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探偵討議部へようこそ 八章 第五話

第五話 スターウォーズが好きだ!好きだ!

 K大学から北に5キロ前後。少し人里離れたところにあるセミナーハウスのホールは、予想よりもはるかに広い。ちょっとした体育館くらいの大きさだろうか。ただ、室内の壁には白い布がかけられ、装飾も白一色で統一されている。窓が目貼りされていて、光が入らないようになっているのと、入り口で携帯電話を預けされられたのには、少し驚いた。「セミナーに集中できるように」と説明されたけど。

 一様に善良そうで、内気そうな男女の学生たち。5、60人は来てるだろうか。ずらりと並んだパイプ椅子の一つをあてがわれ、参加者は着席を促された。わたしたちをまるで監視するかのようにぐるりと囲んで、アシスタントといった様子の白い服に身を包んだ10名程度のスタッフがいる。女性スタッフには細身の美人が多いのに対して、男性スタッフは軒並み屈強そうにみえる。

 前方の一段高くなった段の上に白い演台が置かれ、演台の左右に設置されたスピーカーからは、パッヘルベルの「カノン」がエンドレスで流れている。

「間もなくセミナーが始まります。まだ着席されてない方はすぐに、所定の椅子にかけてお待ちください。」

 女性の声でアナウンスが流れる。徐々に会場の照明が暗くなり、カノンのボリュームも小さくなってきた。

 不意に電気が消えて、音楽が変わり、「スターウォーズ」のテーマが流れ始めた。まばゆいばかりのスポットライトのなかに浮かび上がったのは、「ジェダイ」のような服装をし、インカムマイクをつけたエネルギッシュな男の人だ。30代前半くらいだろうか。参加者たちを迎え入れるように大きく両手を開き、モデルのような笑顔を浮かべている。エネルギッシュにみえる日焼けした顔に、真っ赤な唇。その間から真っ白な歯が宝石のように輝く。

(スターウォーズ!?)
 内心思った瞬間。

 不意に音楽が止んだかと思うと、壇上の男は不意に憤怒の形相を浮かべ、怒号を発した。インカムマイクを通した声には、エコーがかかっている。

「今時、スターウォーズかよ!と思った者がいるだろう!君たちの人をバカにしたような魂の波動がちゃんと伝わっているぞ!『何かに向かって行動している人』を茶化したり、バカにしたりすることしかできない者が、この中にいるということだ。君たちに言おう。そういった魂の持ち主に限って、自分ではなにもなそうとしない。動き出そうともしない。ただ何かを与えられるのを待ちながら一生を終えるのだ!!君たちはそうなりたいのか!?最初に言っておく!私はスターウォーズが好きだ!」

 スキダ!スキダ!スキダ!、、。エコーがかけられた一言が、静寂に包まれた会場に響きわたった。


(わぁ、、。なんだか、、。かっこいい。)
 一瞬自分の心中を読まれたのではないかと動揺したけれど、漫画が好きなことさえ人に言えずにいるわたしは、好きなものを好きと言い切る男の姿に好感を持った。ふと見ると、壇上の男は、まるで二重人格者であるかのように、輝かしい笑顔へと変わっていた。声のトーンも、優しいエコーボイスに変わっている。男が話すたびにこちらの体が震わされているような感覚がある。

「私たちのセミナーでは、凝り固まったあなたがたの魂を一度リセットします。そして、あなたがた自身が持つ可能性を開花させるのです。さらに、少しずつあなた方の魂の波動を宇宙そのものの持つ波動と共鳴させ、幸せの方からあなたがたのほうに寄ってくるようにしていきます。ほんの少しの秘密の魔法と、あなた方の『自分を変えたい』という気持ちがあればそれができるのです。その秘密を、私は皆さんと惜しみなく共有しようと思います。さあ、『ライフアンジュレーション』にようこそ!私は代表のアララギ・イッシンです。皆で幸せになりましょう。」

 その一言と共に、「カノン」が大音量で流れ始める。「何かが始まる」と思わせる演出。


 光の中に、アララギ・イッシンはいた。

(続く)

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