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探偵討議部へようこそ⑦  #15

前回までのあらすじ
「安心しろ!全ての謎は解けた!」と言い放つK大司令塔、<アロハ>ナガト・ムサシ。時を同じくしてKB大ヤマモト・ヒロミはその美脚を開陳した。その影響を受けたかどうだか、アロハがハシモーに渡したメモは、「LとF→ライト兄弟は史実の兄弟ではない。技術の進化は定方向と格納庫の大きさが示している。ウィルバーは兄弟でもないし、殺されてない。秘すれば花、秘せずば花なるべからず。」という解読困難なものであった。

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「では、探偵側の推理を聞かせてもらおう。」コンドウさんの声がする。
ノーアイデアの僕が立ち上がる。5分以内に事件の全貌をプレゼンしないといけないのに、なにも頭に浮かばない。絶体絶命のピンチだ、、。

その時、、。「ガラッ」と音がして、前方のドアが開き、見慣れた顔が覗いた。シューリンガン先輩だ。

「なんだね!?君は!」
コンドウさんの厳しい声が飛ぶ。

これは失敬、時間を間違えました。
シューリンガン先輩にしては素直に謝罪すると、にこやかな顔を引っ込め、後ろのドアから入り直し、ロダン先輩の隣に座った。懐からパイポを取り出し、回転が始まる、、。デストロイ先輩が嫌な顔をしている。

回転、回転、、。そういえばシューリンガン先輩はなんと言っていたっけ?

『今、正しい事も数年後間違っていることもある。このライト兄弟の言葉を、最も苦しい時、思い出すといい。』
たしかこんなだった。ライト兄弟の言葉、、。どういう意味があるんだ!?

僕の思考がようやく加速し始める。シューリンガン先輩のパイポに合わせて、頭脳が回転する。ライト兄弟の言葉を中心に、パズルのピースが埋まり始める。確かライト兄弟の名言、、英語では、、。

What is right now can be wrong years later.
Conversely, what is wrong now can be right years later.

思考が巡る、、。それに、シューリンガン先輩は、「時間を間違えました」とか言ってた、、。あのシューリンガン先輩が時間を間違えるなんてことある?仮に間違ったとしても、素直に謝るなんてことあるかい!?あの先輩は筋金入りのひねくれ者なんだぞ!「時間を間違えました」には意味があるはずだ!

そして、アロハ先輩の「秘するが花」、、。その意味は、「秘伝自体は、必ずしも深遠なものとは限らない。しかし、誰も気付いていない意外性により、感動を生む芸となり、相手に勝つ秘策にもなる。秘することそれ自体が芸に最大の花を生む秘伝である」、、。探偵討議そのものズバリを指しているようだ。これは、意外に、単純で合理的な解決があるのかもしれない。いや、あるはずだ。それが隠されているだけで、、、。

僕の周囲で起こっていることが、スローモーションで同時に認識される。リョーキちゃんの心配そうな顔、エンスーの思いつめた表情。シューリンガン先輩のパイポ。アロハ先輩はやっぱりヒロミさんの膝をみている、、。そのヒロミさんは、デストロイ先輩とブチョーがなにやら話している方を剣呑な視線で見つめている。持ち時間がなくなっているのか、コンドウさんが何か言いたげな表情だ、、。あ、ロダン先輩もいたのか。鼻血がでそう、、ハナヂデルカモ、、、。

その瞬間、全てが整った。

「どうした?探偵側?もう2分過ぎたぞ。」
コンドウさんが若干心配そうに告げる。もうそんなにたったか。僕は推理を披露する。

「大丈夫です。3分で十分です。解いてみれば実に単純ですから。まず、この事件第一の違和感は、フライヤーFXの翼に記されたFとLのアルファベットにあります。FとL、なんの略でしょうか?ちょっと考えるとFLYERの略のように見えますが、『FLYERのイニシャルとして、FとLを翼に記す』、なんてことあるでしょうか?フライヤーFXなのですから、FとFX、あるいはFとXという組み合わせならまだしも、、。ここにまず一つの違和感があります。

次の違和感は、当方の第二質問者が強調したように、『仲のいい兄弟』であるはずのライト兄弟の兄、『ウィルバー』の安否に関して、オーヴィルが冷淡に見える点です。本当の兄弟とは思えない、くらいです。提示側が断言したごとく、『仲が良い』ことに間違いはないわけですから、冷淡な理由をロジカルに考えますと、『墜落した後も、オーヴィルには《兄は死んでいないはず》、という確信があった。』ということになります。確信しているからこそ、飛行機の墜落の原因を探りこそすれ、兄の安否確認をしようとはしなかったのです、、。」

ここまで話して、明らかにKB大側が浮き足立っていることがわかる。「まとめ役」のヒロミさんに、ゴウタロウさんが何やら指示を出している。どうやらビンゴだ、、。僕は話し続ける。

「第3の違和感は、格納庫の大きさです。周囲30ヤード、、27メートルは車庫としては大きいですが、翼長12メートルの初代ライトフライヤーを格納するのはおろか、最新のセスナ機でも格納できるかは怪しいものです、、。なぜこんなに小さい格納庫にフライヤーFXは格納されていたのか?技術の進化は定方向、小さく、軽く、、といっても、そこまで小さくできるものでしょうか?そこまで小さくするにはかなりの技術革新がいるのでは?

以上の結果が示しています。この話は、ライト兄弟が生きた時代の話ではない、ということを。フライヤーFXの正式名称は『ライトフライヤーFX』でしたね、、。つまり、Light Flyer FX。LとF。この話は、現代のLight兄弟の話なのです!」

そう。“What is (W)right now can be wrong years later.”ライトだと思っていたものが、時を経てそうでないとわかることがある!

シューリンガン先輩の方をちらりと見ると、吹き出しそうな笑みを浮かべている。パイポは軽快に回転する。アロハ先輩は、見納め、とばかりにまだヒロミさんの膝を見つめているが、目線そのままで親指を立てた。

(続く)

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