探偵討議部へようこそ 8章 第四話
第四話 りゅっくり滞在しろっTことか!
シューリンガン先輩の促しに、エンスーは考え、考え、ロダン先輩の映像について話し始めた。
「そうですわね、、。時間は午前8時頃。わたくしは、講義に出るためにタケダの車で送ってもらっていて、、。その時間はもう講義に向かう学生の自転車がたくさん走っている時間でしたけれど、その中にありえないスピードで車を追い越していく影がありましたの。自転車のような形の影が。まっしぐらに東大通りを北に向かっておられましたわ。それで、車載カメラの映像で確認いたしましたの。」
確認するまでもなく、「車を追い越す自転車」と言ったら、ロダン先輩以外にはそうそうないと思うのだが、、。
「そんなのロダン先輩に決まってるじゃない!」
僕の脳内をそのまま音声化したのは、リョーキちゃんだった。
「ただ、映像で見ると自転車が少し変わっていましたの。ロダン様はいつも、白くて前にかごの付いたいわゆる『ママチャリ』に乗っていらしたと思うんですけど、、。同じ白でも『ロードタイプ』のような、、少なくともカゴも泥はね除けもついていませんでしたわ、、。わたくし、自転車には少しうるさいんですのよ。」
「自転車にうるさい」のではなく、「自転車がうるさい」の間違いではないだろうか。エンスーはやたら大きな警笛が鳴る、デコチャリの愛好者だ。ただし深夜限定免許しか持っていないが。UFOと間違えて恥を書いたことを思い出した。(注「U F O河原」参照)
「ちょっと待ってくれ。」と話の腰を折ったのはデストロイ先輩。
「どんな服装をしていた?」
「ええと、、。そうですわね、、。スニーカーに、白いTシャツ。服装には大きく変わった点は無かったのですけれども、、。リュックを背負っているように見えましたわね。かなり大きな。」
「白のTシャツに、リュックだって?」
先ほどからもぞもぞとお尻を左右に振っていたデストロイ先輩が声をあげる。
「かなりの大荷物、、。しかも白T。どこかにりゅっくり滞在しろっTことか。」
どうしたんだデストロイ先輩。僕の空耳への対抗意識か!? シャレを会話に挟みたいが故に言いたい事までねじ曲げ始めている。そうなると末期症状だ。突っ込みを入れてあげないといけないのだろうか。
に、してもだ。それはおかしい。ロダン先輩といえば、これまで判で押したように黄色いTシャツだったはずだ。一度に洗濯してベランダに干したら、刑務所にいた知り合いが帰ってくるほどに。
ふと、質問の主のシューリンガン先輩の方に目をやると、パイポが高速回転モードにシフトしていた。先輩のパイポの回転は、その頭脳の回転と連動する。
「ブチョー。これは意外と急を要する事件かもしれません、、。その証左が、『ロードタイプに見える自転車』です。ロダンの経済状況から推理するに、それは彼自身の『ママチャリ』を改装したものに他ならない。要するに、単に彼のママチャリからカゴやマッドガードをはずしただけって事です。では、何のために?それは、自転車から個人を同定されないようにするための工夫ではないでしょうか?駐輪場においた自転車から住居が暴かれないように自転車自体の見かけを変えていた、ということです。僕の推理が正しければ、防犯登録標識も個人情報を取られないように外しているはずです。あとでエンスーの車からの映像を確認する必要がありますね。白いTシャツもまた同様。普段の黄色い服装だと目立ちすぎるために敢えて服装を変えた可能性がある。実際のところ、いくら自転車やTシャツの色を変えても、彼自身の類まれな体格と容貌からは焼け石に水、と言って良いでしょうけど、、。公平に言って、実に稚拙な変装ではありますが、彼なりに何かを用心した結果、と考えられないでしょうか?」
「なるほど、そうかもしれんね。だとすると、、。」
「そう、以上の事象からの僕の推理はこうです。ロダンはおそらく、どこかに潜入捜査している。『ドリー・泡尾』とかなんとか適当な変名を使って。問題はどこに、なんのために潜入しているかですが、、。この春先という時期を考慮に入れるならば、、。」
パイポの回転は不意に止まった。
「心当たりがないことはありません。」
「ええやん。多分考えてること、おんなじやね。」
腕組みしたブチョーが言う。潜入捜査って!?そんなことある?
「とりあえず、タケダに命じて、車載カメラの画像をすぐに届けさせますわ。」
エンスーがやたらにキラキラとデコレーションされたどデカい携帯を取り出した、その時、、。
「ん!?何かあったんか?」
ようやくアロハ先輩が目を覚ました。存在自体忘れてた。
「ようやくお目覚めか。早速だが、力を貸してくれ。」
シューリンガン先輩はそこで初めて笑顔を見せた。
(続く)
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