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音楽は会議室で作るんじゃない! 少年隊の現場主義

「令和の少年隊ミュージック論」全起こし②

①の続きです。イントロ談義、まだまだ盛り上がります! あの「仮面舞踏会」も最初は現行バージョンと異なるエイトビートだったとか。そうした変遷をたどった背景には、鎌田さんや少年隊メンバーを悩ませるジャニー喜多川社長の究極の口癖がありました。

Text by WE LOVE SHONENTAI編集部
Photograph by 宮田浩史

80s歌謡史に燦然と輝くこのデビュー曲!

ジャニーさんの口癖「これさ、もっとよくなんないの?」

鎌田 「仮面舞踏会」も、今できてるものの前のバージョンっていうのがあるんですよ。それはメロディももっとざっくりエイトビートっぽいんですよ。「タララターラーラーラー♪」も、その「タタタ」もなくて、普通に「(手で拍を取りながら)ターラーララー、ターラーララーラーラ、ラーラー♪」。
スージー 歌い出しがあの16分(音符)、「タカタターターターター♪」じゃなかった。
鎌田 そうそう、「ターンターンターンターン、タターンターンターン♪」だったりするわけですよ。それで1回できて、歌入れもやったんですよ。それで「こんなのできました」って、原宿の合宿所に行って、ジャニーさんに聴かせて。そしたらニシキも出てきて、またああでもないこうでもないって、ニシキとジャニーさんと僕なんかも。植草とかもね、ヒガシとかもいるんだけど。ニシキが最後まで残って、ジャニーさんなんかと一緒に勝手なこと言ってるわけです。
スージー それニシキさんは参加するわけですね。
鎌田 あいつは音楽好きだし、ダンスとかも好きだから、「なになになになに? あ、できたの?」「これ音かっこいいよね」って人一倍興味あるわけですよ、演奏とか、ドラムのパターンとか。「これどういうリズムなの?」って、「パーンってなってんだよ」って答えると、「じゃあダンスでいうと(足でステップを踏みながら)ターンって踏んで……あー、こういうことか」って、音楽の譜割りとダンスの動きを理解しようとするわけですよね。そんなことをしながらジャニーさんが、「これさ、もっとよくなんないの?」って。ジャニーさんはいつでも、360日「もっとよくなんないのかな」って。たとえばテレビ番組が始まる1秒前でも「もっとよくなんないかな」って言ってるわけですよ。下手すると始まってるのに、「もっとよくなんないかな」って言ってるんですよ。
スージー もう始まってるのに(笑)。
鎌田 ずーっと、もっとよくなんないかなって。だから終わりがなくて。解答もないわけですよ。で、全部よくない。僕なんかもうたぶん3000曲ぐらい作ってんだけど、褒められた記憶はまずほぼない。全部よくないですと。それだけやっぱり1秒でも、1ミリでもよくしたいっていうエネルギーなんですよね。
スージー さぁ、またちょっとこれ、きました。止めてくださいね。矢野さんのこの(本を手に持ちながら)『ジャニーズと日本』っていう本には、「少年隊というのは“ジャニーズディスコの最高峰”である」と。言ってみれば四つ打ちのビートが多いじゃないですか。
鎌田 そうそうそうそうそう。
スージー 今、問題発言なさいましたよ。「仮面舞踏会」、一番はじめは普通のエイトビートだった。
鎌田 そうそうそう、メロディがね。
スージー えぇー(笑)、え、えー?

矢野 「仮面舞踏会」の何がすごいって、とりあえずハイハットがもうずーっとずーっと鳴ってるんですね、細かく細かく。僕、後追いなんで、あとでテレビ番組とかを見ると、番組によってはそのハイハットがコンガっぽい感じになったり、こっちの番組ではもうちょいラテンっぽくなったりとか、後ろのアレンジが微妙に変わっている感じがするんですよね。そのあたりも変えたりするんですかね。番組ごとなのか、わかんないですけど。
鎌田 あのね、少年隊は変な話、番組ごとに振りが変わっていたり、あとオケも……。
矢野 あー、振りも変わってますよね。
鎌田 そう。オケもね、変えてたりするんですよ。
矢野 あー、そうなんですね。
鎌田 そう。で、ビッグバンドによっても違う。
矢野 それすごいことですよね。考えられないですからね。
鎌田 そう。ジャニーさんはいつでも1回やると飽きちゃうから、変えてかなきゃいけないんですよ。
スージー 演奏もジャニー喜多川さんが、「もっとかっこよく、ハイハットこうしよう!」とか?
鎌田 いやいや。細かい話はしないですよ。「もっとなんか変えない?」みたいな。具体的なことは言ってくれないから、僕がビッグバンドに具体的に話をして、「こんな感じ。もっとラテンっぽくできますか?」みたいなことを言うわけです。
スージー ジャニーさんはどんな感じで言うんですか? 細かくないわけですよね。鎌田さんにどういう指示を出すんですか?
鎌田 「あのさ、もう僕飽きちゃったんだけど、変わんないの?」って。
スージー (笑)困りますよね、言われたら。
鎌田 いやいやいや。「飽きちゃいました? 早いですよね」みたいな。
スージー 「2日ですよ?」とか言って。

