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「人はモノじゃない」 労働者派遣法〝生みの親〟の遺言|【特集】人をすり減らす経営はもうやめよう[Part-2]

日本企業の〝保守的経営〟が際立ち、先進国唯一ともいえる異常事態が続く。人材や設備への投資を怠り、価格転嫁せずに安売りを続け、従業員給与も上昇しない。また、ロスジェネ世代は明るい展望も見出せず、高齢化も進む……。「人をすり減らす」経営はもう限界だ。経営者は自身の決断が国民生活ひいては、日本経済の再生にもつながることを自覚し、一歩前に踏み出すときだ。

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文・佐々木実(ジャーナリスト)

文・佐々木実(Minoru Sasaki)
ジャーナリスト
1966年、大阪府生まれ。91年、大阪大学経済学部卒業後、日本経済新聞社に入社。東京本社経済部、名古屋支社に勤務。95年に退社し、フリーランスのジャーナリストに。著書に『竹中平蔵 市場と権力 「改革」に憑かれた経済学者の肖像』(講談社)、『資本主義と闘った男 宇沢弘文と経済学の世界』(同)。

原則禁止から解禁へと規制緩和された労働者派遣。「派遣法の生みの親」として知られた労働経済学者・高梨昌の軌跡を振り返ることで、「日本型雇用を〝変質させた〟派遣労働の自由化」の意味を改めて問う。

 第二次世界大戦後のおよそ40年間、「派遣労働者」は合法的な存在ではなかった。手配師が上前をはねるような封建的慣行を連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)が問題視したため、職業安定法で労働者供給事業が禁止されたからだ(例外的に労働組合の派遣事業は認められた)。労働者を派遣するビジネスは人身売買的な「人入れ稼業」とみなされたのだった。

 労働者派遣法(以下、派遣法)が1986年7月に施行され、はじめて労働者派遣事業は合法となった。ただし、派遣労働は「原則禁止」のまま、同法が規定する特定業務――施行当初はソフトウエア開発、通訳など13業務――でのみ認められた。派遣可能な業務を列挙するやり方は「ポジティブリスト方式」と呼ばれる。

 その後、10年ほどで26業務に増えるけれども、「原則禁止」の姿勢を政府が崩さなかったのは、なによりも労働者保護のためである。労働契約を結んだ会社ではなく、その会社と派遣契約を交わした企業で働くという、特異な働き方に配慮した措置だった。

 ところが、90年代後半に金融危機が深まり、企業の生き残り競争が激化すると状況は一変する。99年の派遣法改正で「原則禁止」は放棄され、派遣法が禁じる特定業務以外は派遣が「原則自由」となった。

「ポジティブリスト方式」から「ネガティブリスト方式」への大転換は、労働行政のターニングポイントとなった。「派遣切り」が社会問題化し、非正規労働問題の象徴となるからばかりではない。企業が派遣労働者を主要な戦力として受け入れたことで、日本型雇用システムそのものが変質するからである。

図(タイトル入)

 本稿では、「派遣労働の自由化」の意味を改めて問うため、ひとりの人物に焦点を当ててみたい。「派遣法の生みの親」として知られた高梨昌(1927年~2011年)である。

 1949年(昭和24年)に東京大学経済学部に入学した高梨は、のちに東大総長となる大河内一男教授のもとで労働問題の研究を始めた。早くから労働市場の実証的研究に取り組んだ高梨は、信州大学教授になると積極的に労働政策に関わるようになった。

 派遣労働の合法化を唱えるのも早かった。労働省が1978年に設けた労働力需給システム研究会の座長に就任した高梨は、「派遣労働者を合法的な存在として認めるべき」との提言をまとめる。ビルのメンテナンス業務などで派遣労働者が存在しており、すでに法制度は実態と合わなくなっていた。

 その後、中央職業安定審議会の労働者派遣事業等小委員会の座長を任された高梨は派遣法制定に向けて企画立案作業を進め、84年11月に提言をまとめた。提言をもとに派遣法が成立するのは翌年である。

ロングインタビューでわかった
高梨の思い

 私は生前の高梨にロングインタビューをしたことがある。多くの労働実態調査を手がけてきた高梨は自身を「調査屋」と称していた。非正規労働問題の取材だったが、話は労働市場の歴史から研究者群像にまで及んだ。印象に残っているのは、99年の派遣法改正を〝激しく批判〟していたことである。その理由に触れる前に、派遣法制定時のエピソードを紹介しておきたい。

 派遣法の企画立案を主導していた当時、高梨は日本経営者団体連盟(日経連)とも折衝した。日経連の幹部は説明を聞き終えると、「高梨さん、それはむちゃだよ」と言い放ったという。大企業の副社長でもある彼は、日本型雇用システムを脅かすとの懸念から、派遣法の制定に猛反発したのだった。

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