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ハジマリハ深い谷底から 一章 継承者ーー⑬

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一章 継承者ーー⑬

「あんまり深刻になんなくても良いじゃないんすかね? 人間死ぬときは死ぬし。副隊長が居れば事が起きても生きて帰れるっすよ――無敵の英雄(ヒーロー)なんすから!」
「茶化している時では――はぁ……某の負けでござる。確かに比良坂殿が居れば生きて帰れそうな気がするでござるな」
 深刻な雰囲気を和ませるよう言う柴臣に、観念したのか徳田はため息交じりに述べる。

「なら、全員参加で良いか?」
「はい。詳細をお聞かせ願えますか? それと秀吉。次妙な事言ったら殴るからな」
 念を押す私の問いに、比良坂は頷き問い返しつつ柴臣を恫喝する。比良坂は英雄と呼ばれるのが嫌らしい。
「ちょっ理不尽っすよ副隊長!」
「あーあ地雷踏んじゃったね。秀吉君」
「和むのは良いが、そこまでにしてくれ。話を進めるぞ」
 柴臣と小野の言葉に私は空気を引き締めるように述べ、手元の端末を操作してプロジェクターを起動。部屋正面に用意したスクリーンに、樺太からラシア大陸沿岸部の地図を映しだした。それに反応して5人もスクリーンに目を向ける。

「岩下司令からの情報はこうだ。今年の7月、スラビア連邦と東部方面軍団の共同防衛基地であったロブスク基地が、幻獣の大攻勢にあい壊滅。基地を放棄して撤退していた残存戦力は、その後方にあるニーヤ防衛線に辿り着く前に消息を絶った。恐らく全滅したのだろう。さらにその数日後、ニーヤ防衛線に幻獣を観測。同様の大攻勢に防衛線も数日で崩壊。防衛線の残存戦力はネフラスカ基地に通報。樺太防衛基地は緊急迎撃態勢に移行。現在樺太で防衛戦闘が実施されている事が予想され、東北要塞は近く内閣に緊急閣議を招集するらしい」
 私はそう喋りながら、順に地図上の基地に、マーカーと幻獣の侵攻ルートを書き足していく。

「岩下司令からはこう伺っているが、徳田。お前ひょっと俺達より詳しいか?」
「それは……」
 徳田に目を向け問う私に、徳田は答え辛そうに言葉を濁す。やっぱりか、そうすると、いよいよ奴らとの戦闘が現実味を帯びてくる……どうしたものかな。
「なあ、信康。俺はお前の答えをまだ聞いてないが、どうするんだ?」
「別に良いんじゃねえか? 退職しても。俺達は責めねえよ」
 答え辛そうにする徳田に、比良坂と織田がそれぞれ目を向け、それとなく背中を押すような口振りで述べる。私も無理強いする気はない。誰だって戦いたくないし逃げれるなら逃げたいに決まっている。逆に、私のようなありもしない使命感を感じて戦うこと自体が珍しいのだ。

「――比良坂殿、某は其方に見抜かれたあの時から、其方に身命を捧げると誓ったのでござる。其方は拙者の主なのでござる。その主が行くと言っているのでござる。何の迷いが御座ろうか! 拙者皆と共に奈落の底まで付き合い申す!」
「なんすかね。信康さんの武士語を聞いていると、冗談なのか本気なのかよくわからないっすよね」
「秀吉殿ぉ。某至って真面目でござるぞ」
 徳田の歌舞伎じみたセリフ回しに、柴臣が冷ややかにツッコミをいれる。まあ、こいつらにはこいつらの歴史があって今に至っているわけか。いつか聞いてみたいものだな。こいつらの訓練生時代を……
 

次回に続く


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