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ハジマリハ深い谷底から 一章 継承者ーー⑭

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一章 継承者ーー⑭

「わかった。なら、知っている事があるなら教えてくれ」
「あいわかった。某の情報網というより、試験期間中の天照による樺太の観測結果によると、既に幻獣に半島の半分近くまで幻獣に侵攻され、戦線は北海道側に縮小しつつあるでござる。投入されている航空海上戦力も50%近くが失われ、某の家族曰く突破されるのは時間の問題だろうと……」
 比良坂の問いに、徳田はやや躊躇いがちに情報を公開する。天照。現在国連で改良が進められているGPSシステム一種で、その改良を引き受けているのが徳田の軍需財閥というわけか。なるほど、軍より先行した情報を受け取れるわけだ。ということは、一応東北要塞にも、情報は提供されているとみて良いだろうな。

「そうか……わかった。まあ、どの道お前達には、後方の基地守備に回れるように働きかけるつもりでいた。だから、お前達が戦うのは俺達が敗れた後だ」
「――それは、稚内基地で再編制されるという事でしょうか?」
 私の言葉に比良坂が怪訝な顔で問う。合流してみないとわからないが、恐らくそうなるだろうな……
「多分な。私の元上司が稚内基地には居る。その人はそれなりに仕事を押し付けてくる人だから、お前らに飛び火しないようにはするさ――いざとなったら逃げろよ。お前らはまだ死んで良い人間じゃない」
「それは、小隊長も同じです。死んで良い軍人なんていませんよ」
 私の親切心にも似た言葉に、比良坂は被りを振って答える。世界が滅びかけている状況でそんな簡単に軍人は死ぬわけにはいかない。しかし、現実は湯水の如く死んでいく……避けられない運命なのかもしれない。世界が滅ぶのは。

「いかんな。徳田の調子にあてられてしまったか……」
「とりあえず信康。悲観禁止な」
 私の冗談に続いて織田が冗談交じりに徳田を指さす。
「なっ、ちょっ某は……まあ、今回は引き下がっておくでござる」
「話が逸れましたが、小隊長。我々はこれからどうするのですか?」
 反論したそうな徳田がぐっと堪える中、比良坂が話を戻すように質問する。
「戦略機に乗って速やかに稚内基地に赴く。岩下司令からは好きにしてかまわないと言付かっている。従って専属の整備班と90式戦略機を持っていくが、その前にまだ伝えておく情報がある」
 比良坂の質問に私はそう答え、プロジェクターの映像を切り替え、3種類の幻獣、タウロス型、オーガ型、蜘蛛型を映す。

「この幻獣がどうしたんすか?」
「今更だろうが、復習みたいなもんだ。タウロス型は鬼が巨大化したような姿をしているが、動きは鈍重。ただ、相応の火力を有しているから気を付けろ。蜘蛛型は言うまでもなくハエトリグモのような姿をしている。だが、こいつ厄介な点は小型幻獣のキャリアーという点だ。おまけに長距離の機関砲を有している。大体は群体の先頭に陣取っている事が多い。可能な限り優先的に撃破しろ。小型幻獣は普通科の連中でも荷が重い。出させない事に越したことない。最後にオーガ型だが、牛の化け物であることは見たらわかるが、こいつらは俺達戦略機乗りの最優先ターゲットだ。機動力が尋常じゃなく、戦車の火砲を食らっても止まる事はない。こいつらは、群体の最後尾に陣取っている事が多いが、一度突撃を始めたら防御陣地が、恐ろしく簡単に粉砕される。機動力が劣る車両の類は撃破する以外なす術がない」
 柴臣の問い無視して私はそう解説する。

「今さらではありますが、こいつらに海上は意味がないのでしょうか?」
「恐らくな。水上を普通に歩いているんじゃないか?」
 比良坂の質問に私はそう仮説を述べる。どの幻獣も陸上生物を模している。海中を歩いて渡るか、水上を滑走するかのどちらかなのだろう。樺太が既に戦場になっているという事がそれを裏付けている。
「でも、どうせならもうちょっと可愛げがあって欲しかったね」
「何か? 水が苦手とかか? だったら島国はある意味無敵じゃねえか」
 小野の冗談に織田が苦笑交じりに言う。まあ、気持ちはわからんでもないが、その場合は恐らく空を飛んでくるだろうな……

「こんな所だ。では、各員私物をまとめ次第、ハンガーに集合。揃い次第稚内基地に向かう」
『――了解』
 私がそう告げると5人は立礼。会議室からの退室を確認して、私は機材の片付けに入った。さて、稚内基地は今どうなっているだろうか? 戦力が集まっていれば良いが……
 

鋭意製作中につき更新は一旦ここで終わります

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