探偵討議部へようこそ⑦ #7
前回までのあらすじ
探偵討議新人戦当日、熱く探偵討議談義を語るコンドウ・ヒロヒコとヤマダ・ハナコ。それを覗くマスモト・リキ。様々な思惑を孕みつつ、いよいよ新人戦は開幕するのであった。
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午前9時半。K大正門で<デストロイ>シジュウイン・クチサトと<ロダン>オットー・コマエダはKB大の4人を出迎えていた。キャンパス沿いの道を東へ、東へと向かってくる4つの人影。とりわけ大きい影が、イノウエ・ゴウタロウのそれであろうか。
「ああ、あの歩き方はイノウエさんだね。時間ぴったりだ。」
笑顔で手を振るロダン。人影の方でも、ロダンに気付いたのか、大きく手を振っている。
スーツ姿で恰幅のいいイノウエの隣には、ブレザーにポロシャツのハルヤマ。ポロシャツの襟は、手が切れそうなくらい立っている。戦闘モード。
後ろにいるのが膝上スカートのスーツをまとったヤマモト・ヒロミ。そのさらに後ろから来るのは、パンツスーツ姿の女性である。もちろん、ロダン、デストロイ共に先日電車で同乗したラフなパーカーの女の子であることは先刻お見通しではあるのだが、それは言わないお約束だ。先方も、初対面として接してくるだろう。
「本日は宜しくお願い致します。」
ロダンが丁寧に頭をさげる。
「こちゅらこしょ。」
とイノウエ。
二人は熱く握手を交わした。ハルヤマ、キリノも軽く頭をさげる。イノウエは一瞬だけ、渾身の力でロダンの大きな手を握ってみたい欲求に駆られたが、自殺行為だと諦めた。滑舌が改善している晴れ姿で敵の度肝を抜くのは、本番のお楽しみだ。(せいぜい、今のうちに俺の滑舌を笑っておくんだな。いや、しぇいじぇい笑っておくんだな。)
「あら?」握手を交わす二人をよそに、ヤマモト・ヒロミは短い驚きの声を上げ、「どこかでお会いしましたっけ?」とデストロイのパーソナルスペースに入り込む。
「絶対どこかでお会いしてると思う!」まっすぐに目を見て話しかけるヒロミに、デストロイは「前世で、というやつかもね。」とクールに微笑み、はぐらかした。
「どうぞ、こちらへ。」先導するロダンのとなりをイノウエが、デストロイの横にはまとわりつくようにヤマモト・ヒロミが歩く。
「ねーねー、お姉さんか妹さんはいないの?」
「俺の家族構成を聞いてから帰りなよ。」
「『帰りなよ』って冷たいなあ。これから討議だから帰りませーん。その後お時間あって?終電で帰れなくなっちゃうかも。なーんて。」
「残念だが、今日は大事な用がある。世界の謎が俺を待っている。」
「かっこいい、、、。」
「あーあ。また始まったよ、、。」
恋多き女、ヒロミに少しうんざりした様子のハルヤマであったが、今回はいつものとは違う、ということには気づかなかった。
SQUAREに入る直前、ヒロミはようやくデストロイから離れると、顔を赤らめてシノブに話しかけた。
「シノブちゃん、悪いんだけど、、。そのパンツ貸してくれない?私のミニスカートと代えてよ。きっと似合うわよ。可愛いわよ。」
「サイズ、、合わない。」
短い言葉で拒絶したシノブであったが、、その時女性の勘で、ヤマモト・ヒロミの本気に気付いた、、。
「美脚だね。皆に見せるのはもったいないな。」
デストロイが何気なく打った楔が、どストライクでヤマモト・ヒロミのハートを射抜いたことを示す瞬間であった。
(続く)
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