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探偵討議部へようこそ⑦  #8

前回までのあらすじ
KB大の面々を出迎える<デストロイ>シジュウイン・クチサトと<ロダン>オットー・コマエダ。KB大のヤマモト・ヒロミはシジュウインに一目惚れした様子。そのシジュウインが何気なく放った一言で、ヒロミは美脚の披露を躊躇するのであった。

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僕たち4人は、SQUAREの討議室に資料を広げ、KB大探偵討議部の到着を待っていた。アロハ先輩は、いつものアロハシャツにリーゼント。グラサンはしていない。エンスーはピンクのドレスに相変わらず日傘をさしている。邪魔でしょうがないのだが、本番では畳んでくれるんだろうな!?そしてリョーキちゃんは、鼠色のスーツ?そしてなぜか、大量の千枚漬けを買ってきている。お土産にでも渡すつもりだろうか、気が効くなあ、、。そして僕はいつものジージャンにチノパン。おしゃれしようったって、まずその仕方がわからないのだから仕方がない。

「もうきとるがね、、。」
リョーキちゃんが謎の言葉をつぶやいた。

「ですわね、、。」
とエンスー。心中期するところがあるのか、いつもより厳しい表情をしている。研修室のドアが開き、大きなシルエットが現れた。イノウエ・ゴウタロウさんだ。

僕たちは立ち上がって出迎える。エンスーはようやく日傘を畳み、カーテシーを決めた。KB大の4人が次々と入室する。最後にデストロイ、ロダンの両先輩も入ってきた。

「KB大、探偵討議部です。今日はどうかよろしゅく。僕はイノウエ、こちゅらがヤマモト、そしてしゅいんにゅうぶいんのハルヤマ、キリノや。」
ゴウタロウさんの挨拶で、ヤマモト・ヒロミさん、ハルヤマくんと、キリノと呼ばれた女性が頭をさげる。

「け、K大探偵討議部、ナガト、です。それから、ええと、、。」
ドギマギしている様子のアロハ先輩にすかさずリョーキちゃんがフォローに入る。

「左から、マサオカ、アマハネ、ハシモトだぁなも、、です。本日は宜しくお願い致します。」

「君、むちゃくちゃおもろいなあ、、。その格好、ぽりしゅいを感じるわ。今までみたことないシュタイル、、。今日の討議、たのしゅみにしゅとるよ。」
ゴウタロウさんがにこやかにアロハ先輩に話しかけるが、その目は笑っていない。

「ゴ、ゴウタロウさんの滑舌ですが、そ、そ、それも何かのポリシーですか?」
不意に超絶失礼なことを言い出すアロハ先輩。だが、ゴウタロウさんは、驚愕の表情を一瞬見せた後、穏やかな顔でやたら滑らかにこう言った。

「さすがやな。君らあなどれんとは思っとったが。相手にとって不足なし、と言わせていただこう。」

今のやりとりはどういう意味だろう?考えていると再びドアが開き、ブチョーの先導で、こちらも恰幅の良い人物が入場してきた。日本に5人しかいないと言われている「オナラブル・ジャッジ」コンドウ・ヒロヒコさんだ。
その場にいた全員が直立不動となり、入室と同時にそれぞれ頭を下げた。さすがの威厳、と感じる。鷹揚に手を挙げたコンドウさんは、部屋の中央に設けられたジャッジ席に着席した。

ジャッジ席の前に相対する形で長机二つが置かれており、それぞれK大、KB大の席が割り当てられている。机の上には討議者の名前が書かれたネームボードが置いてある。討議者全員が所定の席に着席し、聴衆であるブチョー、デストロイ、ロダンの三人も後ろのほうに席をとった。あれ?シューリンガン先輩は??

考える間も無く、コンドウさんは低いが、よく響く声で宣言した。

「とりあえず、提示側、探偵側を決めようか。コイントスでいいかな。」
聞き惚れるような美声、と言える。まるで声楽家のようだ。

「だ、大丈夫です。」と早口で口走ったアロハ先輩。何が大丈夫なのかよくわからない。

「If our honorable judge accepted, we accept. Thank you!」
ゴウタロウさんの返事、英文として正しいのかどうかはわからない。だが、わかったことが一つある。滑舌が良い。どうやらクラブで口走っていたラップのようなものはこれだったらしい。どうだ聞いたか、と満足げなゴウタロウさんの顔。この瞬間を待っていたかのようだ。

頷いたコンドウさんはポケットから硬貨を取り出した。
「表がウイリアムテル、裏はオスカフェの母国、スイスの国章だ。」
なぜにオスカフェ????探偵となにか関係があるのかな。

「表でお願いします。」
とゴウタロウさん。

「それでええか?」
とジャッジはアロハ先輩のほうを振り返る。

「イイイフ、アワー、オオナラブル、アアクセプト、ウェーアクセプト!サンキュー。」
珍しく空気を読んで見せるアロハ先輩だが、緊張のためかなにを言いたいのかわからない。滑舌では完全に逆転された印象だ。

コンドウさんは、それには気をとめる風なく、右手の親指で高々と硬貨を跳ね上げ、左手の甲で受けた。開いてみせた図柄は、、、。ウイリアムテル!KB大の勝ちだ。

「提示側でお願いします。」
ゴウタロウさんは言った。かくして、僕たちK大探偵討議部は、試合開始前から主導権を握られる形になってしまったが、もちろんアロハ先輩のせいではない。

だが、先輩は如実に落ち込んでいた。もう、試合そのものが終わったかのようなしょぼくれぶりだ。小声でアロハ先輩に話しかける。

「勝負はこれからですよ。元気出してください。」

「いや、、終わったも同然や、、。あれをみろ。」
アロハ先輩の視線の先にはヤマモト・ヒロミさん、、の、足、、、。その膝の上から真っ白なひざ掛けがかけており、むしろ足の露出を避けているように見える。コンドウジャッジ対策なのであろうか!?

「ど、ど、ど、どういうことや!!まだ見てもいないのに、なんで『じろじろみるな』風になってるんや!

「あのう、、試合始まりますよ。」

(続く)

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