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ダンスも音も「わざと」ずらす!? 少年隊、躍動感あふれる音作りの秘密

「令和の少年隊ミュージック論」全起こし⑤

④の続きです。さて、ここから後半戦が始まります! 事前にツイッターで読者のみなさんから寄せられた質問にじゃんじゃん答えていくコーナーです。当日、リアルタイムでZoomのチャットからも興味深い質問が飛んできて、イベント後半のトーク内容も実に彩り豊かで、驚き&金言がたくさん詰まっています。

小休憩。イベント中はゆっくりコーヒーを飲む暇もなかった鎌田さん(右)

Text by WE LOVE SHONENTAI編集部
Photograph by 宮田浩史

ダンスも音も「わざと」ずらして迫力を出す

矢野 あ、そうですか。
鎌田 そう。
高岡 インターバルから戻ってきたんですが、今、お二人で重要なお話されてましたよね。
矢野 「まいったネ 今夜」もいい曲ですよねって雑談をしていたら、けっこういろんな……。

ジャジーな雰囲気がたまらない沼落ち必至曲「まいったネ 今夜」

鎌田 田原さんの作曲をずっとやっていた宮下智さんから「こういう曲ができたんだけど」ってメリーさんのところに届いて、それがジャニーさんとか僕んとこに送られてきて。で、ジャニーさんと「これは少年隊だよね」「じゃあ少年隊でやりましょう」って。それで、やるんだったら「サウンド・イン “S”」っぽくしようってね。で、(編曲家は)石田勝範さんっていうジャズのアレンジもできる人で、(ピアノは)世良譲さん。
スージー 本物の「サウンド・イン “S”」。
矢野 それはすごいですね、初めて知りました。
鎌田 そうそうそう。で、「夜ヒット」なんかのときも世良譲さんに出てもらったりとかしてね。あれも何パターンも作ったんですけど、ほんと少年隊ならでは。踊りもね。あのオーソドックスな形っていうの?

読者から寄せられた質問をどんどん紹介する名MC、スージー鈴木さん

スージー コメントで「スージー鈴木ばっかり聞きたいこと聞くな」っていうお叱りがありましたんで。
高岡 来てない来てない(笑)。
矢野 そんなことはない。
スージー えーと、この質問めちゃくちゃいいですよ。「ハモリ、コーラスワーク、メンバーの声の特色、歌う順番や歌の割り付けはどういうふうに決めたのか」。同様の質問が50通来てます(笑)。
鎌田 ボビーなんかとデモテープのときに「踊りどういうふうにするの?」みたいに相談することがあるんですよ。それで決まるときもあるし、誰が最初に動くかが決まってるときもあるし。
あと、ヒガシはすごく甘い優しい声なんですよね。だから、その甘い部分はヒガシにするし。あと、植草は実は一番マイク乗りのいい声なんですよ。ニシキは、音符のこともすごくわかっててトリッキーなリズムパターンができる。その特性に合わせて、僕がなんとなくソロパートは作るんです。で、ハモ(ハーモニー)は低いほうは基本ヒガシにやってもらう。中心のメロディは植草。高いとこ付けるのはニシキっていう。
スージー 下からヒガシ、植草、ニシキの順だ。
鎌田 そうそう。それで歌入れのベースができあがったらすぐ、もうそのパートを録るんです。それもなるべく多く録って、ミックスのときにけっこう減らしてんですよね。生で踊りながらそこまでハモれないから。
スージー あ、ハーモニーでレコーディングはするけれども。
鎌田 そう。けっこう減らしてるんですよ。ずーっとハモってると踊りながらできないから、「ここはユニゾンで、ここでハモろう」って。
矢野 うーん。
スージー でも、今のアイドルのほっとんどがユニゾン。それも、十数人とかで。それと比べると、かなりソロパートとかハモりまであるほうですよね。
鎌田 あるほう。デビュー1年半前から、そうやってスタジオでレッスンをしてたから、ハモの付け方とかもね。だからできるんですよ。
スージー あー。
鎌田 踊りもね。ニューヨークに行って「スリラー」のマイケル・ピータースさんに1週間とか振り付けてもらってる。「ダイヤモンド・アイズ」なんかはマイケル・ピータースの振りですけどもね。
それでね、マイケル・ピータースから勉強したことがあって。「スリラー」の振りっていうのはね、(立ち上がって踊りながら)こんななって、こんなやってるじゃないですか。あれは、まずあのダンサーが全部バッチリ同じ、韓国風にバッチリ揃うようにまず作るんですよ。それでマイケル・ピータースが、「お前早めに行け」「お前遅めに行け」「お前はジャストで行け」って、わざとずらしてたんですよ。
矢野 へーーーーー。
スージー え、え、え、え、え?
矢野 いやあれ、ずれてると思ってたんですよ。そこがいいなと思って。

