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PRIDE ~最強のわたくしを追放するだなんて、どうかしてますわ! あぁもう! 全部爆ぜてしまえばいいのですわ!~ ①

第1話 「始まりは突然に ~闇に煌めく陽星~」


プロローグの続き

それから数日の時が流れた。

ここはユーレイドレシア地方、ウェーラの首都ソフィア。

「えぇ!? 勇者ファブリス一行とワカヤは別の大陸に旅立ったですって!?  せっかく長い日数をかけて、移動してきたのにぃ~!」
冒険者ギルドの受付嬢から聞いた情報に、マリナは大きな声を上げ頭を抱える。

「は、はい……。彼らは数日前に船に乗ってモルディオへと向かったとかで……」
申し訳なさそうに言う受付嬢だったが、マリナはさして気に留める様子もなく、ため息をつくと……。

「……まぁ、いいでしょう! モルディオならばここからそう遠くないはずですわ。さぁ、エマ行きますわよ!」
くるりと踵を返し歩き出すマリナ。

「え、えぇ!? もう行くんですか? せっかく来たんですから、もっと観光していきましょうよマリナ様~!!」
エマの制止にマリナは足を止め、振り返る。

「観光なんてしている暇はなくってよエマ。こうしている間にもワカヤたちは移動しているのだから!」

その迫力に、仕方ないといった感じでエマはうなずく。
「はぁ~。美味しいシチューにガレット、ピカタなんか食べてみたかったんですが……うぅ……」

彼女の言葉を聞いたマリナはゴクリと喉を鳴らす。
「ま、まぁ……エマがそこまで言うのであれば……。」

マリナの言葉にぱぁっと表情が明るくなるエマ。

コホンと咳払いをしてマリナは続ける。
「そ、そろそろディナーのお時間ですものね~。ターゲットはそう簡単に逃げませんわ! わたくしたちがディナーをいただくときは、彼らも同じ。わたくしたちが眠る時は、彼らもまた同じ! つまり少し休んだところで問題はないのですわ!さぁ! 行きますわよ!」

「は、はいっ!! エマもとても楽しみでございます! たくさん食べましょうね、マリナ様♡」
こうして2人は、冒険者ギルドを出てレストラン街へと向かうのだった。

「あぁ~! お腹いっぱいです! マリナ様、本当に美味しかったですね~!!」
「えぇ! やっぱりこの地方は料理が美味しいですわ~!」

宿に戻ると、明日に備えて早めに寝ることにした2人。
シャワーを済ませて、ベッドに入るとすぐにマリナから、すーすーと寝息が聞こえてきた。

その寝顔を見てエマは微笑むと……。
「あぁ~♡ もう本当に可愛いっ!! この寝姿だけでご飯3杯いけちゃいますよ!!」
そんな独り言を呟きながら、彼女は枕に顔を埋めて悶えるのだった。


「ぅんん……」
そんな声と共に、マリナはゆっくりと目を開けた。

窓の外はすでに明るくなっており、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
「あら……もう朝ですのね……ふあぁ」

あくびをしながら起き上がると、エマはすでに起きていたようで……。
「おはようございます! マリナ様」

その声にマリナも笑顔で答えた。
「あらエマ、おはよう」

マリナはもう一度大きなあくびのあと、伸びをした。
「ん~っ!よく寝ましたわぁ~」
そんな様子を見て、エマがクスッと笑った。


準備を終え、町を出た2人は船着き場でモルディオ行きの船を待っていた。

「モルディオ行きの船はまだ来ないのかしらね……。こんな小さな港町ですもの、まぁ仕方ないですわね」
マリナがぼやく隣で、エマが黙って水平線の果てを見ている。

「ボーっとして……。エマ、どうかしましたの? もしかして寝不足?」
マリナがそう声をかけるも、彼女は依然として海の方に視線を向けている。

「……い、いえ……あのさっき一瞬だけ空全体が光りませんでしたか? 気のせいでしょうか……」

突然そんなことを言われて、マリナはキョトンとした表情になる。
「空が光る? ……う~ん、雷? こんなに晴れてるのに?……」

そう言われてエマは困った表情を浮かべる。
「そ、そうですよね!ごめんなさいっ!たぶん気のせいです!」
慌てて謝るエマにマリナは首を傾げる。

2人がそんな会話をしていると、遠くから船員の声が聞こえてきた。
「モルディオ方面行きの船はこちらです! お乗りの方はお急ぎくださーい!!」

それを聞いた2人が船に乗り込もうとしたその瞬間だった。
辺りが一気に暗くなっていく。2人を含むその場にいた全員が上を見上げると、空全体に黒い雲が広がっていた。

「あら……大雨でも降るのかしらね?」
「やだぁ、傘持ってきてないわよ~」
マリナたちの前に船に乗り込もうとしていた婦人たちが空を見て、ため息をこぼす。

空はさらに暗くなっていく。だが……。
それは天気が悪いというよりも、まるで夜に逆戻りしたかのような暗さだった。

「なんだか不気味ですね……」
エマがそう呟いたころには、辺りは夜を通り越してまるで闇の中に引きずり込まれたかのような暗黒に包まれる。

目の前は黒一色。
生まれつき特殊なマリナには辛うじて周りが見えているが、周りの一般人たちは急に目が見えなくなった感覚だろう。

阿鼻叫喚の悲鳴が響き渡る。

「な、なんですの……これ?」
驚きを隠せない様子のマリナたち。

と、次の瞬間。空が一気に真っ赤に燃え上がったように煌めく。
そして遠くの水平線で、遥か上空から海面に赤い光が次々と落下していくのが見えた。
その数は尋常ではなく、まるでこの世の終わりを見ているかのようだ。

