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先生のためのコーチング

教員免許の制度改革など、このところ、幼稚園や小中高校などの先生方の継続的な学びの支援のあり方を見直そうという議論が活発化してきているようです。

教員免許制度の廃止が現時点で決まったわけではないようですが、学びの支援のあり方について見直す機運は高まっているようです。

先生の継続的な専門性の向上支援のためには、どのようなアプローチが考えられるでしょうか?

サポートのあり方を考える上では、先生方の長時間労働という状況を改善する働き方改革や学校という「職場」の組織改革等、現状の業務の見直しと再定義を行うアプローチが有効だと思います。それがなければ、学ぶ時間を確保できませんし、学びを実務に活かしていくサイクルをまわすことが難しいからです。

それに加え、学びをどう提供するのか?という論点もあります。人材育成の方法といえば、対面/オンラインであれ、同期/ オンデマンドであれ、「研修」を提供するのが一般的です。

ほかに何か方法はないでしょうか? 研修の代替手段として、コーチングという手法に着目してみたいと思います。

ナイト・D・S, ホック・M, ナイト・J(2020)「教育のためのコーチング」で議論されている内容をまとめたいと思います。下記の本の第10章に掲載されています。

教育のためのコーチングとは?

Knight(2011a)を参照し、コーチングとは、コーチによる教師に対する1on1のトレーニングであると、本書では定義されています。特に、短期間のワークショップの提供だけでは教育改善に見込まれる効果が低いため、こうした1on1のサポートが求められており、いくつかの研究でその効果は実証されているようです。

教育のためのコーチングの特徴的な点は、1)対象である先生に考えるきっかけを提供し気づきを与え、プロ意識を尊重すること、そして、2)研究や理論に基づいてより良い指導の方法を学べるように指導するという2つの役割があるようです。

一般的な「コーチング」では前者のように対象者自身が気づきを得るための働きかけがメインのように思います。コーチが対象者と対等なパートナーとしての関係を持つことはもちろん重要ですが、教育のためのコーチングでは、エビデンスに基づく研究知見や教育実践の好事例を「教える」のも仕事の一つになっています。

本書では、教育のためのコーチングでは、なぜ「教える」ことも必要なのかについては言及されていません。

ベテランや専門家が、現職教員である対象者をサポートするというのが前提になっているからでしょうか。あるいは、現場の先生方がご自身のお仕事を見つめ直す視点を、普段は得られない別の角度から得ることが主眼のため、異なるフレームワークを教える必要があるのかもしれないとも思いました。

教育のためのコーチングの6つの構成要素

本書では、教育のためのコーチングで常に含まれているべき要素を6つ提案しています。

(1)観察とゴールの設定
一言で言うならば、授業を観察したり、それについての情報収集を行ったりして、目指したいビジョンと現状のギャップを特定し、コーチングのゴールを設定することです。
観察にはビデオを、そして情報収集には成績やアンケート等を用いるのが一般的です。ゴール設定の際は、コーチが自分の考えや提案を相手に押し付けるのではなく、対象者の欲求ややりたいことをうまく引き出す「プル・コーチング」の姿勢で取り組みます。

(2)根拠に基づいた実践の提案
コーチが対象者に理論に基づいた教育デザインの提案を行います。提案内容には、教授理論に基づいて授業のデザイン、生徒の進捗を捉えるためのテストや課題などの形成的評価の計画、協調学習や発問内容などの指導の実践に関わること、肯定的なクラスの雰囲気作りなどが含まれます。
コーチが注意すべきことは、(1)で設定した対象者のゴールに関わる内容だけを提供するということです。コーチは単に知識をひけらかすのでも、おせっかいをするのでもなく、ゴール達成のサポートに徹するべきです。

(3)わかりやすい説明
コーチは相手が理解しやすいように、また実行に移しやすいように実践方法を説明する必要があります。専門家だけで流通している用語の使用を避けたり、具体例を提示したりして、聞き手が受け入れやすいようにすることが有効かもしれません。
同時に、一般的論としてのやり方だけではなく、先生が対象としている生徒の特徴や学校の強み、弱みなども把握して、相手に寄り添った説明をすることが求められます。

(4)モデリング
コーチが具体的な指導法のお手本を示すことです。授業のすべてをやる必要はなく、特定の方法をどうやるかを示すだけです。場合によっては、対象者に実演を観察してもらうことで、やりかたをイメージしてもらいやすくします。

(5)進捗管理と効果検証
実践の効果を検証するために、ビデオやアンケート、テストなどのデータを収集します。データ収集の目的は、ゴール達成に向けた進捗状況を管理することにあります。ゴールが達成できなかれば介入を改善し、達成できた場合はコーチと一緒に次の目標を設定します。

(6)省察
これはコーチと対象者の双方を対象としたものです。コーチングのプロセスの中で対象者は新たな教授法を学びますし、コーチ自身も先生方が抱える懸念や課題解決の様々な手法を学びます。
コーチングのプロセスを振り返り、成長を着実なものにしていきます。

以上が、教育的コーチングに含まれる構成要素です。構成要素ではないので、(1)から(6)まで踏むべきというような手順を示したものではありません。効果的なコーチング指導に含まれているポイントと捉えるのがよいのではないかと思います。

たとえば、自分が手掛けているコーチング指導の中で、欠けている要素はないか、あるいは上手くいっている要素はないかを振り返ってみることで、自分の取り組みの見直しにつながるのではないかと思います。

まとめ

先生の継続的な専門性の成長支援をどう行うかについて、コーチングの手法に着目してまとめてみました。

ナイト・D・S, ホック・M, ナイト・J(2020)「教育のためのコーチング」では、いろんなノウハウが溜まっていました。自分もこうしたコーチングを受けてみたいと思いましたし、ほかの人を指導する立場になったときは参考になりそうだと思いました。

なお、「教育のためのコーチング」が掲載されている「インストラクショナルデザイン理論とモデル」は、ほかにもメイカー教育やゲーミフィケーション、反転授業のデザイン等、いろんな教授アプローチが掲載されていて、おすすめです。




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