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探偵討議部へようこそ⑦  #17

前回までのあらすじ
<シューリンガン>ウチムラ・リンタロウの「時間を間違えました」の一言で覚醒したハシモーは、無事、時間内に鼻血も出すことなくKB大の提出した謎を解く。KB大最後の反論に立ち上がったのは、「最後まで逆転の一手を狙う女性」ヤマモト・ヒロミであった。

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「当方が提示した謎の解決には二段階の発想の飛躍が必要でした。『ライト兄弟』が日本語で同音の姓を持つ『違う兄弟』であるということに気付けるか、そしてそれに気づいたならば、時代を現代、、ラジコンなどのテクノロジーが十分に発達し、飛行機が日々頭上を飛び交い、時には墜落する時代にまで移せるか、の二点です。物語のディテールが、私たちが当初設定したものと多少違ったとしても、その二点を明確に指摘した、という意味では、K大探偵討議部は当方が予期した以上の発想の飛躍を遂げ、見事に謎を解決した、ということができます。ですが、、。」
「ですが」と続ける、ということは、このまま負けを認めるつもりがない、ということだ。さすがデストロイ先輩の分析通りだ。僕もこのままで終わる、とは思っていない。

「一つ疑義があります。先ほど、K大のまとめに入る前、一人『時間を間違えた』といって、部屋に入ってきたK大の部員がおられたことは、ジャッジもご記憶と思います。『時間を間違えた』は当方の謎を解く上で重要なキーワードです。つまり、この部員の言葉が、K大探偵討議部が謎をとく上で重要な示唆を与えたのではないか、つまり、他の部員から、競技中に『助言』があったのではないか、という疑義です。」
急に、後方の席に陣取っている先輩方に緊張が走るのがわかる。これがヒロミさんか、、、。デストロイ先輩の方ばかり気にしているようで、ちゃんと全体の流れを見ている。

「ちょ、ちょっと!」
とリョーキちゃんが立ち上がりかける。リョーキちゃんはこと、シューリンガン先輩のこととなると我を失う傾向にある。アロハ先輩がそれを制して短く言った。

「大丈夫や。ここはハシモーに任せるんや。」

なんの信頼!?シューリンガン先輩の方をちらりとみやると、相変わらず何を考えているのかわからない笑顔だ。右手のパイポは回転を止めていない。ブチョーが『ほれみい』といわんばかりの呆れ顔で、シューリンガン先輩をみている。ロダン先輩はとても心配そうな表情だ。

僕は考える。確かに、あのシューリンガン先輩の一言がなければ、僕に謎が解けていたかどうかは極めて怪しいものだ。ヒロミさんが言う通り、「助言」ととられてもしかたないのだ。だが、だが、である!僕にも納得いかない事がある。

「なるほど、その点、K大側から申し開きはあるかな?」コンドウさんの声。

僕は立ち上がる。
「いえ。そう思われても仕方ない面があります。確かに、ウチムラ先輩の一言がなければ、僕が『時間の飛躍』に思い至ったかどうかは怪しいものです。ですが、その一言を『助言』と言えるかどうかは、僕自身にもわかりません、、。実際、それを助言というならば、先輩はいつ、どこで、本日の討議を聞いていたというのですか!この部屋のどこかに盗聴器でもしかけて、議論の流れをずっとイヤホンかなにかで聞いていたのでしょうか?僕は先輩がそんなかっこ悪いことしてまで、僕に助言してくれるとは思っていません。実際、そういう人ではないのです。そういうのは、ずるいだけでちっとも面白くないですから。ずるかろうが、面白ければやりかねないですけど、、、。

それに、そんなずるをしなくても、先輩の能力なら『謎の概要』だけで、『時間の飛躍』や『ライト兄弟のすり替え』に気づいていた可能性はあります。でも、でも、、、。もしそうなら、なんでもっと前に教えてくれないんですか!!思わせぶりに変な時間に現れて、わかりにくい助言しなくたっていいでしょうに!?昨日教えてくれればなんのバイオレーションにもならないのに!!
後半はほぼ、シューリンガン先輩に話しかけたようなものだ。全く、いつもギリギリのタイミングで、なんとも解釈しようのない助言しかくれないのだ。スパルタにもほどがある。

「ワハハ。」コンドウさんは笑い出した。「正直でいいじゃないか。ヒロヒコのHとOはhonestyでできているのだ。確かに先輩の一言がヒントになったと認めるんだね?」

「はい。」
僕は正直に答える。

「さて、その能力に篤き信頼をおかれ、人格のほうはそうでもない『ウチムラ先輩』には、何か申し開きがあるのかね?」
コンドウさんはシューリンガン先輩の方に水を向けた。

シューリンガン先輩は着席のまま答えはじめる。笑顔で右手のパイポを回しながら。心から今の状況を面白がっているようだ。「あのヒントに気づくとは、敵ながら、あっぱれ!」とでもいいたいのだろうか。

(続く)

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