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心理学者からビジネスパーソンへ。逆境でも挑戦を止めないパキスタンの女性活動家

小さい頃から家にいるより外で人と話すのが大好き──

明るい笑顔が印象的なパキスタン出身のサニーさん(仮名)は、約2年前に日本にやってきました。来日当初は路上で毎日過ごしていたという彼女は、先月東京の大学院を卒業。

苦しいなか、持ち前のポジティブさで異国の地でも道を切り開いてきました。

そんなサニーさんが、日本へ来た理由とは?そして、これから目指すキャリアと実現したい夢とは何でしょうか?


<パキスタンでの生活>仕事がないと言われた心理学でのキャリア


伊藤:
サニーさんは、日本に来る前はパキスタンにいたそうですが、どのような環境で生まれ育ったのですか?

サニーさん:私は、幼少期をパキスタンの中心から離れた小さな町で過ごしました。パキスタンは人口のほとんどがイスラム教徒ですが、私が生まれ育った地域は仏教色が強く、海外からの観光客が多く訪れるような場所でした。大学入学時に首都のイスラマバードへ引っ越すまではそこに住んでいました。

家族は、両親と6人のきょうだいがいて、私は末っ子です。親もきょうだいも皆、公務員として働いており、私も同じように「国のために働く」ことを期待されて育ちました。

ですが、私はそうした、いわゆる「9時17時」のような働き方の仕事に関心がなく、大学では就職先がないと言われていた「心理学」を専攻しました。親やきょうだいたちには白い目で見られ、関係は悪くなってしまいました。

伊藤:大学卒業後は、どのような仕事に就いたのですか?

サニーさん:卒業後は、複数のNGO団体で、7、8年間キャリアトレーニングなど個人のスキル向上のための活動を行っていました。

その後、自分でNGO法人を立ち上げ、学生や軍隊、医者など多様な人たちに対してリーダーシップトレーニングを始めました。当時、パキスタンの多くのNGOは「物資の提供」を主な活動としていることが多かったのですが、私はモノではなく「スキル」を提供することで、人々が自立できるようにサポートしたいと思っていました。

伊藤:リーダーシップトレーニングとは、具体的にはどのようなものでしょうか?

サニーさん:相手にもよるのですが、たとえば学生であれば、自信をつけるためのサポートや就職に関するサポートなどが多かったです。その他は、ストレスマネジメントや個人の成長、どうしたら良いリーダーになれるか、女性のエンパワーメントなど本当に様々でした。理論を学ぶことに加えて身体を使ったアクティビティを通してトレーニングしていました。

伊藤:そうしたなか、なぜ日本に来ることになったのでしょうか?

サニーさん:NPOを立ち上げた頃、大学で教師や上級生からアカデミックハラスメントを受けているという女性と出会いました。話を聴いて、彼女のサポートをしているうちに、同じような人がかなりの人数いることが分かりました。そこで、そうした人々がプライバシーを守りながら相談できるホットラインを立ち上げたんです。色々なハラスメントがありますが、アカデミックハラスメントは自分にとって、衝撃的で解決すべき課題だと感じました。

その組織だけでは活動が収まらず、他の団体と連携しながら、より大きな組織を作りました。その頃からエンパワメントに関するスペシャリストとしてモーニングショーなどにも出演するようになりましたね。

そんなふうに、次第に活動が広がりメディアなどでも取り上げられるようになったことで、おそらくそうした活動を快く思わない人たちに目を付けられるようになったのだと思います。脅迫のメッセージが来るようになり、しまいに一緒に活動していた仲のいい友人が家の前で撃たれました。そのとき、いよいよ自分の身も危ないと思い、国外へ逃げることにしたんです。

<日本での苦労と出会い>話せない限り「アウトサイダー」だと感じた

伊藤:日本に来て最初に受けた印象はどのようなものでしたか?

サニーさん:日本語が話せない限り、「アウトサイダー」なんだな、だと感
じました。


羽田空港に着いた時、英語が話せる人がほとんどいなくて驚きました。行き先だけ分かっていたのですが、どうやってそこへ向かえばよいか分からず、途方に暮れましたね。

それから一か月ほどは毎日本当に過酷でした。住む場所がないので路上や公園で寝泊まりし、近くのセブンイレブンでWi-Fiを拾ってネットを繋げ、手あたり次第にNPOなどにメールを送っていました。

そうしてメールを送っていた先の一つがWELgeeでした。当時WELgeeがシェアハウスを運営していたことから、一緒に住んでいいと連絡をもらったんです。WELgeeのシェアハウスで初めて安心して夜を明かすことができたことは今でも覚えていますし、待ち合わせの駅でスタッフの方が笑顔でハグをしてくれたことも忘れられません

伊藤:その後、日本ではどのようにして過ごしてきたのでしょうか?