マイケル・ピータースはマイケル・ジャクソン「Beat It」の振付も担当。MVの03:18頃に登場する白ジャケット&サングラスがピータース本人。劇中、その彼と対決する若者がヴィンセント・パターソンで、パターソンは少年隊のミュージカル『PLAYZONE 2006 Change』に振付で参加している。

鎌田 ドラムの(テーブルを叩いて拍をとりながら)「ツッタッツッツン、ツッタ」って、で、フラムっていうのが「ドンドンタッ、ドンドンドンタン」っていうがあるんですよ。この「タン」っていうのは、スネアを叩くとき。ここが同じタイミングだと迫力ないんですよ。あれ、(タンじゃなく)「ッタタ」ってずれてんの。
矢野 はいはいはい。
スージー えーと、スティック2本を。
鎌田 (立ち上がって)そうそう、2つでバンってやるとき、ずれてんですよ。それが迫力になるんですよ。だからダンスも少しずれてるほうが迫力が出るんです。
スージー 少しバラバラで、ドラムでいうトリルの「ダララン」みたいな。
鎌田 そうそうそうそう。
高岡 めちゃくちゃいい話です。
鎌田 そのことを学んで、僕は少年隊3人でサビを歌って、合いすぎてたら、「あー、合いすぎてるから録り直し」ってバラバラにしてたんです。迫力がなくなっちゃうから。「こいつはちょっとシャープめで早めにいってるけど、こいつがジャストだったらこいつ遅めでいいや」みたいな。わざとずらしてんですよ。
矢野 それはジャニーズ的にすごい重要な話って感じがします。ディスコとか、もうちょいあとだったらヒップホップとか、やっぱりブラックミュージックには、ずらすことによる心地よさがあるのね。
鎌田 そうそうそうそう。
矢野 ただ少年隊も、今だったらキンプリ(King & Prince)もそうですけど、モダンバレエがすごい入ってるんですよね。だから頭の位置は全然、ずっとずれない。
鎌田 そうそう、ずれないずれない。
矢野 だけど、下半身はちょっとずれてるんですよね。そこのバランスがすげぇジャニーズだなと思うんですけど
鎌田 あー。
矢野 モダンバレエとブラックミュージックのちょうど間の地点にジャニーズがあって。少年隊からキンプリまでずっとそうだなと思うんですけど。そのずらすっていうのが、「スリラー」から来てるっていうのも、俺的にはもうすっごい興味深い話でしたね。

「スリラー」からつながるジャニーズの系譜に納得する矢野利裕さん

鎌田 光GENJIなんてのはそういうことをしていないから、合いすぎてるんですよ。
スージー なるほど。なるほど。
鎌田 あの人数で揃いすぎると、線みたいになって迫力がないんですよ。
矢野 逆にSMAPなんかは、バレエ要素をなくしてる感じがするんですよね。どっちかっていうと「もっとラフでいいじゃん」っていう感じで。そのちょうど間に少年隊がある。
鎌田 そうです。だから少年隊もほんとは全部合っちゃうの。あえてずらしてるんですよ。
矢野 少年隊のダンスほんとすごくて、ほんとに頭の位置変わんないですからね。ずーっと。
鎌田 軸が変わんないからね。
矢野 バク転しても、くるくる回っても。しかも回転もちゃんと拍子に合わせてるし。あれすごいと思いますよね。

「ダイヤモンド・アイズ」にマイケル・ピータースが振り付けた踊りがえぐすぎるので全人類、見て!

