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おぼろげな46%減を徹底検証 〝野心的〟計画は実現なるか|【特集】脱炭素って安易に語るな[PART-2]

地球温暖化に異常気象……。気候変動対策が必要なことは論を俟たない。だが、「脱炭素」という誰からも異論の出にくい美しい理念に振り回され、実現に向けた課題やリスクから目を背けてはいないか。世界が急速に「脱炭素」に舵を切る今、資源小国・日本が持つべき視点ととるべき道を提言する。

11月号ヘッダー画像(500×1280)

文・間瀬貴之(Takayuki Mase)
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
慶應義塾大学政策・メディア研究科にて修士課程を修了。2012年より現職。主な研究成果に『2030年温室効果ガス46%削減目標の達成は可能か?』(SERC Discussion Paper 2021)など多数。

文・永井雄宇(Yu Nagai)
電力中央研究所社会経済研究所主任研究員
オーストリア・ウィーン工科大学大学院にて工学博士号を取得。国際応用システム分析研究所を経て、2013年より現職。

政府が示した第6次エネルギー基本計画の実現可能性を疑問視する声が相次いでいる。「野心的」な目標の必達に拘るあまり、歪んだ政策がなされれば将来の日本に大きな禍根を残しかねない。

 第6次エネルギー基本計画案(以下、6次案)が9月、経済産業省資源エネルギー庁から公開された。6次案では、昨年秋に表明された「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロとする『ネットゼロ』を目指す」という政府方針を踏まえ、「30年度までの温室効果ガス排出削減目標を、従来の13年度比26%減から46%減」とするための日本経済とエネルギー需給の姿が示された。これらの目標は、6次案に記載のとおり、非常に「野心的」なものだ。

 本稿執筆時点では6次案に対する岸田文雄新政権の方針と、パブリックコメントへの対応が見通せないため、この案がそのまま閣議決定されるかは定かでない。しかし「野心的」という言葉の意味は、30年まで残り9年もない中で、良く言えば「挑戦的」、悪く言えば「現実逃避」とも捉えられる。

 菅義偉前首相によって「46%減」へと目標の引き上げが表明された翌日(4月23日)、ある閣僚が「(46%という数字が)おぼろげながら浮かんできた」と発言したことが話題になった。「おぼろげ」に浮かんだ計画の必達に拘るあまり、無秩序な補助金の乱立や、日本の産業競争力を低下させることは避けなければならない。

 筆者らは6次案の検討において定量的な検討を続け、その成果を公表してきた。図1は、石炭やガスなど燃料の燃焼により排出されるエネルギー起源の二酸化炭素(以下、CO2)排出量について、19年度実績である10.3億㌧-CO2(左端)から、筆者らが6次案を再現する形で要因分解したものである。

図1

 具体的には、19年度実績から、30年度の政府目標である6.8億㌧-CO2(右端)までの変化を、①経済再生を前提とした経済成長想定・鉄鋼や化学産業など主要業種活動量の停滞、②省エネルギー(以下、省エネ)の進展、③CO2を排出しない電源(非化石電源)の拡大に分けている。結論を先回りして述べれば、①から③までの影響を踏まえても、30年度の政府目標には0.7億㌧-CO2(④)届かない。

「野心的」と言わざるを得ない
三つの問題点

 6次案の第一の問題は、これまで日本経済を支えてきた製造業のサプライチェーンに含まれる鉄鋼などの素材産業の活動量が減少すると見通す一方で、これらに代わる産業が明確に示されておらず、野心的な経済成長が実現可能なのか示されていない点である。

 経済成長(物価変動の影響を除いた国内総生産〈実質GDP〉)は、19年度実績550兆円に対して、6次案では30年度に660兆円と、13年度比で年率1.3%の成長を見込んでいる。筆者らは、計量モデルを用いて試算した結果、この経済成長に伴うエネルギー需要の増加を通じた排出量増加分を、1.7億㌧-CO2と推計した(①-a)。なお、

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