サニーさん:就労資格を得てからは、2つ仕事をしました。

一つは警備の仕事です。夜から朝方まで建設現場で道に立って案内をする仕事ですね。もう一つは、運送業の仕事で、荷物を運ぶ仕事。これはもっと体力を使う力仕事でしたね。


重い時は20キロくらいの荷物を運んでいたため、身体を壊してしまい、辞めざるを得なくなりました
。警備の仕事は今も続けていますが、他の仕事をしたいと思って探しているところです。

<至善館大学院での学び>一人の人間として見てもらえる喜び

伊藤:サニーさんは最近まで東京の至善館大学院に通っていたと聞きました。なぜ日本の大学で学ぼうと思ったのでしょうか。

サニーさん:最初は至善館大学院でゲストとしてスピーチをしました。とても素敵な雰囲気の場所で「ここで学んでみたい!」と思っていたところ、WELgeeのスタッフのサポートによって学べることになりました。学んでいたのは、自分が母国で活動の軸にしていたリーダーシップやソーシャルイノベーション、ビジネスです。ビジネスとパーソナリティの両面を学べるところが魅力でした。

伊藤:在学中の出来事で、何か印象に残っていることはありますか?

サニーさん:まず、出会った人たちがみんな本当に良い人で刺激的な人たちでした。そのおかげで私自身、良い方向に成長できたと感じています。また、特に印象的だったのは、「難民申請中」という不安定なビザのステータスに関係なく、みんなが私を「一人の人間」として接してくれたことです。たった一度も、差別的な発言や行動を感じたことはありませんでした。

また、入学当初の出来事もよく覚えています。たとえば、通い始めた頃、WELgeeのスタッフがちゃんとやっていけるか心配してくれていました。お金も十分になく、寄付された食べ物を食べていた私が、周りの人や環境に気を落とさずに続けられるかとおもって声をかけてくれたんです。だけど、私はたとえパソコンやスマートフォンなど、他の人が持っているモノと自分の持ち物のクオリティが違っていたとしても、スキルや知識さえ劣っていなければ、身分や属性は関係なく、同じ土俵に立って戦えると信じていました。なので、毎日夜まで必死に勉強しましたね。

その結果として、最後の卒業発表で、優秀な学生におくられる賞を受賞し、さらに、提出した論文も「ベストレポート」に選ばれました。とても自信につながりましたし、苦しかったことも楽しかったことも含めて、思い出に残る時間になりました。

<これから>心理学者からビジネスパーソンへ。人々がつながれる場所を作りたい

伊藤:今仕事を探しているところだと思いますが、どのような職に就きたいと考えていますか?

サニーさん:今すでに多くの企業に履歴書を出したりハローワークに行ったりしていますが、就労していいと言ってもらえるのは、警備や掃除、運送の仕事がほとんどです。ですが、母国で心理学を学び、幼いころから外で人と接する時間が多かった私にとって、人に直接かかわる仕事が、本当に自分が好きなことだと感じています。

そういうわけで、これまでの自分の経験や学びを活かした「人」に関する仕事をしたいと思っていますが、大学院でビジネスも学んだこともあり、もっと幅広く「人」「パーソナリティ」「ビジネス」という切り口で何か関われる仕事があれば挑戦できたら嬉しいです。

伊藤:サニーさんの夢を教えてください。

サニーさん:夢は、人々が繋がれる場所をつくることです。良い悪いや賛成不賛成にかかわらず、誰でも自分の想いを話せる環境を作りたいと思っているんです。ビジネスなのかNPOなのか個人なのか分かりませんが、イベントや集まりの企画などを通して、人と人が今よりもっと関わりあえる場を作れたらな、と思っています。

とにかく、私は誰かのインスピレーションになりたいという想いを強く持っています。どんな国籍でも状況でも身分でも差別されない、そんな空間を作りたいですね。

伊藤:読んでくださった方へメッセージがあればお願いします。

サニーさん:今置かれて入る環境や地位、身分などで人を判断しないでほしいと思っています。人に価値を置いて、その人やその人が持つスキルを尊重してください。人は誰しも、大きな大きなポテンシャルを持っているけれど、その時々の状況が、そのポテンシャルを発揮することを難しくしていると思うんです。なので、どうかステータスで判断せず、一人の人間としての「その人自身」を見てほしいと思います。

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