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規制委に全てを委ねる姿勢やめ政府指示で原発再稼働を|【WEDGE OPINION】原子力と地熱 脱炭素に不可欠な日本の選択[PART1]

まるで「動かさないため」の世界一厳格な原発の規制は何のためにあるのか──。規制委に全てを委ねるのではなく、今こそ政府指示による原発再稼働をしていくべきだ。

文・石川和男(Kazuo Ishikawa)
政策アナリスト
1965年生まれ。89年東京大学工学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)入省。電力・ガス自由化や再生可能エネルギー開発振興、環境アセスメントなどに従事。2007年に退官後、内閣官房企画官、内閣府規制改革会議専門委員などを歴任。現在、社会保障経済研究所代表。著書に『原発の正しい「やめさせ方」』(PHP新書)など多数。

 年末年始、日本列島を襲った大寒波の最中、私の脳裏をよぎったことは、「この状況で大規模停電が発生したら、間違いなく多数の死者が出る」ということだった。

 だが、多くのメディアは積雪による生活や交通機関などへの影響を報じるだけで、エネルギー政策を見直す機運が高まることはなかった。

 原発再稼働が遅々として進まない。2021年度の冬季、とりわけ2月の供給予備率は東京エリアや中西日本6エリアで安定供給に最低限必要な3%の水準ギリギリの見通しである。

 そうした中で、年末年始同様、あるいはそれ以上の大寒波などが再び日本を直撃し、すでにフル稼働状態にある火力発電所で何らかのトラブルが発生すれば、大規模停電が現実のものとなるだろう。そんなことはあってはならないが、政権与党がベースロード電源である原子力発電の全国的再稼働の政治決断から逃げ続ける限り、電力需給ひっ迫は年間を通じて起こる。いずれ、日本は、コロナ禍における行動(経済)制限と同様、電力供給力に応じた範囲にまで経済が萎縮するような状況にまで追い込まれる可能性すらある。

 冷静に考えてほしい。これまで、国民の長寿化や健康増進をもたらし、戦後日本の高度経済成長を支えた大きな要因の一つには、電力の安定供給があった。そして、それを支えたのは、火力と原子力など『大量・安価・安定』電源であった。

 東日本大震災前、国内には54基の原発が稼働可能状態にあったが、震災から10年以上経過した現在、稼働中なのは関西電力の大飯、高浜、四国電力の伊方、九州電力の玄海、川内の5発電所9基(21年12月末時点)。その他の再稼働が進まないのは地元同意が得られない(筆者注・そもそも地元と電力会社が結ぶ安全協定に法的拘束力はない)などの事情もあるが、大きな要因の一つとして、東京電力福島第一原発事故後に新設された原子力規制委員会(規制委)による「世界一厳格な規制」という無意味な手続きの壁がある。

規制委の行政手法はまるで責任回避
審査中稼働を容認せよ

 規制委の「新規制基準」により、発電所の電源の多重化・多様化や原子炉格納容器の放射性物質拡散を防止しながら排気するフィルター付きベント装置設置の事実上の義務化など、最新の技術的知見を踏まえ、既設原発にも最新基準への適用を義務付けた。

 新規制基準が的確な規制ならば異論はないのだが、規制委の規制が唯一絶対のものとなり、それを満たさない限り、原発の再稼働は事実上できなくなっている実態は極めて不合理だ。しかも、……

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