探偵討議部へようこそ 八章 第六話
第六話 Cross-dresserは苦労する。
「潜入捜査って、、。シューリンガン先輩の推理にケチをつけるわけではないんですけど、、。そんな事ってあります? いくら探偵討議部だと言っても本職じゃないですし。しかもロダン先輩が、、。」
話の展開についていけず、つい疑問を口にする。言っては失礼だけど、部内で一番探偵らしくないロダン先輩が潜入捜査する、っていうのには違和感がある。しかもどこに?
「いや、シューリンガンの推理には間違いはない。」
答えてくれたのはデストロイ先輩だ。先輩は何気に面倒見がいい。後輩がわかんない顔をしてるとすぐに解説してくれる。
「奴には前科があるんだ。」
「ヒュー!」
リョーキちゃんが変な音を出す。何が「ヒュー」なんだ。ロダン先輩に前科なんて、僕は認めないぞ。
「君たち一回生はわかるだろう。この時期、ありとあらゆるサークルが新入生の確保に乗り出す。」
そう言われて頭に浮かぶのは、桜並木を歩いた末に、勧誘の人で満ち溢れたキャンパスに足を踏み入れた時の事。脳内の「ハシモー登場編」だ。あそこで「ブチョー」が歩く姿に目を奪われ、アロハ先輩の計略で半ば強引に入部させられることになったんだけど、、、。(注:第一章「ハシモー登場編」)あるぇ?現在に至るまで探偵討議部以外に勧誘された記憶はないぞ。おかしいな。
「確かにいまだにいろんな部から声がかかりますね。真っ当に認可を受けた部もあれば、怪しげなサークルも。中にはかなりしつこいところもあって、めんどくさいことこの上ないわ。」
リョーキちゃんがうんざりした表情で言う。入学とほぼ同時に探偵討議部への加入を決めたリョーキちゃん。今でもあちこちから声がかかるのか。僕とどこが違うっていうんだ!? …かなり違うか。
一人傷つく僕を置いてきぼりにして、デストロイ先輩の解説は続く。
「俺たちが一回生の時もそうだったんだ。リョーキちゃんが言うように、かなり怪しい、宗教がかったようなサークルからも連日声がかかった。で、問題はロダンなんだが、、。」
そこで先輩は立ち上がり、右の腰に体重を移した。始めるのか?始まっちゃうのか!?
「ロダンのやつは、『面白そうだ』という理由で勧誘されたところに片っ端から顔を出した。実に怪しげなものを含めて、な。実際、探偵討議部入部の理由も、『面白そうだったから、来た』だったしな。」
左の腰に体重が移る。怪しい、といえば探偵討議部も大概じゃないか、と内心思う。
「俺はあいつがわけわからんサークルへの参加を決めるたびに止めたんだ。『どうみても怪しい、やめておけ』と。そうしたら、『とても良いこと言ってたよ。怪しいかどうかは実際行ってみないとわからないじゃない』とニコニコして言うこと聞きゃしない。やってられねえよ。」
デストロイ先輩の腰は、右へ、左へ、リズミカルに動き始めた。その速度がだんだんと増していく。
「最初のうちはこれでも心配で見に行ったりしてたんだ。Cross-dresserの変装術を駆使してな。だが、取り越し苦労する羽目になった。クロウス-dresserだけにな。なんだか知らんが、どんな怪しげなサークルに潜入しても、奴は『面白かったよ』とか言って、無事に生還しやがるんだ。」
ブンブンと腰を左右に振りながら、そんなことを言う。「女装は趣味に過ぎん!」いつだったか先輩が言い放った一言が蘇る。実際は趣味と実益を兼ねていると言うことか。
「だが奴も、潜入を繰り返すことによって、必ずしも『善意の集団』だけが勧誘してくるわけではない、と言うことを多少は学習したのかも知れん。シューリンガンの推理通り、どういう理由があるのかは知らんが、今回は徒手空拳ではなく、多少の変装をして潜入することに決めたのだろう。ロダンにしてその程度の用心をする、と言うことは、今回の潜入先は一筋縄ではいかないところなのかもしれないぞ。全く、しょうがねえな。デストロオオオオオイ!」
先輩の腰はピタッと止まり、「パチパチパチパチ」と拍手の音がそれに続いた。シューリンガン先輩だ。
「さすがだな、デストロイ。今日もまた見惚れるほどのキレだ。」
「なに、君のパイポだって、捨てたものじゃないさ。」
満更でもなさそうな顔をしてデストロイ先輩は着席した。
それを見事に無視して、シューリンガン先輩はアロハ先輩の方に向き直った。
「そういうわけで、アロハ、出番だ。『胡散集会撲滅リスト』を出してくれ。」
「あ、ああ、あれな。」
一瞬挙動不審な様子を見せたアロハ先輩であったが、いつも漫画週刊誌を入れてパンパンに膨らん出るバッグの中を探り、一冊のノートを取り出した。
「これは主に『リア充』が集まるサークルをアロハがリストアップしたものだが、、、。」
おいおい!? リア充なだけで、撲滅されんといかんのか!? まあ、気持ちはわかるけれども、、。
「ロダンがあまりに変なところに入るもんだから、欄外に怪しげな団体のリストも作ってある。主な出没地点、拠点も含めて、な。その中でも、トップオブトップ、最近勢力を伸ばしてきているのは、、。」
シューリンガン先輩は、ノートの一ページを指し示して言った。
「ライフ・アンジュレーション。」
その瞬間デストロイ先輩が、「そこだ。」と小声でつぶやいた。
(続く)