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キャッチフレーズ(4)

「あのさ、真面目にやってる?いい?そんな大きな的で拾っちゃうと、ほとんどのグループがそこに入っちゃうわけ。だからいろいろ聞いて、的を絞ろうとしてるんじゃん。最初にアタシ言ったよね?グループの特徴に大した差なんてないと思うって。それでも掘り下げてそれぞれの特徴を見つけないとダメなんじゃないの?引き受けたんだから、それぐらい・・・」
杏奈の口から飛び出したジェットコースターは、猛スピードで突き進んだ。ジェットコースターが苦手な俺は、声を上げることすらできない。目の前の景色は、ぐるぐる回っていく。このまま永遠にジェットコースターは止まらないんじゃないかという気がしてきたとき、杏奈のケータイが鳴った。
「あ、未月からだ」杏奈は液晶を眺めながらケータイを手に取り、電話に出る。
「ごめん、未月。すぐ行く。うん、放送室で」
電話を切ると、机の上に置いた。コン、とトン、の間の音がする。
「そろそろ行かなきゃなんないから、後は2人でなんとかしてよね。いい?」
「おお、ありがとうな。後は潤とやっとくから大丈夫だよ」
杏奈は俺を一瞥すると、小走りで教室を出ていった。二人とも、なんとなくその姿を目で追った。

「さて。どうするよ」啓太がこちらに顔を向ける。自分で言うのもなんだが、ようやく俺は観念した。
「杏奈がいなくなって、新幹線じゃなくなったけど、地道に鈍行で行くしかないな」
啓太も頷く。「杏奈、ものすごい勢いだったな」
「手付かずの森に分け入って、ばりばりばりって開墾してったな。でも、おかげで道が見えた」
未だ1つもできていないのに、やれるような気がしてきているのが、俺の甘いところだ。だけど、今はそれを気にしている場合ではない。やれる気がしているのに乗って、やってみるしかない。
「ワラビーってさ、どういう動物なの?」俺は素直に聞いてみる。
「カンガルーみたいなやつだよな」啓太が答える。
「そのぐらいは知ってるよ。もっとなんかないの。ジャンプ力がすごいとか」「うーん、調べてみるか」
「名前使っといて、そんなに知らねえのかよ」
さっそく啓太は、ケータイをポケットから取り出して調べた。だけどすぐに、有力な情報はなさそうだという結論に至った。俺も自分のケータイで調べてみたが、たしかに「カンガルーの仲間」「オーストラリアのラグビーチームの愛称」ぐらいしか出てこなかった。
「そう都合よく出てこないもんだな」「うん」
啓太も俺も、なぜか感心していた。

(つづく)

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