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ちひろさんの様に自由に生きる

ぼんやりしていることが罪悪感
楽でいるのが楽じゃない
そんな時代を僕たちは生きています。

これは #マンガ感想文 として今回私が感想を書く作品、ちひろさん の2巻 作者・安田弘之氏のあとがきの言葉です。この言葉に、彼がこの作品に描きたかったものが詰まっているような気がします。

ありとあらゆる作品には、その作者の世界観や日々感じていることが節々に反映され、それが作品の個性を出していると私は思っています。このちひろさんは、このあとがきの言葉にあるように、どこか現代の忙しなさをじっと見つめている作者の思いがあるように私は感じます。

あらすじ

この物語は、ある街の小さな弁当屋で働く女性、ちひろさんとその周りの人たちのお話です。ちひろさんは元風俗嬢です。彼女はそれを隠すことも恥ずかしがることもなく、弁当屋でもオープンにして働いています。
そんな彼女はとても不思議な魅力を持っています。色気ではない、人にはない何かを持っています。そんな彼女と、彼女の周りの人たちの世界を描いた作品です。

彼女の魅力

彼女は自分の感覚を大事にします。そしてそれが彼女の魅力だと私は思います。
彼女は自分が魅力的だと思った人であれば、街の人から嫌われているホームレスのおじいさんを家に呼び、気難しい野良猫をマダムと慕います。彼女曰く
「人のデータなんてアテにならない。眼を見ればその人がわかる」
とのこと。

また彼女は、血のつながった家族とは別に、また別の家族を作ります。自分が“この人が母であったら嬉しい、父であったら嬉しい”という人を選び父母とするのです。
そうやって、自分は自分の感覚で生き、それをもとに何度でも生まれ変わることができる。これがちひろさんの魅力です。

楽でいるのが楽じゃない社会

冒頭のあとがきの言葉にもあった様に、今の社会は楽でいることが楽ではありません。それは、様々な制限が人の生きやすさを奪っているからだと思います。例えばジェンダー。最近になり、世の中にある固定的なジェンダー観について議論される場が増えてきましたが、それでも男は~女は~など口にする人も珍しくないと思います。

作中でもちひろさんは周りから、“結婚はしないのか” “恋はしないのか”など、問われます。それに対しちひろさんは、
「結婚せずとも生きられる」
「恋は体質に合わない。酒に弱い人が酒を飲まなくていいように、私も恋に酔う必要がない。」

といいます。

ジェンダーの他にもこの社会で人を縛っているものは多くあるとこの作品では言います。例えば、居心地の悪い家族、努力を強いる競争社会。そんな息苦しさからは抜け出してもいい というのを、この作者は描きたかったのではないかと私は感じます。

私もこの縛っているもののせいで体調を崩しました。
私は大学生らしさに縛られていました。
大学生ならサークルやバイトを頑張って一人前のようなものが原因でした。
元々真面目で、勉強をしたくて大学に入った私は、授業数を多めに取り、忙しく夜遅くまでバイトをこなし、毎週末のサークル活動に参加していました。

本当は、そこまでやる気ではなかったバイトを、大学生ならバイトをすべきという縛りからやって、ついには生活に支障が出るようになりました。微熱や倦怠感、気分の落ち込みが続き、バイトをやめて家に籠ります。詳しくはこちらのノートで。

今はバイトも辞め、サークルは好きな時にオンラインで参加し、ゆっくりできています。私にとって今の方が断然楽です。自分のやりたいことをやり、自分がやりたくないバイトをする必要もなく、毎日気が楽です。

ではなぜ、それを最初からできなかったのか。それは自分の感覚を大事にするということをそもそも大事だと教わっていないからだと思います。縛られていることに慣れすぎているのです。

学校教育の中では自分がしたいこと、やりたいことよりも学生らしい恰好・行動をすることを求められます。
中学時代、何かに熱中するなら勉強に集中しろと言われてとてもイライラしました。当時の先生はSNSにハマる生徒を見て言ったのだと思いますが、自分そのものを否定された感じがしてとても嫌でした。

楽でいることを否定され続けてきて、今に至っているのですから、大学生になってもそれは続いていました。それが最初からできなかった原因です。

ちひろさんはなれない。

この作品を読んだ当初は、ちひろさんが凄すぎて、彼女の様になりたいと思いました。でも私には彼女のような観察眼も、繊細で敏感な感覚も備わっていません。

そうやって考えるうちに、彼女の見習うべきところは、そこではないと気づきました。それが楽に生きること、自分の感覚に従うことでした。

今の私は、ようやくちひろさんを見習い始めたばかりで、ようやく一つの呪縛から解放されたにすぎません。おそらく私の中にある呪縛はまだまだ多くあるのだと思います。
その呪縛を、何度もちひろさんを読みながら、解いていけたらと思います。

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