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安定志向が評価される社会 こうすれば変えられる|【特集】現状維持は最大の経営リスク 常識という殻を破ろう[Part3]

日本企業の様子がおかしい。バブル崩壊以降、失敗しないことが〝経営の最優先課題〟になりつつあるかのようだ。
しかし、そうこうしているうちに、かつては、追いつけ追い越せまで迫った米国の姿は遠のき、アジアをはじめとした新興国にも追い抜かれようとしている。
今こそ、現状維持は最大の経営リスクと肝に銘じてチャレンジし、常識という殻を破る時だ。

官僚の世界を飛び出して起業。そこで気づかされたのは不安定こそ日常という常識だった。安定を前提としない人生、社会設計とはいかなるものか?

文・伊藤慎介(Shinsuke Ito)
rimOnO代表取締役社長
1999年に旧通商産業省(経済産業省)に入省し、自動車、IT、エレクトロニクス、航空機などの分野に携わる。2014年に退官し、超小型電気自動車のベンチャー企業、株式会社rimOnO(リモノ)を設立。16年5月に布製ボディの超小型電気自動車〝rimOnO Prototype 01〟を発表。

 「本気でイノベーションを起こしたいのであれば、まずわれわれ自身が変わるところから始めるべきではないか」。そう言われたのは15年前くらいだろうか。私がまだ経済産業省の官僚だったとき、日本発で世界に負けないイノベーションを起こすにはどうしたらよいかと議論していた際にある人が発した言葉だった。

 この発言が契機となり、私は数年後に経産省を退官して電気自動車(EV)のベンチャー企業を起こすことになる。

 起業してから7年半が経過し、役所だけでなくベンチャー、大企業、中小企業、大学などのさまざまな世界に身を置いてみると、日本社会のイノベーション力が低下したのは「安定志向」こそに原因があるように思う。

 安定志向が蔓延すると、社会や企業における変革の力は大きく失われる。日本経済の屋台骨を長年にわたって担ってきた電機産業はパソコン、携帯電話、テレビ、オーディオ、太陽電池、半導体と数多くの分野で世界市場のシェアを失った。

 代わりに台頭したのがGAFA(GAMA)に代表される米西海岸発のインターネット企業、韓国サムソン、台湾TSMC、中国華為技術(ファーウェイ)などに代表されるアジアのデジタル系メーカーだ。彼らの勝因は複数あるが、デジタル化とサプライチェーンのグローバル化という大変革に対して攻めの経営姿勢で臨んできたことが一番大きいのではないかと思う。

 安定志向は働き手自身の能力を制限することにもなる。

自分に何ができて
できないのか明確になる

 ベンチャー企業の経営者となり、サラリーマン時代のように毎月ほぼ一定額の給料が振り込まれることが当たり前でなくなると、稼ぐために仕事を選べなくなる。プロダクト開発や会社経営に加え、記事執筆、講演、会議でのファシリテーション、翻訳、大学講師、コンサルティングなど、自分がこの7年半でやったことだけでも多岐にわたる。また雑務を含めてあらゆることを一人でやらなければならなくなる。経理、税務、法務、総務、グラフィックデザイン、トラック運転、事務所探しなどだ。そうやって不安定な状況でも生き延びる努力を重ねていくと、自分にどういう能力が備わっているのか、逆に何ができないのかも明確になる。

 不安定な状況が自分にとって当たり前になった今、……

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