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探偵討議部へようこそ⑥  #6

前回までのあらすじ
スーツのズボンとベルトを忘れた<ヒデモー>を自転車で追いかける<ハシモー>。もう限界、というその瞬間に、ハシモーの耳に<リョーキちゃん>の声が響いた。

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僕の目の前に、凄まじいスピードで黒い影が踊りでて止まる。ママチャリだ。ロダン先輩のママチャリ。荷台に乗っているのは、リョーキちゃんじゃないか!

しかしそのリョーキちゃんの顔は、「これがリョーキちゃん!?」と我が目を疑うくらい憔悴しきっている。

「待たせてごめんねー。」

と笑顔のロダン先輩とは裏腹に、リョーキちゃんの方は、

「ハシモー。私はよくやったわ。初めて、というわけではないけど自分で自分を褒めてあげたいわ。でも、これが限界。寿命が5年は縮まったわ。いつかこの貸しは返してもらうからね、、。あなたの寿命で。

物騒なことを言い出すわりに、いつもの覇気がない。

「どど、どうしたの?」

あまりに変わった様子のリョーキちゃんに急いでいるのも忘れ、思わず声をかけると、

「乗ってみればわかるわよ。あなたの自転車は大学まで乗って帰ってあげるから、ここで交代!」

そう言って、巨大な座布団のようなものが載せてあるママチャリの荷台から飛び降りた。
しかし、ママチャリ??ロダン先輩が力持ちなのは知っているが、こんなものでドミンゴに追いつけるのか?とリョーキちゃんに代わり、半信半疑でその荷台に乗る。それにしても、なぜにこんなに大きな座布団??

ロダン先輩は、

「ここからは少し飛ばすからね、しっかりつかまってね」

と一声かけると、グイッとペダルを踏み込んだ。その瞬間、全てがわかった。その脚力!ママチャリはバイクもさもあらん、という加速でスピードを上げた。

上り坂の途中で僕たちを見送るリョーキちゃんがみるみる小さくなる。小さくなったリョーキちゃんが十字を切るのが見えた。

信じがたいほどの振動が僕の尻を襲う。巨大な座布団による緩衝も、たいした役には立たない。プロレスラーの「尾てい骨割り」を連続してかけられているような衝撃が続く。

「ロ、ロダン先輩!」

僕はたまらず声をかけた。

「なんだい?」

「し、尻が割れます。

「あははは。」

何が「あははは」なのであろうか。少なくとも今僕が期待していたリアクションではない。代わりに何を期待していたのか、と問われると明確に回答できないが、少なくとも「あははは」でないことだけは確かだ。支離滅裂な独白を許して欲しい。なんせ僕の尻は今や滅裂なのだ。

信じられないことにロダン先輩の暴走自転車は、次々と車を追い越していく。坂を登りきり、ここからは下りだ。さらに自転車は加速する。もう少しでインターチェンジだ。命があったら、の話だが。

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マスモト・リキのドミンゴは今まさに、東インターチェンジに侵入しようとしていた。その前でわずかに逡巡するマスモト。

(このインターを通過したら、後はS大まで一直線です。紳士服のお店もないでしょう。ズボンを落とす心の準備はいいですか?マスモト・リキ?いや、リッキー?)

リッキーと呼ばれた、もう一人のマスモト・リキが答える。

(大丈夫ですとも。かくすれば かくなることと しりながら やむにやまれぬ やまとだましい と吉田松陰も詠んだではないですか。)

マスモト・リキは驚いた顔をする。

辞世の句みたいですね。あなたの口からやまとだましいだの、吉田松陰だのが出てくるとは思いませんでしたよ、、。あなたはもっと、アメリカナイズされた人ではなかったのですか?そうでしょう?)

リッキーは、寂しげな笑みを浮かべる。

(わたしも一皮むけた、っていうことですかね。ズボンが落ちたら一皮むけた、って、なんだか面白いですね。・・面白くはないですか。ハナコさんに怒られますね。)

自問自答を繰り返しながら、いま、覚悟を決めたマスモトのドミンゴはインターチェンジを通過した。

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所変わって探偵討議部室。そこでは<シューリンガン>こと、ウチムラ・リンタロウが懐中時計を手に、「そろそろ頃合いかな🎵」と嬉しそうにつぶやいていた。その左手には忙しくパイポが回転している。時計を懐にしまうと、おもむろに携帯を取り出した。

「シューリンガンくん、それはあんまりやと思うわ、、。」あきれた様子で止めに入る<ブチョー>であったが、シューリンガンは笑顔でそれを制した。

「なに、ほんの少し手を貸すだけですよ。念には念を入れ、です。」

通話先の番号は#9910。

(続く)

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