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晴れた山道とStory of the yearとスクールバスでの思い出

昨日の大雨とはうって変わって、今日はとっても気持ちが良い陽気。踊り出したくなりそうな衝動にかられながら、今日は車を走らせる。長ーい長ーいカーブを抜けると、かっと眩い外の光が飛び込んで来た。

僕の耳に取り付けられたイヤホン。最近買ったワイヤレス。耳にしっくりと来て音も悪くない!最近の中でかなりいい買い物が出来たとご機嫌な僕はイヤホンを耳につける頻度が多くなった気がする。

そんな陽気の中で僕は好きな音楽をシャッフルしながら聴いていた。流れてくる懐かしいメロディーや最新のメタル。それもなんか今の気分に合わなくて、流れては送ってを繰り返していた。


爽快なアコースティックギターの音にメランコリックな効果音。非常に今の陽気にぴったりな音だった。
流れる小川を目にしながら懐かしい気持ちになっていた。

「そう言えば昔の仲間たちは元気にしているだろうか?」

どんなに月日が経っても、どれだけ印象が深い経験をしようとも常にあの時期の思い出は僕の心に強烈に刻まれている。

ここの山中もだいぶ澄んでいるのだが、僕のいたあの場所はもっと澄んでいた。冬は馬鹿みたいに寒いが夏は涼しい。僕はそんな気候が大好きだった。


バンクーバーの北側。僕らの済む学生寮には多くはないが気の知れた友人たちの溜まり場の様な場所だ。
彼らは非常に分かりやすい連中で、嫌な事と好きな事では態度が恐ろしく変わってしまう。というのも朝の殺伐とした雰囲気の中では彼らはもはやどんな感情すらも発することが無くなってしまう。
朝方のスクールバス内では会話は疎か、言葉一つすら発しない。まるでこれから葬式にでも行くかの様なムード。全くと言って生気を感じない。

だがどうだろう。学校が終わりスクールバスに集まる連中はまるでこれからパーティーにでも行くかの様なテンションの上がり様。指定の制服など着崩してあり、もはや原型すら留めていない。一人一人バスに入るごとに騒ぎが大きくなる。ノリで生徒間のリーダーを務めていた僕は、そんな生徒の騒ぎを止めなければいけないのにも関わらず。誰よりもテンションが上がっているので、多くの生徒は僕の行動に注目をしていた。運転席に座りバスをいじくり回す、そんな馬鹿な事をしていると決まって寮長は呆れた顔で笑っている。生徒の気持ちを理解し、差別もなく、かといって特別視もしないとてもフラットなナイスガイ。

僕らは皆彼が大好きだった。
騒ぎに火を注ぐように一緒に楽しむ。寮に着く前に買い物を提案したり、スターバックスでお茶をしたり兎に角帰りの時間が待ち遠しかったのだと思う。僕たち皆夕方になるにつれて気持ちが浮き立っていた。

丁度今頃の陽気だっただろうか。
騒ぎを大きくする主犯だったのに関わらず、バスの乗り込むと決まってIpodにイヤホンを挿して音楽を楽しむ。
僕の近くの部屋の友人と交換しあったCD。Story of the yearのAnthem of our dying dayは僕にとってお決まりの曲だった。何処か切なくて何処か甘酸っぱい様な青春を感じさせてくれる曲。

曲もいいムードになる頃に必ず僕のイヤホンを奪う奴。
僕にボールを投げつけて笑っている奴。

「折角いいところだったのに…」

と結局それから音楽なんて聴く暇すら与えてくれなかった。

でも窓を全開に開け放って、夕暮れ時の爽やかな風にあたった時の幸福感は今でもはっきりと思い出す。
僕はその時に必ず思っていた。

「このままずっと時が止まればいいのに。」
「ずっとこの世界にいられればいいのに。」

寮についても騒ぎは収まらず
部屋割などぐちゃぐちゃになるほど、バラバラに生徒たちは集まっている。夕食を食べに向かう者や、卓球をしている者、何故か何処かに出かけている者もいた。

僕にとってあそこは家も同然だった。
一人大人しく出来る時間は無かったけど、寂しさなんてものには無縁だった。笑っていなかった日はなかったし、楽しい事以外の記憶が全くなかったと思う。


「今どうしてるんだろう?」
「もう既に家庭を持っているやつもいるだろう」

そう考えた時に、本当にこれは僕の経験したことなのか?とも思えてくる。まるで間逆な生活を余儀なくされていた時期。閉鎖感と憂鬱とでおかしくなっていてた時期。
人生谷を経験してその後山を経験した。そんな時期を照らし合わせるとまるで現実味を感じなくなる時がある。

本当に記憶が断片的にすっぽ抜かれている様に感じる。

でもどんな時期も紛れもなく僕が経験したものだろう。
楽しい時期の後にその反動であの時期があったにせよ。
僕はその全てを受け入れていかないといけなかった。

そして今日その思い出を強烈に思い出す事になるとは思わなかった。帰国後も楽しい事はあった、忙しい中で見つけた趣味もあった。でも僕の心に強烈に張り付いて離さないのは、あの春風の爽やかさと、スクールバス少し埃っぽい匂いと、あのやかましいはしゃぎ声だった。
きっと僕は記憶を無くしたとしても、この曲を聴いただけで全ての記憶を思い出せるに違いない。

Anthem of our dying day(僕たちの死ぬ日のアンセム)なんて少し縁起が悪いから、Anthem of my beautiful day(僕の美しい日のアンセム)に変えてみる。

うん、こっちのほうがしっくりと来るよね?

僕の人生の中で最も楽しくて美しかった思い出
嘘のようで本当の物語。


もう一度あの場所であの時間に戻れたらなぁ
まぁ死ぬほど寒い冬はまっぴらごめんなんだけど…。

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