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幻獣戦争 2章 隠岐の島攻略作戦⑤

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幻獣戦争 2章 隠岐の島攻略作戦⑤

「喧嘩がしたいのであれば復帰を承認した私が喜んで買ってあげよう……君は、この場をまともな会議にするつもりはないのだな?」
 苛立ちを募らせている俺を見て、本部長が割って入り問う。助かります本部長。

「田代作戦本部長。私は貴方には感謝しています。しかし、我々からすれば貴方も安全な所から高みの見物をしている馬鹿どもと何ら変わらない。我々は四国、隠岐の島の2正面から攻撃を受けている。師団も名ばかりで人員は旅団に割り込もうとしている! にも拘らず、本来の所属先である関西要塞は人員をまともに送ってこない! 一体どういうつもりだ! 我々に死ねと言っているのか!!」

 東師団長は、本部長に目を向け腹に貯めていた怒りを放出するがの如く、矛先を雲井本部長に変え怒号を浴びせる。確かに中国地方防衛師団は、幻獣の不規則な襲撃に相応の損害を被っている。腹が立つのは無理もない。が今この場でする話ではないのは確かだ。

「すまないと思っている。が、我々も四国から攻撃を受けているのだ。九州要塞程そう簡単に回せる余力がないのだ!」
「ふざけるなぁ! 報告では関西要塞は殆ど四国から攻撃を受けていないと聴いているぞ! 馬鹿にしているのか!」
 東師団長の豹変ぶりに驚き雲井本部長は慌てて取繕うが、それで引き下がる東師団長ではなくさらに怒号を浴びせる……やれやれ、仕方ないか。

「そこまでにしろ。関西要塞は四国攻略のために余力を残している――そう受け取ってよろしいですね?」
「そ、そうだ」
 見かねた俺はヒートアップしている東師団長を抑えわざとらしく確認すると、雲井本部長は助け舟に気づいたのか慌てて頷く。この場でその発言は迂闊だぞ――雲井本部長。

「ならば、四国攻略の時には全力で参加してもらえるということだな?」
「無論だ! しかし、今回の隠岐の島攻略も元々は我々の管轄だ。だから、可能な限り支援を行うつもりでいる」
 俺の誘導に気づいたのか、すかさず本部長が言質をとるように訊き返し、雲井本部長はさらに焦り気味に答えてくれた。これで俺達の負担が多少楽になるはずだ。

「なるほど。ならば、我々九州要塞第一師団はあくまでサポートに徹する立場でよろしいか?」
「無論構わない。今回、隠岐の島攻略に当たっては我々中国地方防衛師団が総戦力で攻略に当たる。隠岐の島攻略後には恐らくまともに戦力を残していないだろう」
 わざとらしく問う俺に東師団長が代わりに答えた。
「問題はここからだ。隠岐の島攻略後、俺達は九州要塞に合流させて頂きたい」

 さらに冷静さを取り戻した東師団長が続けてそう提案してきた。おいおい、大人しく関西要塞に帰ってくれ。こちらの戦力増強にはなるだろうが、あんた等が来たら各要塞の戦力均衡が偏ってしまう。

「それは困る。東師団長等が九州要塞に来てしまったら戦力バランスが崩れる。貴方達の師団は関西要塞に戻るのが筋だ」
「――うーむ。仮に君達が来ても、君の階級が下がるだけで何のメリットも無いぞ」
 俺の冷たい言葉に続いて、東師団長の意図に気づいた本部長はそう言葉を漏らす。なるほど、本部長は新しいポストを狙っていると見ているわけか。

「どういう意味ですか!?」
「要塞作戦本部副部長なぞというポストはないという事だよ。結局君も安全ところで高みの見物をしたいのだろ?」
 東師団長の問いに本部長はそう見透かす。本部長はよくわかってらっしゃる。東師団長は恐らく栄転して安住の地を得たいのだ。わからんでもない。前線に居続ける事はいつ死んでもおかしくない事と同義。その恐怖から遠ざかりたいのは当たり前の心情だ。

「それは……」
「私がなぜ後ろにいるかわかるかね? 責任を取るためだよ。この要塞で働く総ての人間の尻ぬぐいを君にできるかね?」
 言葉をつまらせる東師団長に本部長はため息交じりに追求する。
「……」
「できないだろう? 君が出来るのはせいぜい叱責くらいだ。そんな奴を上におくわけにはいかない」
 東師団長の沈黙に田代は静かにトドメを刺す。このくらいのことを言っておかなければ東師団長引かないだろう。しかし、俺達も酔狂なものだ。自ら死地に赴くわけだからな……あいつは、こいつらを見てどう思うだろうな? 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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