見出し画像

きっかけは映画『もののけ姫』 苔栽培ビジネスで時代の波に乗る|【さらばリーマン】趣味を仕事に編

☆趣味を仕事に編画像(1280×500)

イラストレーション
木原未沙紀(Misaki Kihara)

東海道・山陽新幹線のグリーン車に搭載されている月刊誌『Wedge』の人気連載「溝口敦のさらばリーマン」。勤め人を辞めて、裸一貫で事業を始めた人、人生の窮地を起業で乗り越えようとした人、趣味を仕事にしてしまった人、自らの事業で社会課題を解決しようとした人など、起業家たちの人生や日々奔走する姿をノンフィクション作家の溝口敦氏が描きます(肩書や年齢は掲載当時のもの)。

文・溝口 敦(Atsushi Mizoguchi)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1942年東京都生まれ。暴力団や新宗教に焦点をあてて執筆活動を続け、『食肉の帝王』(講談社)で第25回講談社ノンフィクション賞などを受賞。

園田純寛さん(600×400)

園田純寛さん(Sumihiro Sonoda)
苔むすび代表・店主(36歳)

    (※肩書や年齢は掲載当時のもの)

 苔は日本で昔から親しまれている。君が代に「巌となりて苔のむすまで」とある通りだ。

 園田純寛さん(36歳)はこの苔に着目して2年半前、苔栽培の教室と販売を行う「苔むすび」を鎌倉駅近くの由比ヶ浜で開いた。

 ガラス容器の中で植物を生育する栽培・鑑賞法をテラリウムというが、もっぱら小さな苔テラリウムの形で苔を扱っている。苔の管理に誤りがなければ、少なくとも2~3年は室内に神秘的ともいえる深山幽谷のおもむきを再現してくれる。

「苔むすび」はまだ創業から日が浅いが、わりに経営は順調で、2019年の年商が1500万円超、20年はやはり新型コロナウイルスの影響を受けつつも全体として大きな減収はないらしい。専業は自分だけ、あとはバイト7人を雇っている。

 苔は小さく目立たず、地味な植物だが、数年ほど前から静かなブームが起こっていたようだ。よく考えると、苔は栽培に場所を取らない、手入れが盆栽ほど面倒でない、生け花のように1週間後には枯れて、また買い替える必要がない——など、今という時代に流行りそうな要素を持っている。

 そこにいち早く目をつけた園田さんは具眼の士といえるが、もともと北海道大学大学院の農学研究科を出ている。大学院時代にはスカンジナビアの山林に入り込み、苔や土、キノコ、地衣類などのサンプルを採集していた。

ここから先は

2,193字
この記事のみ ¥ 100
期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

いただいたサポートは、今後の取材費などに使わせていただきます。