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ハジマリハ深い谷底から 一章 継承者ーー⑦

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一章 継承者ーー⑦

 懐かしい夢を見た。最後の家族、祖父が亡くなった日の事だ。10畳の居間に敷かれた布団に眠る祖父の横に、俺は何も出来ずただ座っているだけだった。数日前から体調を崩し懸命に看病を続けていたが、祖父の体調は快方に向かうことなく眠り続けていた。往診に来ていた医者が診察した時は、快調だったというのに容体が急変したのだ。
「……あまり、良い人生ではなかったなぁ」。
「ごめん……祖父ちゃん」
 目が覚めたのか、しわがれ声でポツリと呟く布団に横たわる祖父に、当時の俺は自分の事だと思い、目覚めた祖父に目を向け咄嗟にそう声をかけていた。

「違う……違う。早とちりするでない」
 祖父はそんな俺の言葉に驚き、柔和な笑みを浮かべ、しがれた手で俺の頭を撫でそう答える。
「……娘に先立たれ、婿入りしてくれた息子に先立たれ、婆様にも先立たれてしもうた……本来なら年長者であるワシが、一番先のはずじゃというに……神様という奴は本当に残酷じゃ」
 俺の頭を撫でながらそう嘆き、目を見開き祖父は俺を見る。
「すまんなぁ。お前が任官するまで見守ってやりたかったが……どうも無理のようじゃ」
「祖父ちゃん……」
 申し訳ないのかしわがれ声で囁く祖父に、幼かった俺はそれ以上言葉を紡ぐことが出来ずにいた。何となく今わの際だというのが分かってしまい、俺は悲しくて……悲しくて、一人になるのが嫌だった。

「すまんなぁ……婆様もワシも、お前に戦う術しか教えてやることしか出来なかった……世が世なら、もっと他の道があったというに……本当にすまん」
 そんな俺に、祖父は俺の頭から手を放ししわがれ声で謝罪する。そんな祖父に俺はただ黙って首を横に振るしか出来なかった。
「……幻獣に倅を、娘を殺されておるというに、お前まで士官の道に進ませてしもうた……のう、舞人。ひとつ約束してくれんか?」
 祖父はしわがれ声でそう続け手を差し出す。俺は手を握りこう訊ねる。
「何を?」
「――■■■(長生き)■、■■(してくれ。)■■。ワシと同じくらいな……この先、お前は一人になる。じゃが、ワシらは何時もお前の傍に居る……見えなくとも、忘れるな……生きる事を諦めるんじゃないぞ……ワシらの可愛い――」
 
《――可愛い、孫よ――》
 

「……爺ちゃん。俺はどうすれば良いんだろう?」
 目覚めた俺はベッドから半身を起こす。爺さんが亡くなったあの日、爺さんはとても大事なことを残してくれたような気がする……爺さんは何を残してくれたのだろうか?
 

次回に続く


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