しては男性2名、女性2名、そしてもう1名は今のところ性別に関しては「不明」と云う事になっているらしい。

また1次審査の結果を基礎票として得票数に応じて点数を加算するとの事だった。

当日着る衣装に関しては前半部分の衣装は自前で自分が着たいものを用意してくれたらいいとの事で、もし自分では入手困難な衣装を希望する場合は一度事務局に相談して欲しいのと、後半部分で着るドレスに関しては事務局で用意してくれるようだった。

メイクについても自分でメイクできない参加者が大半だろうと思われるのでプロのメイクさんを事務局の方でお願いしてくれているらしく、そちらについては心配しなくてよさそうで日頃から女性用のメイクをしている訳ではなく慣れていない各ファイナリストは安堵していた。

この他本選前に何回かリハーサルがあるようで、結構スポンサーも付いているせいか本家ミスコンに負けず劣らず本格的にこちらの「もうひとつのミスコン」も行われるんだなと和巳をはじめ他の参加者も感じていた。

説明会のあと、さっそく「チームかすみ」の面々が集まって本選への対策会議を開いた。

本選当日は本家ミスコンの前日リハーサルにあたるため、チーム長の美咲や純菜はそちらに出向かないといけないので「もうひとつ」の方は副チーム長としてこの前から参加してくださっている美咲と同学年で昨年のファイナリストでもある藤島実優(ふじしま みゆ)がメインでかすみのフォローに回って下さる事になり、美咲やあずさたちも本家ミスコンのリハーサルが終わって時間に余裕ができたら「もうひとつ」の方を見に来る事となった。

「とりあえずはまずかすみが前半部分で何を着てかすみになるかだね。」そうあずさが切り出して話し合いは始まった。

主催者側はこの前半部分のテーマとしては「普通の女子大生」がコンセプトなのだと思われ、それは後半部分がドレスと云う事からもそうだし、そうなるとなるべく前半はカジュアル、後半はフォーマルと云う感じの服装の組み合わせの方がより後半のドレスが映えそうなのもあって、まずは普通の女子大生がちょっとおめかしした感じの衣装を選ぶことにした。

考えてみればウエブ1次審査に画像を載せたキャンディスリープの白のボウタイブラウスに赤のチェックのロングスカートのコーデもだし、先日着て行った大き目のレース衿の付いた紺のワンピースのいずれも好評で、確かに傍から見てもかすみにはどちらの衣装も似合っていた。

それにかすみはいい意味でのおとなしくて且つ初々しい雰囲気で決して派手なタイプではないからどちらかと言えば清楚な感じを前面に出す方がいいのではないかと云う意見が純菜から出た。

「そうだよね、やっぱりかすみは”清楚なお嬢様女子大生路線”がいいよね。」

「そうそう、体型自体も割と細身でリサイクルショップや通販で買うとしても選べるサイズが全然あるからね。だから清楚系やかわいい系が今までも評判よかったしその路線でいいんじゃない?。」

などと言いながらチームの他のメンバーがあれこれ衣装の品定めをしていたが和巳は横でだまってうなづきながら聞いていた。

ただ清楚系やかわいい系がいいと云うのは和巳もなんとなくそう思っていて、それはあずさが怜奈は1次審査の画像もそうだし、SNSにアップしてある画像全般でもコンサバ系やきれい系を中心に着てアップされていて、多分カノジョの麗美や本人の趣味とかもあるのだろうけど似合っているのもあって本選でもこのコンサバ・きれい系で押してくる可能性が高いからそこはあえて戦略的に別路線で進めたいと云う意見を言ってくれており、確かにそれはあると自分でも感じていたからだった。

なので何か着たい服やファッションについての希望はあるかと一応聞かれた和巳だったが従来通りかわいい系・清楚系でいいと云う事を伝え、具体的な細かい衣装選びやコーディネートは純女のみなさんにお任せすると云う事にした。

それからは本選に向けて慌しい準備の日々が始まった。相変わらずあずさは夜になると和巳の部屋に押しかけてきてあれこれおしゃべりして帰るのだが、その間和巳もあずさと一緒に美顔ローラーで顔全体を撫でながら話にお付き合いするようにしていたし、話す内容も美容全般の事が中心となっていった。

