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信じあえる主客対等を目指して~その2(弁護士さんへの相談~争いではなく守るための知識武装へ)

「きっちり賠償請求すべきだ」
ツイッターはじめ、ネットニュースで当館の出来事を知った方々から最も多く寄せられたのが、この意見でした。

確かに、感情にまかせればそう思い至るのも無理はありません。
しかし相手は、喫煙を認めるどころか報復評価まで入れてきた方。こちらが強硬手段に踏み切ったとしても、「相当に骨が折れるだろう」ことはおよそ予想がつきました。とはいえいつまでも躊躇していたら、何一つ解決できないまま時間だけが過ぎてしまう。これでは埒が明かないと考えた私は、意を決し知り合いの弁護士さんに事情を打ち明け、直接相談に伺いました。

そこで頂いた弁護士さんのコメントは以下の通りです。
「件のお客様への賠償請求は『理論上』可能です。しかし裁判にかかる費用といい、時間・労力といい、 相当ないばらの道を覚悟しなければなりません。明らかに費用対効果はマイナスであり、今回については、状況的にも賠償請求はお薦めしません。」
「それよりも、今後同様の被害に泣き寝入りすることがないよう事前対策を強化する方が賢明です。拘泥するより前を向いた方がいい。せっかく勇気を出したのだから、前例を作りましょう」

かくして西屋は、弁護士さん監修のもと、宿を守るため新たな体制を整える方針を固めたのでした。おおまかな改善内容は以下の通りです。
(宿泊約款・利用規則の全文を載せると長くなるので、詳細はホームページ(以下“HP”)をご参照いただければ幸いです。)

① 宿泊約款・利用規則を新たに定める 。
② それらを各所に掲示し、予約前の判断材料となるよう指針を明示する。
③ チェックインの際に利用規則を直接説明し、お客様より同意のサインを頂く。

まず①では、万が一トラブルが起きても冷静かつ毅然と対処できるよう、諸々の法的根拠を踏まえた宿泊約款・利用規則を新たに作成しました。

宿泊約款は、宿泊施設が提供するサービスに関する契約条件やルールを示した文書のことで、宿とお客様との関係性、双方の権利と義務を定めたものです。予約から来館に至るまでの部分が主な守備範囲です。一方の利用規則は、実際に宿に到着してからの過ごし方や注意事項について定めたもので、万が一禁止行為を犯した場合の賠償請求についても具体的に記載されています。

弁護士さんによれば
「お客様は宿泊予約をした時点で約款内容に総て同意したと見做されます。予約とは宿泊の「『 契約』」 であって、宿泊前に約款や利用規則を一読することは社会通念上の常識、かつ内容も遵守すべきものです。民法上必ずしも設置の必要はありませんが、れっきとした拘束力があります。逆にいうと、宿泊約款や利用規則をきちんと備えておかないと、トラブルが生じても宿側が圧倒的に不利になってしまうわけです。自館を守るためにも、きちんと設定し・内容を周知しておくべきです」
とのことでした。

本来であれば、旅館業法により、旅館の独断でお客様の宿泊を事前に断ることはできません。しかし、宿泊客への説得の観点から「過去に宿泊約款に違反して当館に損害を与え、その賠償をしない者」は宿泊を拒否する旨を約款上に掲載して頂きました(新宿泊約款 第5条)。また、滞在中に禁止行為があった場合、その他利用規則に従わないときなど約款に抵触する事実を認めた際は、直ちに宿泊契約を解除する旨を明記しました(同第7条)。

また、今回新たに設定した利用規則では、喫煙に関する禁止事項を明記しました。万が一館内や客室内で喫煙した場合、都度損害状況に応じた金額を設定できるよう「清掃代・及び当面の客室クローズ分の基本宿泊料含め実費請求させて頂きます」とし、具体的な金額ではなく項目名でまとめました。同様に、館内や客室内で物を壊したり盗んだりした場合も、相当額の弁償、通報を行うと明記しています。

約款や利用規則に記載した禁止行為を犯すということは、法律上だと民法の「債務の不履行」に当たるそうです。要は「不法行為」です。こう書くといかにも悪いことという印象になりますが、それ程にやってはならない行いなのです。お客様がどうしても不履行を認めない場合は裁判に発展するわけですが、それはお互いに望ましいことではありません。要らぬ争いを極力避けるために、宿泊約款と利用規則の双方を法律に基づいて強化しました。

次に②については、西屋のHP(トップからすぐ閲覧できる場所)、客室内の「ご案内」に、いつでも目を通せるよう宿泊約款と利用規則を掲載しました。ご来館後に「知らなかった!聞いていない!」とならないよう、できる限り見やすい位置に配置しています。

西屋HPのスクリーンショット。トップページの真ん中に「必ずご確認ください」と
注意事項を表記。クリックすると約款や利用規則の表示ページに移ります。

最後の③では、チェックイン時に直接お客様に利用規則を手渡しながら解説するようにしました。その上で、宿帳に新たに設けた同意欄に、お客様自らチェックを入れてもらう方法を採りました。

チェックイン時、お客様に手渡ししている利用規則。
特に過去トラブルが複数あった事項について黄色いアンダーラインを入れています。
新しくカスタマイズした御宿帳。
赤線の部分が、合意のサイン(チェック)を頂いている部分です。

先月半ばにこの体制をスタートさせてから1ヶ月近くが経ちました。
心配していたチェックイン時の煩雑さはなく、皆様しっかりと利用規則に目を通し、趣旨を理解して下さっています。同意の可否で事を荒立てるような方もいらっしゃいません。本当にありがたい限りです。

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