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〝便利で安価な暮らし〟の陰で外国人労働者に溜まる不満|【特集】人をすり減らす経営はもうやめよう[Part-4]

日本企業の〝保守的経営〟が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。

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文・出井康博(ジャーナリスト)

文・出井康博( Yasuhiro Idei)
ジャーナリスト
早稲田大学政治経済学部卒業。英字紙『日経ウイークリー』記者、米国黒人問題専門のシンクタンク「政治経済研究ジョイント・センター」(ワシントンDC)客員研究員を経て、フリー。著書に『ルポ ニッポン絶望工場』(講談社+α新書)、『移民クライシス 偽装留学生、奴隷労働の最前線』 (角川新書)など多数。

普段当たり前のように使っているコンビニや宅配。それを支えているのは留学生など外国人労働者だ。このまま〝便利使い〟を続ければ日本はアジアから見放されてしまう。

 ひと昔前の日本では、夜になれば商店は閉まり、元旦は皆で一斉に休んだ。それがいつしか、深夜でも元旦でも当たり前のように営業するようになった。「店が開いているから行く、行くから開く」というパターンが定着し、店も営業日や営業時間を増やし、従業員の休みが削られ、疲弊していく――。そんな日本の象徴が、全国津々浦々で24時間営業しているコンビニエンスストアである。

 それだけではない。牛丼チェーンやファストフード店、細かな時間指定で届く宅配便、コロナ禍で人気の「Uber Eats」……。今や日本人の生活には、世界でも最高水準の便利さがある。しかも商品やサービスの価格が、先進国としては破格に安い。

〝便利で安価な暮らし〟は、私たち消費者の欲求に企業が応え実現した。ただし、その陰には昼夜を問わず、低賃金で働く人の存在があることを忘れてはならない。消費者が求めるサービス水準を低価格で満たすための労働力確保は、もはや日本人だけでは難しくなり、「留学生」という名の外国人労働者なくしては成り立たないのが日本の偽らざる現実だ。

 その多くは〝留学〟を装い、出稼ぎ目的で日本へやってくる〝偽装留学生〟たちである。彼らは捏造書類を使ってビザを取得する。そんな事情もわかって日本は偽装留学生を受け入れ、日本人の嫌がる仕事で労働力として利用してきた。

 偽装留学生がいなくなれば、コンビニで売られる弁当などは確実に値上がりするはずだ。宅配便はもちろん、新聞でさえも決まった時間には届かなくなるかもしれない。だが、底辺労働を担う外国人なしでは成り立たない便利で安価な暮らしに、本当に〝持続性〟などあるのだろうか。

違法就労しないと
生活が成り立たない

 ベトナム南部・ロンアン省出身のフイ君(25歳)は3年前に来日した偽装留学生だ。日本語学校の2年を経て現在は専門学校で学んでいる。彼の今の夢は「コンビニでのアルバイト」だ。

「だけど、ワタシは日本語が上手ではない。だからコンビニの仕事は難しいかもしれない」

 留学生のアルバイトといえば、コンビニや飲食チェーンの店頭で働く外国人が思い浮かぶ。しかし接客の仕事に就ける留学生は、一定レベルの日本語を身につけた〝エリート〟だ。それより多くの留学生が、日本人の目に触れない場所で働いている。典型的な職場が、コンビニで売られる弁当など食品の製造工場や宅配便の仕分け現場だ。

 フイ君は現在、コンビニ・スイーツの工場で週4日、午後7時から午前1時まで働いている。時給は最低賃金をわずかに上回る860円で、午後10時以降は25%の深夜手当こそつくが、月収は10万円に満たない。

「前は朝までの夜勤もやっていたけど、コロナで仕事が減り、今は工場が午前1時で止まってしまう」

 フイ君の実家はベトナムで農業を営んでいるが、家は貧しく、息子に仕送りする余裕はない。150万円に上った日本への留学費用も、半分以上は借金に頼った。その借金はバイトで返済できたが、学費を工面するためには今の収入では足りない。

 最近までフイ君は、宅配便の仕分け現場で週3日、午後7時から翌朝4時まで夜勤をやっていた。スイーツ工場と同様、日本語が上達していなくてもできる仕事で、留学生バイトなしでは回らない職場だった。2つのバイトの時間を合わせると、留学生に認められる「週28時間以内」の就労上限を大幅に超えた。しかし、違法就労しないと生活が成り立たないのだ。

 フイ君のようにバイトで学費や生活費をまかなう留学生には、本来「留学ビザ」は発給されない。だが、政府の「留学生30万人計画」のもと、経済力のない外国人にもビザ発給が認められてきた。出稼ぎ目的の偽装留学生までも受け入れ、底辺労働に利用するためだ。

 低賃金の外国人労働者としては「技能実習生」が知られる。ただし、実習生の受け入れは仲介先の「監理団体」へ支払う斡旋手数料が伴い、企業には費用がかさむ。そのため、より安価な留学生に頼る企業が多い。

 2012年には18万919人だった留学生の数は、19年末までに34万5791人と2倍近く増えた。とりわけベトナム人留学生は、12年からの7年間で9000人弱から約8万人へ9倍にも膨らんだ。

 コンビニ弁当の製造工場に留学生バイトを斡旋している人材派遣業者幹部、山口浩一さん(仮名)が言う。

「派遣先の弁当工場は3交代で24時間稼働しているが、夜勤シフトは半数以上が留学生だ」

 山口さんの会社では、午後7時半に留学生を事務所前に集合させ、送迎バスで工場まで連れていく。工場は町から離れた場所にあるため、片道2時間もかかる。仕事は午後10時から午前6時まで、1時間の休憩を挟み徹夜で続く。立ちっぱなしで、弁当の容器におかずなどを延々と詰めていく単純な作業である。仕事が終わると、再び2時間かけて町まで戻る。その後、留学生たちは睡眠も取らず、日本語学校などの授業に出席する。

便利なコンビニ弁当
〝違法就労〟の現実を見よ

 なぜ、弁当工場は24時間稼働する必要があるのか。

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