幻獣戦争 1章 1-1 再起する夕暮れ③
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序章 1章 1-1再起する夕暮れ③
「……だろうな。私も君と同じ心境なら同じ事を言うだろう」
わかっている。そう勇司は疲れた素振りを見せ言葉を紡ぐ。
「あんたも疲れているんだな」
「君ほどではないがね」
俺の同情を勇司は軽く返し肩をすくめてみせた。
「それで結局俺はどうなるんだ?」
「まあ、待ちたまえ。現在の幻獣戦争において君は文字通り表舞台の英雄だ。この事実は生きている限りずっと多くの人間の胸に残り続ける」
改めて答えを促す俺を制止して、勇司は何処か褒めたたえる弁舌を披露し見つめる。
「嫌な事実だな」
「対して私は裏舞台の英雄なわけだ。世界の裏側で数々の事件を歴史の闇に葬ってきた……ああ、間違えないでほしい。別にダークヒーローを気取るほどねじ曲がってはいない。君の心境がわかる程度の同じ裏側にいるだけの英雄さ」
俺の嫌みに頷き私は味方だと勇司はおどけてみせた。何が言いたいんだ?
「なんだ、恨み言でも言いたいんじゃないのか?」
「いいや、むしろ同情している。私はまだ君ほど疲れていないが、仲間からの信頼は重荷だろう?」
俺は探りをいれるように問うが、勇司は被りを振って応じる。この男も理解しているのだ。英雄の苦悩を。
「ああ。なぜ皆俺達を残して逝くんだろうな」
俺は昔を思い返し呟く。在りし日の光景、仲間と共に戦った時間。俺は戦場で泣き、苦しみ、喜びを分かあい、色あせない大切な思い出の殆どは戦場と共にあった。
が、それもすべて戦場で失った……残された俺にこびりついているのは、仲間との約束と願いだ。俺は何をしているんだろうな。
「そうだな、それについて気づいたことがある」
勇司はそんな心情をおもんぱかっているのか、沈痛な面持ちで言う。
「何にだ?」
「皆私達と同じように鬱病なのだろう。鬱状態ではなく躁状態のな。だから、自分の行動に酔って死んでいったんじゃないか。とな」
俺が訊き返すと勇司はふっと笑い答えた。こいつは何を言っているんだ?
「ふふふ……はっはっはっは。なるほどな!」
「そう、まだ君は生きているのだ。もっと笑うべきじゃないかね?」
突拍子もない勇司の回答に笑ってしまった俺に、勇司は少しまじめな顔をして問う。
「かもしれないが、戦友の死が俺から笑みを奪っていったんだろうな」
「そうだな、私もそうだった……どうしようもなくなったら女を抱くと良い。気持ちが幾分晴れるぞ」
ひとしきり笑い寂しく答える俺を勇司は静かに言い微笑む。こいつ相当な色男だな……
「女ねぇ。実はあんた裏で随分と良い思いしてきたんじゃないか?」
「よく言われるがそうでもない。しょっちゅう死にかけて、同僚に『あいつは大丈夫だ。脱出するぞ!』といった感じで見捨てられ帰還すると、知らないところで一緒に組んでいた同僚が死んでいてな。本当に始末に負えんよ」
俺が茶化すように言うと何処か拗ねたように勇司は答えた。その様に俺は納得する……やっぱり同類なのか。
「すまない。それを聞くと笑えてきてしまうのだが」
「ふふ、そうだな。お互いに愚痴で盛り上がりたいところだが本題に戻ろう」
その姿が浮かび笑えて仕方がなく、精一杯堪えながら答える俺を勇司はふっと笑みを浮かべ改めて提案する。
「ああ。それで俺の処分は?」
「上層部は君に対しての処分は下さない事を決定した。しかし、74式に乗って戦うように扇動した天宮麗奈陸将補は、民間人を扇動したとして降格処分を下される」
俺は簡潔に結論を促すように質問するが、勇司はあっさりと答える。
「そうか……まあ仕方ないな」
「肝心の君の処遇だが、上層部は現隊復帰を希望している」
俺が頷くと勇司は続けて選択権があるように述べてきた。
「やっぱそうなるのか……」
「そうだ。君が退官してから戦況が著しく悪化している。特に東北、関西は自衛軍の損耗が激しく、学徒動員を真剣に検討している動きがある」
困惑する俺の反応は折り込み済みのようで、勇司は淡々と言葉を続ける。退官してもう4年になるのに今更復帰を求められてもなぁ。
「冗談だろ! 国連軍を頼れよ!」
「正確に言うと頼っている。それでも足りない。というよりかは、どうも自前で何とかしたいという腹積もりがあるようだ。こちらの件は私が責任をもって潰すので心配はしなくて良い」
馬鹿じゃねえか! と、声を荒らげる俺に、勇司はわかっていると同意交じりに答える。自衛軍の唯一良い点は志願制という点だ。それ潰して徴兵ではなく学徒動員をするなど許されて良いわけがない。
「……あいつなら英雄になれたはずだったんだがなぁ」
「麗奈君はよくやっている。君と同じように各地を転戦していくつもの戦果を上げている。だが、彼女には欠けているものがある」
俺は天宮のことを思いながら呟く。それを察してか勇司は頷きながら指摘する。
「精霊か」
「そうだ。君を失ったことにより彼女は悪しき夢に引っ張られている」
俺が指摘返すと勇司は頷く。俺のせい……いや責任問題か?
「そいつは最悪だな」
「そうだ。これは私に協力してくれている精霊からもたらされた情報だ。間違いではない」
俺は気づいていない素振りを見せ答える。しかし、勇司は気にせず淡々と続けた。
「だからあんたも俺を復帰させたいと?」
「違う。正確には私と一緒に復帰してもらう」
俺は意を決して問う。すると勇司は軽く否定し宣告した。
「おい、まさか――」
「既に上層部には君を司令とした部隊再編を具申した。その部隊には私も含まれている」
俺の言葉を遮り勇司はさらに続ける。
「……あんた何をする気だ?」
「英雄がすることは一つしかない」
俺は呆気にとられ訊き返すのが精一杯で、訳が分からなかった。民間人を将官に復帰させるとはどういうつもりだ? そんな俺に勇司は至って真面目に断言する。
「冗談だろ。あんた本気で世界を救えるとでも思っているのか?」
「無論だ。君もそうだったのだろう? 比良坂陸将」
そんな俺に構わず勇司は真顔で答える。こいつ本気だ。
「道理で軍籍が残っているわけだ」
「今回の件で君はまた昇進する。そこに元部下、元幕僚が君の下に再び集う。今回は私も参加する。政治、事務方は任せてくれたまえ」
俺は諦め交じりに呟く。74式に乗った時から嫌な予感はしていた……が、これは最悪だ。勇司はうなだれている俺を尻目に胸を張る。頼もしい限りだ。大体こういう場面では大概のやつは胸を張るんだよ――で、その後で化けの皮が剥がれて結局全部やる羽目になるんだよなぁ……本当に大丈夫なのか?
「昔のような不都合は起こさせないと?」
「勿論だ。それに、表と裏が手を結べば最強とは思わないかね?」
「最強どころか反則だろうよ」
確認するように問いかける俺を勇司はわかっていると言いたげに答える。俺はあまりの劇的な修正具合に茶化すことが精一杯で、もしかすればこれは精霊の仕業かもしれない。そんな考えが脳裏をよぎった。
「それにだ。4年も休暇を貰えば十分ではないかね?」
「あんたにそれを言われると何も言えねえよ」
勇司のトドメとも言える問いに、俺は軽く拗ねる事しかできなかった。
次回に続く
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