大学に行ったら美咲や実憂に女の子としての仕草やウオーキングの「指導」も受けたり、また本選でステージ上に上がった時に普段の男子の時の自分をステージ上の女装した女の子とのギャップを出すためにスクリーンに写真を大写しにすると云う演出が組まれているようで、その為の和巳としての写真を何枚か撮って事前に提出するよう言われていたのでそれ用の撮影もしていた。

普段の和巳は本当に着るものも髪型も何もかもファッションに関してはおよそ都会的な小じゃれた雰囲気の学生が多く集まるこの渋谷学院大学の学生らしからぬと言われていたが審査に関係する事でもあり、和巳の普段通りの雰囲気は入れながら小ざっぱりした感じも入れて撮影した方がいいと言われ、それを心掛けながら教室やキャンパス内で何枚か撮影をした。

「わーこの子たちきれいねー。」「みんな5人とも振袖よく似合っててすてきー。何かの撮影かしら?。」

本選が2日後と云う日、かすみたち「もうひとつのミスコン」出場のファイナリストの5人が全員振袖姿で都心にある公園で撮影に興じていた。

「ちょっと袂を広げて持ってみて。そうそう、それでそのままくるりと回って帯結びも見せてー。うん、いいよー。きれいきれい!。」

などと言われ写真や動画を撮影するスタッフの求めに応じながらポージングをする参加者たちだったが、ファイナリストが決定後に事務局には本選で是非この女装子たちの和装を見て見たいと云うリクエストが多く寄せられていた。

1次審査の個人ページにはカジュアルとフォーマルのそれぞれ違った服装での女装姿をエントリーの際に載せるようになっていたが、なんと1次審査を通過した5名のうち4名がそれぞれフォーマルのところでは着物で女装した画像や動画を載せていた。

もちろんかすみもバイトでお世話になっている着物屋さんが全面協力してくれたのもあって振袖姿をアップしていたし、怜奈も涼子さんも同じく振袖を着て画像や動画をアップしていてみんなとても似合っていたのもあり、それがまた大好評だった。

すると巷からは「こんなに着物が似合っているんだったら是非本選でも見て見たい」「今度自分も成人式の時には振袖男子として出席を考えているのでその参考にしたい」「カレシと一緒に”カップル振”で成人式に出たいのでこれだけ普通の男子が振袖を着て女装するときれいになれるのならカレシに実際に見せてその気にさせたい」等と云う意見が多く寄せられるようになってきた。

事務局としてもそのような声が多くなっていたのと、主催者側のスタッフ自身も個人的にこの女装子たちの振袖姿がほんとうによく似合っていてパス度もレベルも高かったのもあって本選でも見て見たいと思い始めていたのもあり、何かいい案はないかと考えていた。

そして本選の前半は比較的カジュアルな自分が着たい衣装で後半をウエディングドレスでの女装をすると云う元々の形式と内容は変えず、前半と後半の間の衣装のお召し替えをするためのハーフタイムの時間に予め撮影した振袖姿の写真と動画をステージ上に流して皆さんに見てもらい、それと同時に流したこの振袖姿の画像と動画も審査の対象にすると云う折衷案を思いついたのだった。

ただこれに関して振袖を用意したり着付けやメイクも必要となるのでどうかとは思ったようだったが、コンテストのスポンサーでもあるかすみのバイト先の着物屋さんに事務局が相談すると成人式にカップル振をはじめ振袖を着てくれる男子が増えるのに繋がりそうだと云う事で衣装や仕度を格安で提供してくれ、こうして事前の撮影会が行われる事になった。

大学にほど近い表参道店に集合してメイク・ヘアメイクを済ませ、振袖を着せてもらった5人はそれぞれ色柄が被らないようにお店の方で考えながら選んでくれたその色とりどりの振袖がほんとうによく似合っていた。

