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「お兄ちゃん」

背丈の小さい子供が僕の目の前に立っていた。
誰だろう?弟なんていないはずなのに…。
彼は僕の顔を見上げ、不思議に笑っていた。
何一つ見覚えのない顔。何処となく雰囲気は似ている様にも見えなくはない…。

ただあっけに取られて立ち尽くしていた。

青色のセーターに季節外れな厚手のスウェットパンツ。
少し袖がダボ付いた服を身につけて静かに微笑んでいる。

「君は…」

そう口を開きかけた時
僕と背丈の変わらない男の目が真っ直ぐ両目を見つめている。

「お前さえいなければ」


目が覚めると夜中の3時を回っていた。
酷く寝不足で布団もかけずに床で寝ていたらしく、身体のあちこちが痛い。

記憶にない男の声にすっかりと眠気が覚めてしまったらしく、どうにも寝付ける自信がない。

「あの男は誰だったんだろうか?」

酷い頭痛がする。ただこのまま眠れれば楽になれるのだろうけど、もはやもう眠りにつきたいとは思えない。

コップに冷たい水を注いでリビングの椅子に腰掛けた。
6月も回ったというのに夜中は幾分冷える。
全くいつになったらこの寒さも収まるのだろうか…。
まぁこんな夜中にエアコン一つつけなくてもいいだなんて、贅沢な話なんだろうけど…。

しかしあの男は一体…。
記憶の断片を辿るように、僕は静かに目を閉じてみた。
シーンと静まり返る薄暗い空間が嫌に冷たい感じがする。
それなのに僕の背中にはじっとりと汗がにじんで来た。
いつか変えようとそのまま10年以上使いっぱなしの冷蔵庫が悲鳴を上げている。
時折その音で目が覚めるので、そろそろ変えようかと思うけれど、愛着があるし、何よりも面倒くさい。
どうせ電気量販店を回る羽目になるだろうし、積み込みも自身で行うとなるとどうしても億劫なのだ。

僕は酷く頭痛のする頭を中指の第二関節でグリグリ押しながら考える。

「僕には弟などいない筈」
「なのに何故…。」

無邪気に笑うあの子の姿。
何処かで見たようにも感じる...。
だけど思い出せない。


「お前さえいなければ」

ああ酷く頭が痛む。なんだってこんな夢を見なければいけないのだろう…。一体僕が何をしたって言うのだろうか?

より一層強くなる異音。

終いにはガタンガタンビーーーーという音を立て始める。

そろそろ潮時か…。

冷蔵庫の隅を軽く小突いて黙らせる。

「頼むからあと2年は持ってくれよ…」



僕は以前noteで自分の過去を語った記事があります。
そこで僕には腹違いの弟がいるという話をしました。

ちょうど今日その子?の夢を見たんです。

ただ僕自身は彼の顔を見たことがありません。
もしかすると実際に会っていたのかもしれません。
もしくはただすれ違っただけなのかも、ふと自分の視線に映った程度なのかもしれない。

ただその事実をハッキリと知ることになったのは、実はここ最近のことだったんですが…。


母親からその事実を知らされた時は、驚きと反面やっぱりな...。という気持ちで半々でした。

子供ながらなんとなく両親に対する違和感と言うのを感じており、思えば過去を遡ると不自然な点がいくつかあったのを覚えています。

クリスマスの日に妹と母親三人で迎えたこと。
何故か生まれ育った場所からわざわざ遠い地へと引っ越す事になったこと。
時折父がいなくなっていたこと。
母が不自然に機嫌が悪くなったこと、悲しそうな顔をして一人で座っていたこと。
そして引っ越した先でみたあの光景。大量のおもちゃとゲームが目の前で大きな炎に包まれていた光景。

