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勇者ファブリス一行の動向 その1

新たな希望 カルロッテの迷い

PRIDE 第5話「勇者たちの輝き③ 目指すは最強」の続き


ファブリスたちも、シェコの町に戻ってきてギルドにてクエスト達成の報告を行っていた。

いつもなら達成の喜びと無事に帰還した安堵で満たされるのだが、4人の表情は硬かった。
強化されていたとはいえ、ネズミに負けたのは事実。
それは勇者パーティーとして旅をしてきた彼らに、重くのしかかるのだった。

4人は強くなるために、若矢を探しながら様々なクエストを受注することを決めた。

「もっと強くならなきゃな……!!」
ファブリスは拳を握りしめて気合を入れ直した。その目には確かな闘志が宿っているように感じられる。

4人はその後、ギルドで他の冒険者と情報交換を行うのだった。
夜に酒場で情報収集をしていたファブリスたちの元に、帝国軍のビブルスがやって来る。

「ファブリス殿、若矢殿の居場所を知ることができる人物が見つかりました」

「ビブルス!? 本当か!?」
ファブリスは驚いて立ち上がる。
他の3人も彼の元に集まり、話を聞くことにした。

「はい。なんでもその人物は、"脈導師"と呼ばれており、生命の鼓動を感じることができる人物なのだとか。その人物はマクロフの町のほど近くに住んでいるそうです」

「マクロフか! まさかまたあそこに行くことになるとはな」

4人は顔を見合わせて喜んでいた。
そう、4人と若矢がビブルスたち帝国軍と一緒に事件を解決した小島の町、マクロフだった。

ファブリスが
「よし、明日にでもマクロフに戻ってみよう」
と力強く言う。

「それならば、我々の船で一緒に行きましょう。我々帝国軍も、あの島の崩れた遺跡の調査に向かうことになっているのです」
4人はビブルスの提案に喜んで同意する。

「それじゃあ、明日の朝に港に集合しよう。さて、希望も見えて来たことだし、今日は飲むか!」
ファブリスはみんなの顔を見ながらそう言って、ジョッキを掲げる。
仲間たち、そしてビブルスは笑顔でそれに応じたのだった。


そして数時間後。

「……最近ね、思うの。私って冒険者に向いてないんじゃないかって……」
酔いが回ったのか、隣に座るビブルスに伏し目がちに語るカルロッテ。

「……カルロッテさん? 普段は凛としているカルロッテさんにしては、随分と弱気じゃないですか……。一体どうなさったのです?」

ビブルスが尋ねると、カルロッテは少し悲しげな笑みを浮かべて答える。

「……私はね? 本当は戦いが怖いの……。いいえ、怖くなった……。自分では強い冒険者だと思っていたけど、魔王ムレクに手も足も出なくて、それ以降も自分じゃ勝てない相手ばかり。もう冒険者としてやっていける自信がなくなってしまって……」

カルロッテの告白に、ビブルスは少し驚いた様子だった。しかしすぐに穏やかな表情に戻ると、カルロッテの手に自分の手を重ねて言った。
「そうだったんですね。でも大丈夫ですよ。貴女は十分強いです」

「……そうかしら? 私は本当に弱いわ……。今だってこうして弱音を吐いているし……それに、本当は勇者一行なんて柄じゃないのよ。……若矢くんを見つけたいんだけど、それまでに私が生きていられるか不安で……」

カルロッテはビブルスの手に額を当てて、顔を隠した。そして身体を震わせる。

不安を感じていたのはエレーナ、リズも同じだったらしく、少し離れたところで飲んでいたエレーナは悔しそうに唇を噛み、リズはネズミに食べられかけたことを思い出して、目に涙を浮かべていた。

ビブルスは、すっとカルロッテの肩に手を置き、優しく見つめながら言う。

「ええ、貴女は強いですとも。それに若矢殿はきっと見つかります。……それまで私に、あなたを守らせてくれませんか? あなたを守りたいのです」

カルロッテはビブルスの言葉に顔を上げ、彼の目を見る。その目は真剣で、真っ直ぐに彼女を見つめていた。

「え……? ビブルスさん? それってどういう……?」

突然のことに、カルロッテは動揺している。しかしビブルスは彼女の手を取り、甲に口づけをした。そしてさらに続ける。

「初めて見た時から、あなたをお慕いしておりました」
ビブルスはそう言って、カルロッテを真っ直ぐに見つめる。

「ええ!? そ、そんな急に……」
突然の告白に戸惑うカルロッテだったが、その頬は赤く染まり始めていた。

「……で、でも私には若矢くんが……」
そんな彼女を見て、ビブルスは優しく微笑む。

「もちろん、わかっております。あなたが私を愛してくれなくてもいいのです。ただ、私があなたを守りたいのですから」
そう言うと、ビブルスはもう一度カルロッテの手を取り口づけをする。その手は温かく、カルロッテの心を優しく包み込んでくれるような気がした。

(……この人となら、きっと幸せになれるかもしれない……)
そんな思いがカルロッテの中に芽生えるのだった。そして彼女はその手をそっと握り返すと、上目遣いで彼を見つめ返しながら言った。

「……わかったわ。じゃあこれからよろしくね、ビブルスさん」
「はい……!」
2人は見つめ合い、微笑み合った。

その様子を遠目に見ていたエレーナ、リズの2人。
彼女たちは複雑な気持ちを抱いていたが、同時に安堵感もあったのだろう。

エレーナたちがそっとその場を離れる中、ビブルスとカルロッテはその後も寄り添い合って酒を飲み交わすのだった。


~続く~

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