見出し画像

幻獣戦争①

縦書き版はこちら

※著作権等は放棄しておりませんので、転載等はやめてください。
Unauthorized copying and replication of the contents of this site, text and images are strictly prohibited.
(当サイトのテキスト・画像の無断転載・複製を固く禁じます。)

序章 絶望が希望に勝利した日

 ――時間は全てを風化させてくれるわけではない。心に焼きついた傷は時が経つと、血が止まり、炎症が治まるとかさぶたとなってやがて再生していく。 

 しかし、傷跡は決してなくなることはない。現在が過去となっても、あの光景が甦り痛みを与えてくる。あの日、俺は護りたかった者、その殆どを失い、帰り着いた俺に怪我を負っていた親友は、かける言葉を持ちえなかった。

 俺は守りたい人を護るために戦っていた。人類のため、などという安っぽいヒロイズムに酔って戦っていたわけではない。上官のため、仲間のため、皆が望み俺が望む結果を得るため、その一心で戦った。

 しかし、結果はこの有様。皆俺を護り死んた。俺はこんな結末を求めてなどいない。だが、わかっていた。いつかこうなると、その可能性が常に残り続けていたことに。なのに……なのに……なぜ……

  《――なぜ俺は戦うことをやめなかったのだろうか……》

 絶望が吹き荒び骸と化した機体を抜けていく。乾坤一擲の一撃は確かに大型幻獣を瀕死に追いやった。その証拠に佐渡島沿岸部から中型幻獣が大幅に減衰。俺達は無傷で上陸を果たし、戦闘は掃討戦に移行……したはずだった。

 なのに、この状況はなんだ? 気づけば、仲間の殆どは撃破され、モニターには仲間だった残骸が映っている。わけがわからない。一体何が起きた……いや、本当はわかっている。理解したくないのだ。俺が理解を拒否しているだけ。

 そう、大型幻獣は弱っていたわけではない。俺達を誘い出すために、わざとこの状況に持ち込んだのだ。致命的なミス。その現実を俺は受け入れられず、ただ立ち尽くすのみ。眼前には亀の形状をした大型幻獣が、ゆっくりと死を運んでいる。オープン回線から砂嵐交じりの怒号が響く。

『――各機! 生き残っている者は速やかに撤退しろ! 次の集中砲火が来たら俺達は全滅だ! ――聞こえているか比良坂! ぼさっとしてないでさっさと逃げろぉ!』

 目まぐるしく変わる状況に俺は何もできずにいた。

『――お願い動いて舞人! 貴方がここで死んだら……死んでしまったら、貴方を庇った皆の死が無駄になる! お願い、逃げて! 逃げるのよ舞人!』

 悲しみにも似た女性の叫び声が聞こえてもなお、俺の腕は動かず……体が動こうとしない。視界に端に辛うじて映る戦域図から少しずつ……少しずつ、仲間のマーカーが消えていく。

 コックピットモニター正面には亀の形をした大型幻獣のシルエットがゆっくりと、徐々に、緩やかに、大きく迫ってきている。じきに俺も仲間と同じ結末を迎える………それで良い。俺は仲間を護るため、仲間の願いを叶えるため、その一心で戦っていた。

 失ってしまえば、生きている意味も、存在している価値もない。だから、このまま……このままで良い。
 

 警告音が響く中、コックピットモニターに映る大型幻獣の砲火を受け死んだ――

『……ろぉ! ひらさかぁぁぁ!』

 コックピット内に衝撃が走り視界が暗転する。これが死か……死とは意識を失うのとかわら――いや、違う。怯んで瞼を閉じただけだ。
「……生きている?」
 我に返り俺は目を開け状況を確認する。コックピット内は緊急警告で赤く点滅しているが、端末を操作して機体状況をコックピットモニターに表示する。直立不動だった俺の機体は、どういうわけか真横に転倒している。

 その影響なのか、右腕に深刻なダメージを受けている。無くなっていないだけマシな状態。俺は生きている理由を探すべく機体を起こし情報を探す――が、すぐに見つかった。

 コックピットモニターの左側に損壊した獅子の記章がマーキングされた左腕が映っている。草薙さんの機体の物だ。草薙さんが俺を庇っ――草薙さん!
「何故ですか……どうしてあなたが私を守るんですか、隊長……」

次回に続く


よろしければサポートお願いします。頂いた費用は創作活動などに使わせて頂きます。