幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑯
2023.04.06『幻獣戦争』より発売
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序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑯
「このまま敵を引き付ける。弾はいくら残っている?」
決断した俺はナビゲーションAIに問いかけ、機体ステータスをコックピットモニターに表示する。
「サーマルガトリングは残り40%、一六〇ミリ滑空砲残り15、電磁加速砲4000、以上です」
「一六〇ミリ滑空砲はそちらで打てるか?」
更新された機体ステータスを見ながら俺はナビゲーションAIに確認する。
「可能です。兵器換装用サブアームを使用して射撃できます」
「わかった。正面敵集団が出現したら正面に全火力を集中する」
ナビゲーションAIの回答に俺は端的に指示する。西原村方面の幻獣への対応は後回しだ。
「了解。緊急回線で通信がきています――繋ぎます」
ナビゲーションAIが通知すると回線が開かれ、懐かしい女性の顔がコックピットモニターに表示された。彼女を見るのは実に4年振りだ……が、昔と違い髪の色が黒からやや緑がかっている。
「こちらは臨時第一砲撃大隊です。これからそちらに進行中の幻獣に対し面制圧を実施します。その隙に貴官は後退してください」
「ありがたいが、展開中の君の大隊には戦略機はいるのか?」
懐かしい女性に俺は訊ね返す。砲撃すれば幻獣は大隊へ反応する。こちらは逃げられるが、その結果部隊に被害が出てしまったら注意を引いた意味がない。
「まだ到着していません」
「ならダメだ。後退はできない。そちらが壊滅する。砲撃は有難迷惑だな」
懐かしい女性の回答に俺は首を横に振る。いつもこうだ、こちらの気も知らずに自ら命を捨てにいこうとする。勘弁してくれ。
「ふざけないで頂戴。貴官が死んでしまったら頑張った苦労が水の泡よ」
「ふざけているのは君だ。その口振りだと民間人の退避がまだ終わっていないだろ? そんな状況で市街地へ侵攻させるわけには行かない」
キレぎみに言う懐かしい女性に俺は冷静に指摘する。
「市街地から西原村付近までは距離があるわ。こちらにはまだ時間的余裕がある。何とでもなるわ。貴官の方が危険だというのがわからないの!?」
あくまで後退しろと言う懐かしい女性は声を荒らげ言う――ああ、そうか。彼女の顔を見て思い出した。そうだったな……俺は死んでいった仲間に一人でも多くの人を守ると誓い戦い続けていたんだ……だったら、尚の事引けないな。
「敵、蜘蛛型幻獣の砲撃射程内に入ります。正面敵集団出現まで後120秒」
「わかってないのは君だ。水原! 君達は準備が完全に整うまでそこで見ていろ!」
ナビゲーションAIの報告を聞き、俺は水原に吐き捨て通信を切る。すぐさま楯を構え機体の回避運動を行う。
「回避プログラム作動。サーマルガトリングによる近接防御は無用だ」
「了解。回避プログラム作動――敵砲撃着弾まで3、2、1――弾着!」
俺の指示にナビゲーションAIは頷き、カウント終了と同時に砲火の雨が降ってきた。楯を弾着方向へ構え俺は右へ、左へ機体を回避させ場所を変更。楯のおかげか着弾した砲弾の爆風と衝撃波が不思議と機体へ伝搬する事は無く、加えて楯に砲撃が直撃しても機体へ何も振動が伝わってこない。
かなり強力な楯のようだ。周辺の地形が変わっていく中、後退しながら俺はどう戦うべきは悩んでいた――直後、砲撃がまた止んだ。戦域図を確認すると、市街地方面からの支援砲撃で攻撃していた幻獣集団が消滅しはじめている。
「はやまったなクソっ! 砲が向こうにむくぞ!」
俺は舌打ちしながら、コックピットモニターのライブ映像で砲撃を受けた幻獣群を確認する。土煙で何も見えないが、恐らくまだ残っている――いや、出現する。戦域図の敵勢マーカーの表示がそれを裏付けていた。
「敵幻獣の攻撃力減衰、正面幻獣集団が出現します」
ナビゲーションAIが無情にも新たな報告を告げてくる。
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次回に続く
2023.04.06『幻獣戦争』より発売
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