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リーダーに求められる仕事の要諦 奇跡は起こせるもの|【特集】現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう[Interview4]

日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。
しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。
今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。

イノベーションとは、ゼロからイチを生み出すことではない。カギとなるのは技術を事業に結びつけるリーダーの存在だ。

 味の素の技術者として、バイオ精製工程のプロセス開発、米国工場のマネジメント、国内から撤退の危機にあった工場の再生など、一貫して現場を持ち場にしてきた五十嵐弘司氏。『技術者よ、経営トップを目指せ!』(日経BP社)という著作を持つ五十嵐氏に、今の日本企業に求められることを聞いた。
聞き手・編集部(大城慶吾、友森敏雄) 
写真・井上智幸

五十嵐弘司(Koji Igarashi)
企業情報化協会特別顧問、 エグゼクティブアドバイザー
東京工業大学大学院総合理工学研究科修了(工学修士)。1980年味の素に入社。米アイオワ工場長、経営企画部長、取締役専務執行役員などを歴任。


イノベーションは
積み重ねの延長

 いわゆる「イノベーション」について、勘違いがある。それは、ゼロからイチを生み出すこととしてとらえていることだ。イノベーションとは新しい事業を成立させることだ。そんな発想の原点となったのが、43歳になった1998年から7年間、米国アイオワ州に駐在したことだ――。

 そこで、米製薬大手シグマアルドリッチ(現メルク)の創業副社長だったジャック・ヒートンに出会った。彼は、ヘッドハントされて味の素に移籍していた。早速問われたのは、「仕事で何を目指しているのか?」ということだった。

 私は、「お客様に安価で高機能、高品質な素晴らしい製品をつくって提供することです」と答えた。

 するとジャックはこう言った。「間違ってはいない。ただし、もっと重要なことは、お客様の先にいる消費者が求めているものを提供することだ。良い製品を作り、売って儲けるだけでは事業とは言えない。本当の意味での事業とは、消費者が求めている『モノやコト』を提供することだ」。

 「Product Out」ではなく「Solution Provider」であれということだった。つまり、BtoBの私の仕事で言えば、良い原材料を提供して終わるのではなく、その先にいる最終製品を購入する消費者(C)が求めているモノを提供する。BtoBtoCこそが「事業」だということだ。それ以降、私は展示会などで直接来場者の声を聞くようになった。

 製品の機能アップやサービスの提供にとどまらず、自らの技術を軸にして新たな事業をつくることこそがイノベーションにつながると考えられるようになった。これによって私自身、いくつかの事業、つまりイノベーションを生み出すことができた。それには「進め方」も重要で技術だけではなく、ビジネスモデル、マーケティング、ファイナンスなどの要素も重要なポイントとなる。

 まず、……

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