エントリーしている女装名が佐々木 千穂(ささき ちほ)と云う女装子は定番の赤の振袖を、そして同じく吹石 里香(ふきいし りか)と云う女装子は上品なうすい紫の振袖を、そして涼子は鮮やかなブリリアントグリーンの振袖を着て撮影会に臨んでいた。

「涼子さんほんとに今日の振袖似合ってるね!。」「いやいやそんなことないよー。かすみさんのその振袖もわたしなんかよりずっと似合ってて素敵だよ。」

そう言うかすみは今日は淡いピンクの友禅の振袖をふくら雀に結んだ帯と一緒に着せてもらっていた。

「わーさすが着物屋さんでモデルのバイトしてるだけあるねー!。」とか「何度も振袖着てるから着こなしも立ち居振る舞いもばっちりだね!。さすが予選1位通過!。」等と千穂や里香にも言われ、恥ずかしいのと少し照れもあり、いつものようにはにかんだ感じでかすみは撮影に応じていた。

これまで予選通過後、ファイナリストの5名は説明会や打ち合わせなどで何度も事務局で顔を合わす機会が増え、お互いにライバルではあるけれどそれ以上に会ううちに同じ女装してミスコンに出ると云う共通点からか打ち解けて仲良くなっていた。

事務局としてもコンテストを盛り上げる為SNSや公式ホームページで準備状況や途中経過をアップするのにファイナリスト5名が女装してまとまって写真に収まる画像が必要だったのもあり、何度となく会ううちに仲良くなっていたのだが、怜奈だけは表面上はホームページに載せる写真が必要だと云う事もあり他のメンバーと仲がいいふりをしていたが、どことなく「わたしはこの子たちとは違うの」と云った態度を見せながら接していた。

確かに怜奈の女装姿はこの中では垢抜けている感じで、今日のこの振袖撮影では黒地に金銀の刺繍が施された豪華な振袖を着ているのだけど背の高い怜奈にはこれがまたよく似合っていて、きれいで凛とした感じはこれが男子だとは思えない位だった。

それ以外にもいつもコンサバ風の服装をしている事が多い怜奈は「おしゃれな20代前半女子」の雰囲気を周りに振りまいていて、洋装・和装どちらでも抜群のパス度を誇っていた。

そして公園での撮影を終え、キャンパスに戻るとちょうどサブステージの設営が終わったところで、さっそくリハーサルを兼ねてステージ上をファイナリスト5人は振袖姿のまましずしずと歩いてみる。

まずは5人揃って一列になってランウェイを歩き、その後は各自ひとりずつ袂を広げたり、立ち止まってポーズを取りながらランウェイを歩いてもらいその様子を明日の本選で流すビデオ画像用に事務局が撮っていた。

「えっと、歩くときは線を踏むように一直線に歩くときれいに見えるんだったよね?。こうかな?。」

かすみもこんな風に着物屋のバイトで教わった事を思いだしながらランウェイを歩き、袂を軽く持ちながら広げてステージ上でくるりと帯結びを見せながら回っていた。

リハーサルを兼ねてとの事なのでまだ本番前ではあるものの、ステージ上には照明が点き、スピーカーからは大音量で和風のBGMが流れている。

そんな中で振袖を着て華やかな姿で袂を広げて踊るようにランウェイを歩いているとかすみは自分がまるで蝶になったような感じに包まれていた。

確かに和巳は女装コンテストでなくても他にもコンテストと云うものにこれまで女装に限らず出た事がなかったので少し緊張していたのだが、それ以上にこうして振袖を着てステージ上のランウェイを歩いていると楽しくてワクワクする気持ちの方が勝っていた。

ひと通り振袖を着てのステージでの動画や写真の撮影が終わり、メイクを落として着替えて解散となった。

今日はバイトもないのでこのまま家に帰るのだけれど、キャンパス内は急ピッチで明日からの学園祭に向けて飾りつけや展示、模擬店の設営などの準備が進められていてとても活気に満ちていた。

明日はいよいよ本選。着替えて和巳に戻ったけれど、先程までのかすみとして振袖を着ていた時の華やかで満ち足りた気分がそのまま余韻のようになっていた。

(つづく)










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