見出し画像

国際連盟の教訓踏まえた国連 「機能不全論」の誤解を解く|【WEDGE OPINION】

ロシアの暴挙に何もできない国連。だが国連の制度はこの状況下では機能しない設計となっている。拒否権をどうするべきか、日本はどう振る舞うべきか。ヒントは「国際連盟」の歴史の中にある。

文・高橋力也(Rikiya Takahashi)
横浜市立大学国際教養学部 准教授
慶應義塾大学大学院法学研究科修士課程、米イリノイ大学ロースクール、英ロンドン大学キングス・カレッジ大学院修士課程を修了。博士(国際関係)。国連日本政府代表部政務部勤務、日本大学国際関係学部助教を経て、2022年より現職。


 「ロシアを侵略国として安全保障理事会から追放し、戦争をやめさせてください。それが叶わないのであれば、せめて安保理が真に機能するための改革案を示してください。いずれもできないのであれば、あなた方に残された道は解散しかないでしょう」

 4月5日、国連安全保障理事会(安保理)で、ウクライナのゼレンスキー大統領は、安保理に具体的な対応を迫った。2月25日に提出された、ロシア軍撤退を求める安保理決議案は、ロシアの拒否権行使により否決されていた。「国際の平和及び安全を維持する」目的で創られた国連は、ロシアの明白な侵略に対し、道義的な非難を浴びせることで精いっぱいのように見える。

ロシアによる侵攻の中、国連安保理で演説したウクライナのゼレンスキー大統領は、安保理改革を訴えた (SPENCER PLATT/GETTYIMAGES)

 国連は今何ができるのか。ロシアの侵攻を止めることはできるのか。「実際のところ、なにもできません」と、国連研究の権威である米ニューヨーク市立大学ラルフ・バンチ国際問題研究所名誉所長のトーマス・ウィース氏はごまかすことなく答えた(2022年2月28日付『朝日新聞』)。取りつく島もないが、それが真理に限りなく近い。

 世界各地の武力紛争に対し、国連の機能不全が叫ばれてきた。だが、今回のケースにおいて、機能不全という表現は正確ではない。安保理には、常任理事国(P5)であるロシアに対して、強制行動を含んだ実効的な措置を発動する「機能」が、そもそも備わっていないからである。拒否権とは、国連の強制措置が、いかなる場合にもP5の意に反して行われないことを保障する制度に他ならない。国連の集団安全保障は、P5が紛争当事国となった場合に、有効に「機能」しないようはじめから設計されている。ここに国連の限界がある。

 その欠如した「機能」を新たに付与する安保理改革はできないのか。これが、先のゼレンスキー氏の二番目の要請であろう。

 国連が51カ国で始動した当初は、戦後秩序を構築する上で、主たる連合国に常任理事国という特権を与えることにも一応の正統性があった。しかし加盟国は現在193を数え、冷戦が終結し国際社会の構図は著しく変化した。それでも、非常任理事国が6から10へと増員したことを除き、安保理の構成や権限は基本的に変わっていない。

2005年頃に唱えられた
安保理改革案は全て頓挫した

(出所)外務省資料を基にウェッジ作成

 安保理の構成や権限に手を加えるとなれば、国連憲章の改正を要する。仮に総会で改正案を採択したとしても、発効には「P5を含めた」加盟国の3分の2以上が批准を行う必要がある。つまり、P5の既得権(主に拒否権)を剥奪または制限するような、いわば引き算の改革の実現は到底望めないのである。

空中分解を避けるため
「牙」を抜いた国際連盟

 この冷厳な現実を踏まえ、国連の実質的な前身たる国際連盟の歴史を振り返ってみたい。

 第二次世界大戦を防ぐことができなかった国際連盟の「失敗」を受け、国連は強制措置を強化し、集団安全保障の枠組みに「牙」を備えたといわれる。しかし、連盟の集団安全保障制度は、大国のからむ紛争に対処するための制度設計という限られた観点からいえば、国連よりも優れていた。

 連盟規約によれば、……

ここから先は

2,453字

¥ 300

いただいたサポートは、今後の取材費などに使わせていただきます。