あのシングルにソロパートがない理由

スージー 話が盛り上がってますけど、まだまだコメント来てます。埼玉県のデカメロンちゃん、20代の男性。「なぜ『ダイヤモンド・アイズ』と『ABC』にはソロパートがないんですか」。マニアックな質問だな。
鎌田 「ダイヤモンド・アイズ」は、マイケル・ピータースが振りを付けるから、それまでにソロパートをバラバラにしとくのはやめようと思ったんですよ。どうなるかわかんないから。
スージー 基本形を作っとこうと。
鎌田 そうそう。マイケル・ピータースの振りでソロ作ればいいなと思ったら、ああいう踊りだったから、「これはソロなくていいや」みたいな。でも「ABC」はね、ああいう循環コードの山下達郎さんみたいな曲は、達郎さんのあの歌の粘りがなかったら持たないんですよ。
スージー あー(ギターで「ABC」を弾き始める)。
鎌田 だから日本のアイドルは、みんなマイナー歌謡になってんですよ。それは持つんですよ。だけど(循環コードの)サラサラの感じってのは、相当な歌唱力がないと持たないんです。だから3人で歌ってんですよ。
矢野 なるほど。
鎌田 それでね、Bメロが「ダダダダラッタ、ダラッダ♪」って。あれは音域が低いんですよ。「ダダダダラッダダ♪」。あれはソロにしちゃったら聞こえなくなっちゃうんです。だから3人のままで歌わせてるんです。
スージー なっるっほど! クリアな理由があるんだな。
矢野 いや、ほんとに。
鎌田 あの爽やかな循環コードだと、さすがの少年隊もひとりにしたらスカスカになっちゃうんですよ。だから3人でやる。
スージー あー、でも結果オーライな感じしますね。
鎌田 あの踊りをやりながら、ソロで歌ったら抜けてっちゃうんですよ。
矢野 そうですよね、踊りながらですもんね。
鎌田 (立ち上がって)あの循環コードってのはね、スポンスポンって抜けてっちゃうコード進行なんだよ。「なんとかなんとかだ~、なんとかなんとかだ~♪」ってマイナーな曲ではないから。「サーサーサーサー♪」ってつながってくでしょ。歌もすっぽ抜けてくんですよ。達郎さんじゃないとね、ああいう曲は持たない。

白熱するトーク中、何度も立ち上がる鎌田さん

スージー あと、今のアイドルのユニゾンとは少し違う。3人でユニゾンなんだけれども、それぞれの声の個性が残ったから。
鎌田 そうそう。バラバラにしてますからね。躍動感残してるから、それぞれの。
スージー なんか今のアイドルはもう全部ほんと……。
鎌田 同じ、コンピューターで直しちゃう。
スージー あれに近いかも。キャンディーズがうまいんだけど、ユニゾンするときに声が3人で。
鎌田 そうそうそう、三者三様になってる。わざとそうやって作ってんですよ、昔はね。
スージー わかりましたか、デカメロンちゃん。そういうことです。
矢野 明確な答えがありましたね。

少年隊メンバー3人の音域は?

