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幻獣戦争 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑬

2023.04.06『幻獣戦争』より発売

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序章 1章 1-3 嵐を呼ぶ天才⑬

 有明海第2師団所属第3艦隊旗艦戦艦日向。幻獣襲来の報を受け艦隊は大牟田市近くの沖合を南下していた。
「――はあ、なんだってまた僕が乗艦している時にやってくるかなぁ」
「司令!」
 僕のボヤキに、隣の副官席に座る日向艦長磯崎一佐が非難の声をあげる。芦屋基地へ帰還する途中、僕らは幻獣襲来の報を受け、要塞からの応援要請に従い艦隊は支援可能域に急行しているところだ。

「先輩の口車に乗って乗艦するもんじゃなかったなぁ……」
「はっは。何といいますかこんな時でも司令は相変わらずですねえ」
 僕のボヤキに艦長の隣席に座る砲雷長山崎三佐が苦笑する。そう、幻獣襲来の報を受けて僕は艦橋からCICへ移り状況確認中の最中。磯崎艦長が目くじらを立てるのもよくわかる。

「ま、いつも通りということさ。それより状況を教えてくれ」
「はい。現在、大矢野演習場付近一帯に急激な幻獣濃度上昇が確認され、天照の解析では演習場後方、西原村付近に幻獣の先遣集団出現の予測がされています」
 CIC司令官席に座る僕の問いに磯崎艦長が報告すると、席正面にある大型スクリーンに状況を詳細にまとめた戦域図が表示される。

「これに対して、要塞司令部は熊本赤十字病院総合グラウンドに仮設指揮所を設営。幻獣出現ポイントに対し、火力を集中できるよう木山川沿いと布田川沿いに機甲戦力の展開を急いでいます」
「――戦略機はどうした?」
 磯崎艦長の報告に則って戦域図が更新される。木山川沿いと布田川沿いと九州要塞に機甲戦力を示すマーカーが追加され、大矢野演習場に緑のマーカーが追加された……援護目標? なんだこれ? 

「それが……部隊再編中のため出撃準備が遅れているらしいです」
 僕の問いに磯崎艦長は困ったような口振りで答える。はあ? 再編? そんな事初耳――そう言えば田代さんがそんな事言っていたなあ……あっ、てことはこの援護目標は……
「なんとまあ間の悪い事で。ところであの援護目標は誰なんだい?」
「撤収中の神代博士達試験部隊と訓練部隊なのですが、どうやら比良坂陸将も現地に居るようでして、演習場で交戦すると報告があがっています……」
 何となく予想がついている僕に、磯崎艦長はややバツが悪そうに答える。ああ、やっぱり彼か。

「何で大人しく後退しないのかなぁ……」
「司令……敵は軍団規模と予想されています。規模から考えて後退を具申されては如何でしょうか?」
 頭を掻き困り気味にボヤく僕が珍しいのか、磯崎艦長は遠慮がちに提案してきた。
「彼にそんな事言っても無駄だよ。現地で踏みとどまって即応すれば、した分だけ予想される1次被害を低減、あるいは限りなくゼロに抑えられる。それを理解しているから踏みとどまるんだよ。まあ、そんな事をしたら敵の集中砲火で十中八九死ぬだろうけどね」
「……」

 ため息交じりに答える僕に、磯崎艦長は指示を待つかのように閉口する。CIC内の隊員全員の視線が僕に集まっているかのような錯覚を覚え、僕はまた大きく息を吐く。考えてみたら、沖縄の時も彼はたった一人の逃げ遅れた隊員を助けるため、誰もやらない無茶をやってのけた。その彼が復帰したという事は、軍が無茶をするという事を指している。つまり、田代さんが本気になったという裏返しでもある……いや止そう、今はこんなこと考えている場合じゃないな。

「全艦最大船速……いや動力機関を壊して構わないから全速力で主砲有効射程海域まで急行。近接防御兵装以外の全ての兵装を攻撃に回せるようにしてくれ」
 僕は自席の無線を手に取り全艦に通達。といっても旗艦を含めて3隻の編制だ。火力としては少し心許ない。

「了解! 砲雷長。RAM、シースパローの設定変更急げ!」
「了解!」
 僕の指示に磯崎艦長と山崎砲雷長が頷き、CICに詰めている隊員達は空気が変わったことを認識する。
「……間に合えば良いが」
 1次、2次攻撃には間に合わなくとも、3次攻撃には間に合わせなければ彼らの生存が危ぶまれる。無線を戻し僕は小さく呟く。彼の身を案じて。 

ここまでお読み頂きありがとうございます! 

次回に続く


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