エンターテインメントは「生もの」

鎌田 終わると「次はどうしようか」みたいな。毎回、「曲は生ものだからね。タレントも生ものだし、若いエネルギーは生ものだから変えなきゃ意味ないじゃん。金太郎飴みたいに同じものじゃ面白くないでしょ」って。一番面白くないって言ってる人はあなたですよっていう、社長あなたですよっていうこと。
矢野 『ジャニーズと日本』や『ジャニ研! Twenty Twenty』で言ったのは、ジャニーさんはやっぱり舞台の人なんだって気づくまでにけっこう時間かかったんですよ。ジャニーズはテレビのタレントっていうイメージがけっこう強かったんで。でもよーく考えたら、テレビでジャニーズがすごーく勢いづいているときも、裏で『PLAYZONE』をやってたわけですよね、少年隊は。だから少年隊が、そういう意味でジャニーズのある種の完成形って言えるんだなっていうふうに思って。それを考えると、テレビの番組もひとつの舞台というふうにとらえてたのかなって思いますよね。
鎌田 そうそう。だからブロードウェイとか大好きなの。
矢野 そうですよね。
鎌田 ハリウッドとかも大好きなんだよね。ブロードウェイも同じ演目やっても、毎回生演奏じゃないですか、生歌で。テンポも変わるし、場面場面アドリブ入ったりするじゃん。それが好きなんですよ。
矢野 はいはい。そのライブ感ですね。
鎌田 そうそうそう。そうしていかないものはつまらないってことなんですよ。
スージー でもあれですよね、ジャニー喜多川という人がそういう……僕ジャニーさん詳しくないんであれなんですけど。そういうコミットのしかた、演奏を変える、振りも変えるっていうのは、少年隊以降のグループにはあんまりそういう関与をしてない感じがするんですよ。そのへんはどうですかね。
鎌田 そこに関しては、僕は田原俊彦さん、マッチ(近藤真彦)もやってました。そして少年隊。その頃は音楽番組がたくさんあって、全部の番組が生演奏、生歌、生踊り。だからマッチだって、地方局のAMラジオに行くときにもバンド連れていくわけですよ。
スージー えー(笑)。
矢野 あー、すごいですね。
鎌田 見えないのにバンドで生演奏して、2曲ぐらいやって、MCと話してみたいなことをやって。また東京に戻って、こっちの番組出るみたいな。全部生じゃないですか。だけど光GENJIぐらいのときから音楽番組も減ってきた。で、SMAPの頃はほとんどもうなくなったわけだよね。「ザ・トップテン(歌のトップテン)」も「ザ・ベストテン」も「夜ヒット(夜のヒットスタジオ)」がなくなったみたいな。音楽番組がなくなって、昔の「サウンド・イン “S”」みたいのもどんどんなくなって。なんかテープ(に収録された音源を使う)になってっちゃったんです。
スージー なりましたよね。
鎌田 カラオケ。
スージー 紅白もね、90年代ぐらいにテープに。
鎌田 テープになっちゃった。それはもうジャニーさんは全然面白くないわけです。「それだったら別に見なくていいじゃん」って話ですよ。やっぱり人間のエネルギーは生で動いてるところに一番力があって、それにみんながワクワクする。それで心が動くものなのに、なんでそんな同じことになっちゃったのって。だからすごく残念にずーっと思ってるわけですよ。
スージー あー、そうなんですか。
鎌田 だから世の中の変化とともに、エンターテインメントが生ものじゃなくなってっちゃったのがちょっと残念ですよね。
スージー 興味ありますねー、ジャニー喜多川さんの話ってね。
高岡 前のイベント(第1回目のトークイベント「令和の少年隊ダンス論」)のときにボビー(吉野)さんがおっしゃっていたんですけれど、「ダンスの振りをこうしたいから、アレンジでこういう音を入れてくれ」っていう話を鎌田さんにして、その場で譜面書いてもらってやったことがあるって。そういうこともあったんですか?(※そのトークは以下のリンクより)

鎌田 やってたやってた。めちゃくちゃやってましたよ。
スージー どんな感じなんですか?
鎌田 「ここアクセントつけたいから、鎌田さんアクセント入る?」と言って、「どこどこ? 見せて」って、「OK、OK」って譜面にメモって。で、スタジオに行って自分で足したり、あとでミュージシャン呼んで足したりとか、やってましたよ。それで本番やって。で、その番組はおしまい。また「夜ヒット」だったら違うことって、毎回それやってんですよ。
スージー はぁー、そうですか。
矢野 すごい。
鎌田 だからみんなねー、ジャニーさんが遊んでるみたいなところに、ボビーもそれに乗っかって遊んでるし、僕もそれに乗っかって遊んでるみたいな。で、メンバーが一番大変(笑)。「マジかよ。また変えるの?」みたいな。
スージー 平成に入るとカラオケはテープだからいじれない。昭和歌謡の時代は完璧な譜面があって……。
鎌田 そう。
スージー だから、唯一無二なんじゃないですか。「そこでアクセント入れるから!」っていうのは。少年隊とその前後が。
鎌田 そうそうそう。

