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趣味が高じてキャンプ用品を開発 型枠職人が生み出す黒く輝く山賊道具|【さらばリーマン】趣味を仕事に編

☆趣味を仕事に編画像(1280×500)

イラストレーション
木原未沙紀
(Misaki Kihara)

東海道・山陽新幹線のグリーン車に搭載されている月刊誌『Wedge』の人気連載「溝口敦のさらばリーマン」。勤め人を辞めて、裸一貫で事業を始めた人、人生の窮地を起業で乗り越えようとした人、趣味を仕事にしてしまった人、自らの事業で社会課題を解決しようとした人など、起業家たちの人生や日々奔走する姿をノンフィクション作家の溝口敦氏が描きます(肩書や年齢は掲載当時のもの)。

文・溝口 敦(Atsushi Mizoguchi)
ノンフィクション作家、ジャーナリスト
1942年東京都生まれ。暴力団や新宗教に焦点をあてて執筆活動を続け、『食肉の帝王』(講談社)で第25回講談社ノンフィクション賞などを受賞。

渡會誠治さん(600×400)

渡會誠治さん(Seiji Watarai)
sanzoku mountain代表(45歳)

     (※肩書や年齢は掲載当時のもの)

 「黒皮鉄」というのをご存じだろうか。鉄鋼の表面を覆っている酸化皮膜のことで、鉄鋼メーカーが熱間圧延すると、鉄鋼が真っ赤に焼けた状態で空気中にさらされ、鉄鋼表面に黒ずんだ酸化鉄が生じる。黒皮は鉄の表面だけを酸化し、内部には侵入しない。そのため黒皮が鉄鋼の酸化を防ぐ皮膜としても機能する。

 渡會誠治さん(45歳)は横浜市旭区でキャンプ、ガーデン用品製造・販売のsanzoku mounntainを営んでいる。

 品数はさほど多くない。渡會さん自身が子どものころからキャンプ好きで、こういう物があったらいいな、便利だなと思う物を自分で作り上げてきた。キャンプ仲間からの「俺もほしい、俺にも作ってよ」という声を受けて製造・販売を始めたから、どの道具もごつく、男っぽく、実用に徹している。

 製品のほとんどに黒皮鉄を使い、塗装やメッキなどはしない。ステンレスやアルミなど味の出にくい素材も使わない。テント組立用のハンマーや炊き台、フライパン、ランターン・ハンガーなど、どれもこれも頑丈で重いが、キャンプに出かけるほとんどの人が車を使うため、重い機材は苦にならない。まさに山賊が使うような道具ばかりなのだ。

 これが売れている。今、現場作業用の服や関連グッズで急成長し、女性客まで掴み始めたワークマンが話題だが、それと同じ現象かもしれない。実用性と丈夫さを尊ぶ。

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