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探偵討議部へようこそ⑦  #10

前回までのあらすじ
いよいよ新人戦は開幕した。ライト兄弟が心血を注いで開発したライトフライヤーFXの墜落と、消えた操縦士の謎。「謎の提示」を聞いていないかのような司令塔<アロハ>ナガト・ムサシ。寝言のように呟いたのは「スペルについて」であった。

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キリノさんの一言をうけて、ジャッジのコンドウさんがこちらの方に向き直る。
「探偵側、質問をどうぞ。」

立ち上がったのは、グレーのスーツに身を包んだリョーキちゃんだ。
裁判長。ありがとうございます。」

なぜに裁判長?不思議な抑揚をつけて、リョーキちゃんの尋問が始まる。
「フリャーヤーFXのことだけどよ。おみゃーさん、以前のライトフリャーヤーからずいぶん改造されてたっていうてたけどよ。操縦者は寝てしておったんかね?それとも座っておったんかね?離陸の時だけんどよ。」

これは??名古屋弁?尾張弁??突然の言葉遣いの変化に動揺する僕。この服装は、もしかして赤いカブの検事さん!?向こうの司令塔、ゴウタロウさんも驚いた目でこっちを見ている。みたか。これがリョーキちゃんだ!百戦錬磨のゴウタロウさんだけではなく、味方の僕まで動揺させる!

離陸の時、操縦士は座っていた。
意外にも動揺する様子を一切見せず、キリノさんは淡々と答える。こちらも言葉遣いが謎の提示の時とは変わり、そっけない口調に変わっている。

運転席からよ、操縦士が飛び降りることができるような構造になっていたきゃ知りたいんだなも。」

「それは、不可能に近い。

「初代ライトフリャーヤーからかなり改造されとるって話だったがね、ライトフリャーヤー特有の前方に備え付けられた方向舵もより近代的なものにかわっていたんかね?」

「『たわみ翼』や『ローラーチェーン駆動』は採用されていないが、その他の基本的構造はかわらない。」

「方向舵は後方に備え付けた方が安定するんじゃにゃーのきゃ?もとの構造にかなりこだわりがあったってことかね?2マイル、つまり3キロほどの試験飛行って話だったけどよ、時間にしてどれくらいの飛行きゃ?」

「時間にすると離陸から墜落まで5分もかかっていない。」

「5分の出来事か、、。おみゃーさんの話だと、オーヴィルは最初っから双眼鏡で見ていたという話だったども、操縦者の兄の姿は離陸の時からずっとみえておったきゃ?つまり、最初フリャーヤーに兄が乗っていたことは確実だったきゃね?という質問なんだなも。」

乗るところはみていない。だが、離陸の際、フライヤーFXの周囲にいたのはウィルだけだった。少なくとも弟のオーヴィルは、操縦者は兄だと確信していた。」

「機影が大きくなってきたとき、オーヴィルは誰かが飛行機から飛び降りたり、湖面に何かが落ちるようなところもみていない、ということでいいんけゃも?」

「その通り。操縦者の飛び降りも、湖面に何かが落ちるところもオーヴィルは見ていない。ただ、、。」

「ただ?」

「オーヴィルはカメラの操作のために、一瞬だけ飛行機から目を離した。その間に何が起きたか、オーヴィルは知らない。」

「整理すると、離陸の時に操縦していたのは兄にまちぎゃーにゃあ、着陸の時にはその姿はなかった。その間5分程度の間に起きたことはオーヴィルには十分見えにゃー、ということでいいんかね?」

「その通り。」

「墜落の話だども、急に制動を失うまでは、飛行には全く違和感なかったんけぁも?」

「その通り。順調な離陸、飛行だった。」

「オーヴィルも、違和感を感じるものは見ても聞いてもいないんきゃ?異音、の類も?」

「全く聞いていない。先ほども言った通り、急に制動を失って飛行機が墜落するまではなんの異状もオーヴィルは感じなかった。

「おみゃーさん、『フリャーヤーの墜落現場に、兄の姿はみえなかった』と言うとったけど、物語で語ってないだけで、実は現場には別の人が墜落遺体になっていた、なんてこともにゃーんかいね?」

「もちろん。墜落現場にはオーヴィル以外誰もいなかった。」

「当日の視界は良好だったんかね?湖の周りにゃー他の飛翔体、飛行機や飛行船、気球のたぐいはにゃーかね?

「視界は良好。少なくともオーヴィルはそういったたぐいのものは見ていない。

リョーキちゃんが怪しい名古屋弁で立て続けに質問した結果、浮かび上がったのは不可能状況だ。まとめると、湖の周囲には飛行物はない。かといって、飛行機から湖に人が飛び降りた形跡もない。にもかかわらず、墜落した飛行機にウィルバーの姿はない。操縦していたのがウィルバーであることにはほぼ間違いはないと思われる(ここのみ、疑いは残るが、、)といったところか。これらの出来事が、わずか5分以内、あるいはオーヴィルが目を離していたわずか一瞬の間に起きるとは、これを不可能といわずして、なんといえばいいのだろう。

しかし、リョーキちゃんは可能性を探る。
「『カーチス』だけど、ライト兄弟と面識はあったんかね?例えばみゃーさんの話にでてくる『格納庫』もしってたんきゃ?」

「長年のライバル関係にあり、面識もあった。格納庫の場所も知っていたと思われる。」

「そしたら、事前にフリャーヤーに細工すれば、墜落させる、操縦者を放出する、っちゅうこともできたかしらん。」

「可能性は否定しない。ただし、オーヴィルの会話にあるように、格納庫に出入りするのは至難のことだった。その痕跡もなかった。

ここまでは流れるような質疑応答。シノブさんの表情にも、語調にも、淀む様子がみられない。想定内、ということか、、。
リョーキちゃんはここで、一瞬司令塔のアロハ先輩に目をやる。(追加の質問がありますか?)といった感じだ。

アロハ先輩はメモ書きに極太の字体で何やら書き込み、リョーキちゃんに渡す。一瞬「アレ?」という表情をしたリョーキちゃんであったが、すぐに真顔に戻り、質問を続ける。
「尾翼に記されていた、というアルファベットのことだけんど、、。」
この時、一瞬シノブさんの表情が緊張したように見えた。

「FとLだけだったんきゃ?他にはアルファベットは?」

「他にはアルファベットはない。FとLだけ。」

「FとL。何を略したものなんだなも?フリャーヤーけぁも?」

ここで初めてシノブさんが沈黙した。
・・・言えない。」

「『フリャーヤーFX』のFXのほうはどうかね?なんの略かね?」
「・・・言えない。」

「話にならんがね!」ここでリョーキちゃんは興奮し、傍に置いてあった千枚漬けの袋を机に叩きつけた。袋が床に落ち、大量の千枚漬けが床に溢れる。あーあ。せっかくのお土産なのに、、。

「裁判長、この部分はフェアネスに影響する、ということを御記憶ください。質問を終わります。」

(続く)

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