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勇者ファブリス一行の動向 その3

若矢は何処へ 脈導師、渾身の導き

「再びマクロフへ ファブリス怒りのダンス!?」の続き

翌日、ファブリスたちは町の人から印を付けてもらった地図をたどって、山小屋を目指して歩いていた。

「ふ~む、どうやらこの辺りにいるみたいだぞ」

ファブリスが地図を見比べながら言うと、木々の間にひっそりと佇む山小屋が見えてきた。
山小屋は古びた木造で、あまり大きくはなかったが、中から人の気配がしたのでノックすることにした。

「頼もう! 俺たちは魔王退治のために集まった勇者とその一行だ!」
ファブリスが呼びかけながらドアをドンドンと叩く。
少し間があってからドアの隙間から顔を出したのは、年老いた男性だった。

「勇者ファブリスとその仲間の、エレーナ、リズ、カルロッテじゃな。話は聞いておる。さあ、入るがいい」
老人はファブリスたちの名前まで知っており、さらに彼らを自分の家に招き入れた。
4人は老人に連れられ、家の中に入っていく。

「さて、探して欲しいのは転生者の少年じゃな?」
老人は暖炉のそばに座りながら、ファブリスに尋ねる。

「ああ、そうだ。俺たちが探しているのは若矢だ! ……もしかしてあんたは?」

「うむ、ワシがお主らの探している脈導師じゃよ。お主らがここに来ることはわかっていた。脈動を探知していたからな」

「ええっ! す、すごいです!!」
リズは驚きの声を上げ、カルロッテも目を見開いている。

しかしファブリスは冷静に続けた。
「……なるほど。さっそくで悪いんだが、若矢殿の居場所は?」

「うむ、それなんじゃが……実はワシにもわからんのじゃよ……。見えかかっているが、靄がかかっているような感覚じゃ」
老人は申し訳なさそうに頭を下げると、ファブリスたちは落胆する。

だが彼はすぐに顔を上げて続けた。
「じゃが、もしその若矢という者が身に着けていた物や、長く触れていた物があれば貸してくれんか。それでよりハッキリとしたものが見えるかもわからん」
老人は少し遠くを見るような目になりつつ言う。

そんな彼の言葉を聞いて、ファブリスたちは顔を見合わせた。
「う~ん……若矢が身に着けていた物か……」
ファブリスは腕を組んで考える。そしてすぐに顔を上げた。
「……あ! そうだ! 確かアイツがあっちの世界にいた頃に着ていた服があったはずだ!」

そう言うと、彼はエレーナが魔法で小さくしている荷物ケースを出してもらい、そこから若矢の服を取り出した。

「ほら、この服だ!」
ファブリスはそう言って、老人に若矢の服を手渡す。彼はそれを受け取ると、じっと見つめた。そして……
「……なるほど、間違いないわい。その者の脈動を感じる……」

老人は満足そうにうなずくと、服のボタンや襟元などを舐めるように観察し始め、そして手を翳すのだった。


「ふぅむ……。 ふんっ! うぅ~むぅ! はっ! はぁっ! くぅっ! くぁっ! あっ! ぬぉっ! ふっ! ぐぁっ! うわっ! くっ! うっ! あぁっ!! あっー!!!! ……ふぅ」

老人は歯を食いしばり、肩で息をしている。

「はぁ……はぁ……。み、見えたぞ……。じゃが、聞かない方がよいかもしれんな……。ワシは忠告しておくぞ……」
老人は汗だくになりながら、ファブリスたちに若矢の脈動の探知結果は聞かない方がよいと忠告した。

「ああ、でも教えてくれ!」
それでもファブリスは真剣な表情で老人に詰め寄る。

「本当によいのじゃな? ワシが見たものはお主の想像を超えるものじゃぞ?」

「それでも構わない! 若矢はどこにいる!?」
ファブリスは老人に掴みかからんばかりに詰め寄る。老人はそんなファブリスをなだめるように言った。

「わかった、教えよう。この者の脈動はこの世界から感じられない……。つまり、死んでおる……」

「えっ!? そんな……!!」
エレーナたちは驚きの声を上げる。ファブリスは、黙って拳を握りしめていた。

「間違いない……。普通であればその者の視点、そしてこの地図上にその者の座標が見えるのじゃが、そのどちらもない。彼の脈動も感じられない。つまりこの世にはおらんのじゃ……」
老人がそう告げると、エレーナたちは呆然となった。ファブリスだけは表情を変えなかったが、拳を握り締めたままだった。

「ワシはお主らをだますつもりで言ったわけではないぞ? この者が死んだことは事実じゃ。残念じゃがな……」
老人は寂しそうにつぶやくと、目を伏せる。そしてしばらくの間沈黙が流れたのだった……。

「……そうか」
長い沈黙の後、ファブリスはそれだけ言ってうなずいた。エレーナたちもまだ信じられない様子だったが、ファブリスが納得したのを見て、それが事実であると理解し始めていた。

「その者の脈動がどこで途切れたのかも、ワシにはわかる。ここから程近くの海上、それも遥か上空じゃ」
脈導師の老人が言っているのは、あの事件の現場だろう。つまり必死に探していたファブリスたちだが、その甲斐空しく、若矢はあの時すでに死んでいたことになる。

その事実を認識すると、ファブリスは怒りが湧き上がってくるのを感じた。(アイツ……俺たちの知らないところで勝手に死にやがって!)

「くそっ!!」
ファブリスは思わず悪態をつく。

「……ありがとう。礼を言うぜ脈導師さん。……じゃあな」
ファブリスは老人に礼を言うと、踵を返す。そしてそのまま山小屋を出ていこうとした。

「待つのじゃ! 奴らの中には魔王ムレクより強い者も多くおる! これ以上、あの魔族どもを相手にしてはいかん! 返り討ちに遭うぞ! それでもよいのか!?」
老人は呼び止めるが、ファブリスは歩みを止めることはなかった。

そして……
「魔王ムレクよりも強い奴がいるのは知ってるさ。でもな、俺たちだって強くなったんだ!」
ファブリスは振り返らずに老人にそう言い残すと、そのまま山小屋を後にしたのだった。


~続く~

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