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ハジマリハ深い谷底から①

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序章 生かされた理由

 ――閃光が舞い、土砂が弾ける。黒く焼け焦げ抉れている地面は、淀む灰色の空と相まって昼間にもかかわらず夜を錯覚させる。鳴り止まぬ風切り音は、骸と化した機械の弔電となり、終わらない砲火の応酬が敵を吹き飛ばし、味方を吹き飛ばす。

 ラシア大陸ロブスク基地。ラシア大陸東部沿岸部近く、スラビア連邦軍と自衛軍大陸東部方面軍団との共同防衛基地であり、敵幻獣を食い止める最前線。

 基地西方の平原だった大地に要塞の如く張り巡らされた防御線の最後衛には、自衛軍とスラビア連邦のMLRS車輛が並列し、その前方にムスタ152ミリ自走榴弾砲と、99式155ミリ自走榴弾砲が並列し火力支援陣地を形成する。

 その前方には塹壕線さながらの突撃防止柵と、黒く焼け焦げた地面に車体を潜ませる、10式戦車とT―90戦車が並列する防御陣地が厚く広がり、さらにその向こう。

 最前衛は遮蔽物代わりに掘られた10メートル程度の深さがある塹壕線と、盛土の山が幾重にも広がり、最新型の10式戦略機とT―90型戦略機が、塹壕に身を潜ませ幻獣と砲火を交え戦う。

 飛び交う閃光の応酬は幻獣を消滅させ、戦車を吹き飛ばし、航空支援を行う戦闘ヘリを撃墜する。雲の上に延びる閃光は、雲の中から飛来するミサイルとすれ違い、地上に群れる幻獣を破壊し、雲間から漏れ出る赤い閃光が走り、燃える戦闘機が落下する。

「戦略機連隊本部。第4戦略機中隊立花二尉、送れ」
「了解。回線開きます」
 本部から通信に私は通信回線を開き、コックピットモニターの一部に連隊長の顔が表示される。

「立花、そちらの状況はどうだ?」
「幸いな事に火力で敵幻獣を抑え込めている状況です。損害はありません。皆意気軒昂です」
 渋いやや疲れ気味の顔色が窺える連隊長に、私は整然と答える。こちらの状況を問うという事は、新たな作戦が発令されたのだろうか?

「うむ。そうか……立花、貴官らに頼みたい事がある。聞いてくれるか?」
「はい」
「現在、展開中の防御線右翼に幻獣の攻勢が集中し始めている。この状況を打破、というよりも、司令部はこの中に敵幻獣の本体が潜んでいると判断したようだ。貴官ら左翼防御線に展開する戦略機部隊は、この場を一旦機甲特科部隊に任せ、右翼防御線に集中する幻獣群を横から突き崩し包囲殲滅せよ。との事だ。隣のスラビア連邦エインヘリヤル大隊とうまく連携してくれ。質問は?」
 私の頷きに連隊長はコックピットモニターに戦域図を表示。矢印を加えながら、作戦の概略を説明する。

 今いる塹壕を出て右翼側面を突けという事か……戦略機部隊にしかできないが、誰か死ぬだろうな……
「我々の突撃に対する支援はありますか?」
「司令部直掩の航空戦隊と特科大隊から抽出する。これで足りるか?」
「十分です。感謝します」
「……すまん。頼んだぞ」
「了解」 

 私の頷きに連隊長は、未来を予想しているかのように顔を曇らせ述べると、通信を終えた。あの渋い連隊長の顔も今日が見納めかもしれないな……私は無線回線を開き各員にこう告げる。

次回に続く


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