驚きのあまり固まっていたマリナだったが、あの場に圧倒的な存在がいる気配を感じ、嬉しそうな笑みを浮かべる。
そして自らもその場へ向かおうと、力を溜めはじめた。

そのことに気付いたエマは必死の形相で、彼女を引き留める。
「ま、待ってください! マリナ様!! 一体何をなさる気ですか!!」

その言葉にマリナは、不敵な笑みを浮かべた。
「何って……あの赤い光の正体を確かめ、倒してやりに行くのですわ」

エマは彼女の手を握りしめる。
「危険です! いくらマリナ様と言えど、あんな高エネルギー体の近くに行けばどうなるか分かりません!」

必死に説得しようとするエマだったが、彼女は聞く耳を持たなかった。

「ふんっ……仮にそうだったとしても関係ありませんわ! わたくしは最強を目指す者。ならばいずれあの存在とも戦うことになるはず……遅かれ早かれね!」
そう言ってマリナはエマの手を振り払うと、遥か上空に浮かぶ赤い光に向かって飛び立った。

「お、お待ちくださいっ! マリナ様ーっ!!」
そんなエマの叫び声を無視し、水平線の彼方を目指そうとするマリナだったが……。


ふと思いとどまる。

(ここから目視で見えるということは、あの無数の赤い光、1つ1つが相当大きいということになりますわ……。それに……まだまだ降って来ている……。あんな場所に飛び込むのは……自殺行為ですわ)
あの存在に自分は勝てない、という屈辱感から唇を噛む。

そして、次の瞬間だった。

闇に飲まれながらも顔を出している太陽だと思っていた、ひと際強く輝く光が凄まじいスピードで移動したかと思うと、空中で大爆発が起きた。
その爆発の衝撃は途轍もなく、マリナたちがいる場所にまで大波が押し寄せた。

「きゃああああ!!」
波に飲まれそうになる、乗船を待っていた客たちだったが、間一髪のところでマリナが両手から衝撃波を放ち、波を押し留める。
「くっ! こんなところまで大きな波が——!!」

程なくして波は落ち着き、ゆっくりと空を覆う暗雲は晴れていった。

「も、申し訳ありません! マリナ様! 私がお守りすべきところを……」
「いえ……それよりも……何が起きたというの?」
2人はただ静かに海を眺めていた。


結局、モルディオ行きの船はその日欠航となってしまった。

「まぁ、仕方ありませんわね……。それにしてもあんな現象、わたくし聞いたことありませんわ……」
マリナの言葉にエマもうなずく。
「えぇ……私もあんなの初めて見ました……」

その後、2人は町に戻り宿に泊まることになった。

翌日の新聞や町の話題は、昨日の件で持ち切りだった。

「なんでも、赤い光の正体は隕石らしいよ」
「えぇ!? 隕石って……あの隕石?」
「そうさ! あんなもの町に落ちたらひとたまりもないよ!」
そんな会話を聞いていると、マリナはあの光に怖気づいてしまった昨日の自分に腹を立てた。

「まったく……わたくしとしたことが情けないですわ!」
そんなマリナを見てエマはため息をつく。
「もう……またそのようなことを……」

そんな時……町の中央広場に人だかりができているのが見えた。
「何かしら?」
2人はその人だかりへ向かっていく。

「どいたどいたっ! 見世物じゃないんだ!」
「彼らを急いで休ませる必要があるんです! みなさん、どいてください」
大きな声を上げているのは、モルディオの兵士と治癒魔術師たちだ。

彼らは人々を押しのけて何かを運んでいる。それは横になって目を閉じている、何人もの人間だった。
布で覆われてあまり見えなかったが、彼らのほとんどが身体中に酷い火傷を負っているようだ。
昨日の赤い光の近くにいた被害者たちであろうことは、容易に想像できる。


「まさか魔王を倒した勇者ファブリス一行が、あの赤い光の近くにいたなんてね……」
マリナは号外新聞の記事を読みながら、そんなことを呟いていた。

「でも死傷者の中に、ワカヤの名前はなかった。行方不明にでもなったのかしら?」
マリナのつぶやきを聞いていたのか、エマも新聞を覗き込んできた。

「そうみたいですね。その後、彼の姿を見た人はいないようですし……。勇者一行が回復したら、詳しいことがわかるかもしれませんね」
エマの言葉通り、勇者一行が回復次第、状況の聞き取り調査を開始すると新聞の端の方に書かれていた。

その記事を読み終えたマリナは新聞をテーブルに置き、新聞に掲載されている勇者一行の絵を眺める。

「はぁ……あの赤い光について早く情報が欲しいですわ。それに……勇者一行とワカヤ、その強さがどれほどのものか早く見てみたいですわね」
マリナは、またもや不敵に微笑むのだった。



~続く~

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