高岡 ありがとうございます。実はチャットでも募集しておりまして、そちらからも質問が届いています。えー、これ名前言っちゃっていいんですかね? あ、言わない。
スージー デカメロンちゃん。
高岡 デカメロンちゃんから。「3人の音域を教えてください」。
鎌田 だいたいあのぐらいの青年の音域は、下がドで(スージーさんがギターでドの音を鳴らす)、上はソぐらいまで。1オクターブの半分ぐらいなんですよ。ニシキはソラシドぐらいまで出します。
スージー 上のCまでいきますか
鎌田 いきますいきます。で、ヒガシはそのドがもうちょっと下のほうで、ちょっと下めで。植草はだいたいドからソぐらい、ラまでいける。植草ぐらいなのが普通の平均です。だいたいみんなそう。
スージー 上のCまでいくのは錦織さんでしたっけ。
鎌田 そうそうそうそう。
スージー それは高い。(ギターで上のドの音を鳴らしながら)うん、これは僕ら出ません。これはかなり高いです。この方、すごいですね。マニアックな質問。
鎌田 でも、だいたいみんなそうですよ。女性は女性の音域がだいたい決まってますから。
スージー わかりましたか、デカメロンちゃん。
高岡 その音域だけを使って筒美先生は名曲を作ってらっしゃったわけですよね。
鎌田 そうですね。
スージー でも錦織さんの上のCっていうのはかなり高いです。矢沢永吉が『成りあがり』で、「俺はキャロルの頃は上のC、バッコバコに出たからね」って自慢する音域ですから(笑)。
鎌田 出ないですよね、普通。
スージー 出ないです、出ないです。
高岡 これも面白い質問ですね。「ハモリのアレンジは鎌田さんですか?」。
鎌田 ハモりは全部、「ハモれ」っつったら作れるから。「ちょっとBメロ全部ハモってみようか」みたいなね。三度、五度とかは簡単にできるし、そんな難しいことではないんですよ。で、やってみて減らそうとしてるから、筒美先生が「ここはハモって」って言ってくるときもあるし、僕が付けてるときもあるし、ニシキのアイデアで「これどう?」ってやるときもあるし。
しかも、メロディにちゃんとハモるんじゃなくて、ビートルズみたいにコードでハモったりもしてるんですよ。いろいろやってみて、聴こえがいいものをね。
スージー 錦織さんが「ここちょっと三度のせてハモっていいですか?」って言うわけですか?
鎌田 そう。「鎌ちゃん、こんなのがなんとなく思い浮かんだんだけど」「やってみれば?」で、歌ってみて「いいじゃん」みたいな。そういう適当な感じですよ。
スージー いい話だなあ。極めて民主的でフラットですよね、制作プロセスが。
鎌田 僕は全部OKなんですよ。断るものはひとつもない。全部「やってみようよ」って言うんですよ、悪くても。
スージー その理由は?
鎌田 「思いついたらやりゃあいいじゃん」みたいな。僕がすべて正しいわけじゃないから。正しいレコーディングエンジニアは「こういうのどうですか?」「それはそれでやってみよう」って言うし。
矢野 プロフェッショナルだからトップダウンかと思っちゃいますけども。
鎌田 トップダウンとかではないんですよ。
矢野 そこが一番のジャニーズらしさというか、少年隊らしさなんですね。
鎌田 だってほら、さっきの筒美先生の話じゃないけど、「5曲書いたら才能なんてもう終わりだから」って言ってるでしょ。いろんな人の意見を聞いて、おいしいとこもらったほうがいいんです。盛り盛り盛りしていかないとゴージャスにならないんですよ。ひとりのトップダウンなんていってたら、やせ細ったカカシぐらいで終わっちゃうんですよ。

筒美京平イズムを受け継ぐ「ジャニーズのデビュー請負人」鎌田さんの言葉が沁みます。

スージー なるほどなぁ。
矢野 それがやっぱりアイドル楽曲の強さですよね。
鎌田 そうです。
矢野 アーティスティックなバンドも、それはそれで魅力があると思うんですけど、そういう個性だけじゃなくて、もういろんなのを取り入れて。
スージー 確認ですけど、その民主的でフラットなプロセスっていうのは、ジャニーズ全部に共通ですか? 少年隊に特化した話ですか?
鎌田 僕はHey! Say! JUMPのデビューまではみんなやってきたけど、途中から僕が制作じゃなくなってるから、そこらへんはわかんないんですよ。そういう場面にもなってるかもしれないし。
矢野 ニッキさんみたいな人は、けっこう特殊だったわけですよね。
鎌田 あいつは音楽好きだからアイデアも出てくるし、踊りも、脚の位置とか曲げ方とか、そういうとこまで全部わかってやってるから。
矢野 すごいですね。
鎌田 すごいんですよ。
高岡 面白いコメントがあります。「鎌ちゃん、興奮すると立ち上がるのニッキにそっくり」。
鎌田 そうそうそうそう。
スージー なーるほど(笑)。
矢野 すごい、元ネタがそこにあった。
鎌田 だから、ほんとに子どもみたいなもんで。「ちょちょちょちょ、これどう? これどう?」ってニシキも言ってくるし、俺も「ちょちょちょちょちょちょ」っていう感じなんですよ。

・・・・・・⑥へつづく!

後日、イベントアーカイブを見た振付師、ボビー吉野さんの感想どうぞ。

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