時間が押してる! BPM激速の「仮面舞踏会」

矢野 あと合ってるかわかんないけど、番組の尺が短いから、めっちゃBPM(1分間に打つ拍数)が速いときがある
スージー そうそう。
鎌田 あるあるある。
矢野 それに振付も合わせてんだから、めっちゃ大変だな、パフォーマンスしてる人は。
鎌田 昔ね、少年隊が地方に行って、ジャニーさんも来てないとき。少年隊って話長いんですよ。なんか面白おかしい話をニシキとかがペラペラやって。
スージー コンサートで?
鎌田 コンサートで。で、スタッフが「ヤバい! もう帰りの電車に乗り遅れるぞ」と言ったら、最後のほうの「仮面舞踏会」で(メンバーが)マイクでお客さんに「じゃあ、巻きでいきます!」とか言っちゃって、「(1.5倍速ぐらいの速さで)ワン・ツー・スリー、トゥナイヤイヤ、アイヤイヤ~♪」って(笑)。
スージー (早口で)「ワカチコワカチコワカチコ!」みたいな?(笑)
鎌田 そう、死ぬほど速いエンディングで「間に合った!」みたいな。最後、(足を鳴らして)バンてやって、「間に合った!」って。
スージー はっはっは。い~い話だな~!
矢野 終電のためにね(笑)。
鎌田 そのぐらい生だったんですよ。だから面白いですよ、毎回。
矢野 それも含めて楽しめる、耐性というか余裕というか。
鎌田 そう。ファンも「なんだかわかんないけど速いな」みたいな(笑)。
スージー なんか、ジャニーズ=完成された世界、唯一無二の絶対いじれない完全無欠なものっていうイメージがあるわけですよ。
鎌田 いや~違いますよ。
スージー 今の話聞いたら正反対ですからね。
鎌田 正反対ですよ、正反対。
スージー 楽しいなぁ。今日来てよかった(笑)。
鎌田 グニャグニャに変わっていくわけですよ。
矢野 僕の好きな「バラードのように眠れ」も、あるあるとしては、カラオケで歌うと最初に「プルルルル」っていうから、内線がかかってきたかと思って(笑)、「もうあと10分かな」って。
スージー 「延長! 今からバラード歌う?」って。
矢野 あーそうかそうか、この曲だって。あれ文化論的にいうと、ちょうどNTT民営化の時期? 規制緩和が入って、コードレス化していくぐらいの時期なんですよね。
鎌田 そうそうそう、その時期です。
矢野 「コードを指に巻いてたね」という歌詞があるから、コードレスじゃないけど。でもそういう時期だなとか。
スージー あー、プライベートフォンね。
鎌田 だからプライベート、みんなパーソナルなものになってきたみたいなね。
矢野 電話がリビングにあった時代から、子機が部屋に来るみたいな時期だから。そういうのを取り入れてるっていうか、自然とそうなるんだと思うんですけど。

歌詞の「4009」にダイヤルする人が多く、「この番号にかけても少年隊は出ません」とNTTが断りのメッセージを流したという伝説あり

鎌田 あれもね、男闘呼組の『ロックよ、静かに流れよ』って映画があったんですよ。僕ジャニーズ映画ではすごく好きな映画なんだけど。「あのタイトルいいから、松本(隆)さん、あんなタイトルつけたバラード作ってよ」って。
スージー いやいやいやいや、ちょっと待ってくださいよ(笑)。えーと、『ロックよ、静かに流れよ』、ありましたね。あー、いいタイトルだなー。で、これ「バラードのように眠れ」は松本隆ですよね?
鎌田 そうです。
スージー 「松本さん、“眠れ”で一曲作ってよ」って意味がわかんない(笑)。松本隆は「はい」って言ったんですか?
鎌田 「あー、そうですか」と言って考えてくれた。みんなスポンジのように全部受け止めてくれるわけですよ、いろんな適当な話を。
スージー 受け止めさせたんじゃないですか? 無理矢理(笑)。
鎌田 じゃないですよ。ああいう人たちはいつもアンテナ張ってるから、街歩いててもいろんな言葉とかね、全部吸い取ってるんですよ、秋元さんもそうだし。それを自分のスタイルで出していくっていうね。筒美先生も世界中の音楽を聴いて、自分なりに、自分の体を通して出していくじゃないですか。だからスポンジのような人たちなんですよ。
スージー いやそれね、鎌田さんニコニコしながら言ってますけど、筒美京平に「お前はヘビ男だ」って怒られたエピソードあるでしょ。
鎌田 あー、そうだそうだ。それは「ABC」なんですけどもね。
スージー はい、聞かせてください。“スポンジのように受け止めてくれるめっちゃええ人”みたいな感じだけど、かなり怒られたって噂も聞いてますよ。

🐍「ABC」のヘビ男エピソード、③へ続く!

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