子供ながら薄々と気づきながら、敢えて目を背けようとしていたこと。現実から目を背け子供らしい無邪気さで誤魔化していたこと。

僕はなんとなく気がついていながら、知らないフリをしていた。いや敢えてその現実から目を背けようとしていたのかもしれない。

父との関係は良好だった。
別になんの問題もなかった。
普通の父親であったし、暴力も酒もタバコもしない。
思えば僕は恵まれていた環境にいたと言えるだろう。
何一つ家族間で問題など起こらなかった。

それは多分母親が敢えてその現実を隠しているからなのだろうか?それとも僕が敢えて知らないふりをしていたからだろうか?幸運にも妹はその事実を一切感じることなく今まで過ごしていたのだそう。

結局僕自身その件について考える事を辞めていました。
どうしたって現実など変わるはずもないと思っていたし、敢えて息子である僕がほじくり出す問題ではないと思っていたから。

でも今晩見たあの夢のせいで
ふと顔すら知らない弟の存在について考える様になっていたんです。彼は元気で生きているんだろうか?何か問題を抱えていないだろうか?物心がついた頃から自分の父親は去ってしまって、寂しい思いをしていないだろうか?と

かと言って僕がその話題を出す理由にはいけないでしょ?
それこそ傷口に塩を塗るようなものだからw
だから余計やるせないというか、その思いが強くなるんです。勿論僕の存在も妹の存在も知っているだろう。
残された側と現在進行系で幸せに暮らしている側と。

今彼が何処に住んでいるのかは知らない。
というか彼の母親でさえ顔すら見たことがない。
もしかすると何処かですれ違っていただろうか?
僕たちは会話を交わしたことがあるだろうか?
直ぐ側で顔を合わせて座っていたかもしれない。

お互いがお互いを知らないまま
時だけが無情に流れる。あの時一瞬だけ目にした姿。
彼はきっと僕とそこまで年齢に差はないだろうと感じたあの姿。僕は気がついていないだけで、彼はしっかりと僕の姿を見ていたのだろうか?
ずっと僕の面影を覚えたまま、ずっと僕の姿が目に焼き付いたのだろうか?手を引かれて嬉しそうに歩く僕の姿を。


どんな人間になったかも、どんな暮らしをしているかわからない。名前も姿もその全てがわからない、血の繋がった弟。

ただ僕が言いたいのは
何が起きても、これから先何があったとしても
強く生きて欲しい。
まぁ余計なお世話だろうし、そもそも僕の事なんかどうでもいいと思ってるだろう。そんなのわかってはいるけれど、もしこんななんのヒントもない。詳しく書かれていないこの記事を見て、もし自分のことだろうか?とピンと来たなら僕の言葉を聞いてほしいと思った。

夢の中の様に僕を憎んでいたとしてもそれでいい

ただどんな感情であれ毎日を楽しく幸せに生きていけれるように一日一日を大事に生きてくれよ。

ああそれと親父もなんだかんだ頑張って生きてる
相変わらず阿呆な所は変わらんけどな。そこがだらしなくなきゃいい親父だよ。きっとあんたの事も大事にしてくれただろうな。


それでは顔も姿も知らない弟
強く生きろ。あ、それとメタルは好きか!?

メタルはいいぞーー🤟

では。


そうそう一応電気量販店へ足を運んでみたんだ
やっぱり冷蔵庫なんかいつぶっ壊れるかわからないでしょ?この記事も所々休憩しながらゆっくりと書いたんだよ。全く…。外にでも出ないとどうも鬱憤が溜まってね。

結局電気量販店を回っても良さげなものはなかった。
しかもクソ…。こんな重たいものをどうやって一人で運べば良いんだよ…。

こんな時に男手一人いりゃいいのにな。
あんたみたいな男がね。どうせ僕に似て身体だけはしっかりとしてるんだろ?

夢に出て悪態をつきに来んなら
せめて今日くらいは手伝いに来てもいいのにな…。


幸せに生きろよ。


余計なお世話かもしれないけど…。


兄より…。

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