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自動運転技術の「目的化」とは一線画し社会課題を解決する|【特集】現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう[Part5]

日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。
しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。
今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。

還暦を過ぎてから「自動運転のモビリティ」で起業したソフトウェアエンジニアがいる。その人には「仕事は楽しむもの」というかつて日本企業のビジネスパーソンたちが持っていた強さがあった。

文・編集部(友森敏雄)

 「すでに顕在化している社会課題を自動運転で解決する」。こう話すのは、長年勤めたキヤノンでいくつかの企業内起業を行い、定年退職後は、〝コンセプトデザイン・サイエンティスト〟という肩書を自ら作り、コンサルティングや執筆活動を続けてきた川手恭輔氏。2019年に「人々の移動を支援して地域の存続を可能にする」という思いのもと、電気自動車(EV)を使い、低速自動運転(20㌔メートル以下)で、オンデマンドの送迎サービスを行う「Mopi(モピ)」(東京都千代田区)を起業した。

かわて・きょうすけ 
千葉大学工学部卒業後、キヤノンに中途入社。ソフトウェアエンジニアとして多くの新サービスを開発。退職後は「コンセプトデザイン・サイエンティスト」として活動し、2019年にモピを起業。 (Mopi)

 「自動運転」といえば、イーロン・マスク氏率いるEVメーカー米テスラの車両に搭載されていることや、グーグルの自動運転タクシー「ウェイモ」が世界のトップランナーという印象が強い。そこに日本の大手自動車メーカーも負けじと開発を進めている。そんなレッドオーシャンともいえる市場にベンチャーが飛び込んで勝負できるのだろうか。

 実は、テスラなどが「完全自動運転」(レベル5)を目指しているのに対して、モピが挑むのは「条件付き自動運転車」(レベル3)だ。

 「今の自動運転は、技術を開発することそのものが目的化している。われわれは、この技術を使って社会課題を解決するという〝価値〟を生み出そうと考えた」

 モピのコンセプトは、限られた領域においてのみ自動運転を行い、問題が発生すれば人為的に介入するというもの。具体的には、自動車の前後に取り付けられた監視カメラ映像によって、遠隔オペレーターが車内外を監視し、状況に応じて遠隔で操作する。

 全ての団塊の世代が24年から後期高齢者になるなど、自動車を運転することが困難になる人は、今後増え続ける。すでに食品や日用品の買い出しなど自動車がなければ生活危機に陥ってしまう地方もある。もっとも都会においても、足が不自由な高齢者が歩いて買い物に行くことは容易ではない。急速な高齢化が進む中で求められるモビリティを提供することで、このような社会課題を解決しようというのがモピの狙いだ。

 「自宅近くの乗降スポットまで、スマホなどで車両を呼び出し、病院やスーパーなどの目的地付近の乗降スポットまで送迎してくれる。町の中にはいくつもの乗降スポットを設定でき、コミュニティバスなどよりも利用ニーズに細かく対応することができる。そのうえ、車両は自動運転のため、ドライバー不足という喫緊の課題にも対処することができる。

 モピは、システムを自治体などに提供したうえで、運営は地域の交通事業者などに委託するビジネスモデルを想定している。すでに全国の自治体の多くにコミュニティバスがあるが、運行していない、あるいはできない地域もあり、市場は大きい。地域の交通事業者が持つ予約システムとのAPI(アプリケーション・プログラミング・インタフェース)連携も検討している」

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 では、自動運転を実現する技術はどのようなものなのか。

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