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ハジマリハ深い谷底から 一章 継承者ーー⑨

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一章 継承者ーー⑨

「そうそう、俺はやめた方が良いって止めたんすけど、信介さん副隊長達の昼食に薬盛ったりして――もう、見事に返されちゃって……臭かったなあ」
「あの時は舞人が食べるなって皆に言って事なきを得たんだけど、教官達も巻き沿いくらってて面白かったなぁ」
「――はっはっはっは! あれは痛快で御座ったなあ。教官達の何人かトイレから出てこれなくなったのも可笑しかったでござるが、騎馬戦の最中に織田殿が派手に漏らしたのは、生涯忘れないで御座ろうな」
「馬役やってた俺達は堪ったもんじゃなかったすよ。本当! 戦う前に騎馬が崩壊するするし、大便まみれになるわ。本当最悪だったっす」
「ぶっはははは。お前ら面白い事やってるな。ははははは!」
 柴臣達の唐突な暴露に、私は堪らず笑い声をあげてしまう。騎馬戦の最中に腹を下すとは、語り継がれる不名誉な歴史になっているだろうな……

「まあ、とれる手段が限られていたからな。俺はそこまでしないだろうと信じてたんだが……本当にやられるとは思わなかったよ」
「舞人殿は念ためと言っていたでござるからな。しかし、本当に楽しかったでござるな……織田殿お陰で」
 思い返すように言う小野の隣席に座る比良坂に徳田が懐かしむように続ける。
「俺は――ちょっと辟易してるがな」
「まあ、織田君は兎も角、部活の助っ人祭りだったもんね」
「しかも全部それなりに活躍しちゃうから、女の子からモテモテで羨ましい限りだったっすよ! 本当嫉妬に狂うっすよ!」
「あははは。でも、舞人かなり迷惑してたんだよ?」
「まあな……」
「……なあ、そろそろ演習に戻らねえか?」
 困り気味に答える比良坂に続いて、さらに居心地が悪くなっている織田が遠慮がちに提案する。触れられたくない過去を暴露されて、さぞかし居心地が悪いだろうな織田は……しかし、どうする気でいるんだ? さりげなく視線を比良坂に向けると、比良坂は端末を凝視していた。期待しているぞ……

「それもそうでござるな――織田殿、あまり調子に乗るともっと広げるでござるよ?」
「てめぇ、脅す気か!」
「はぁ、信介さん。また負けるっすよ」
「あははは――それで、舞人どうするの?」
 徳田達の軽口は軽く笑い受け流し、小野は比良坂に目を向け問いかける。
「ん? 何がだ?」
「ただやられていたわけではないで御座ろう?」
 小野に目を向け問い返す比良坂に、徳田が核心を突くように訊く
「ああ。そっちの事か、小隊長。編成は自由にしてよろしいですか?」
「かまわんぞ。条件は変えるなよ」
「了解――秀吉。信介のカバーに専念して良いぞ。お前達のフォローは俺がする。一樹は俺のフォロー。信康は全体のカバーを頼む」
 私の回答に比良坂は頷き、柴臣に目を向け指示する。もしや、織田と柴臣を攻撃に専念させる気か?

「――本当に良いんすか?」
「お前の動きが鈍かったのはこっちのフォローを念頭にいれていたから、だろ?」
「そっそうっすけど」
「だから、しなくて良い。お前らの持ち味を生かせ。それ以外はこっちで何とかする」
「……おい、本当に良いのかよ?」
「お前の意図は理解しているつもりだ。だから、もう少し持たせろ」
 遠慮がちに問う柴臣と織田に対して、比良坂は二人の意図を汲んでいるかのように注文する。もしかすると、ここ数日のシミュレーションの敗北は、こいつ戦略を決定づける材料だったかもしれないわけか。この後が楽しみでもあるが、この演習はやっておいて良かったかもしれないな……
「……おう」
「委細承知。本領発揮でござるな」
 大人しく頷く織田の態度に察して、徳田は空気が変わったかのように頷き端末を弄り始める。

次回に続く


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