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売り上げや利益で測れない「強いブランド」をつくる価値|【特集】価値を売る経営で安いニッポンから抜け出せ[PART2-2-「脱価格戦略」を考える]

バブル崩壊以降、日本の物価と賃金は低迷し続けている。 この間、企業は〝安値競争〟を繰り広げ、「良いものを安く売る」努力に傾倒した。 しかし、安易な価格競争は誰も幸せにしない。価値あるものには適正な値決めが必要だ。 お茶の間にも浸透した〝安いニッポン〟──。脱却のヒントを〝価値を生み出す現場〟から探ろう。

「使う人が喜ぶものをつくる」との発想だけでは、強いブランドはつくれない。つくり手の哲学や思いを言語化し、その価値を伝える努力をすべきだ。

話し手・得能摩利子(Mariko Tokuno)
三菱マテリアル 社外取締役・フェラガモジャパン 元CEO
東京大学文学部卒業後、東京銀行入社。ブリティッシュコロンビア大学でMBA修了。ルイ・ヴィトンジャパン、ティファニー&カンパニーを経て、クリスチャンディオール代表取締役社長、フェラガモジャパン代表取締役社長兼CEOを歴任。現在は三菱マテリアル、資生堂、ヤマトHDなど4社で社外取締役を務める。


 私は1990年から2016年までの26年間、ルイ・ヴィトンやティファニー、フェラガモという「ラグジュアリーブランド」の業界に身を置き、仏・米・伊3カ国の経営スタイル、ブランドマネジメントを経験してきた。ブランド業界で学んだことは、現在でも私自身の仕事に対する考えや価値観に大きな影響を与えてくれている。

究極のブランディング
美意識と経営を融合する

長沢伸也、石塚千賀子、得能摩利子
中央公論新社 1760円(税込)

 足元、多くの日本企業が熾烈な価格競争に晒され、苦しい立場にあるが、価格競争に陥らずに「強いブランド」をつくるには、どのようなことを実践していくべきか。ブランド企業という特殊な世界に身を置いた私が、あらゆる企業に通じる「最適解」を示せるわけではないが、これまでの経験から、日本企業や日本人が見つめ直すべき「価値観」を以下、提示してみたい。

「価格」「モノづくり」
日本人と欧米人の考えの違い

 物価上昇に関するニュースが連日のように報じられている。日本のみならず各国市民の反応を見聞きするたびに、私はつくづく、日本人と欧米人の「価格」や「モノづくりに対する哲学」の違いを感じる。

 日本では「値上げ=悪」であり、「企業はもっと身を削るべき」という〝無言の圧力〟が極めて強い。消費者の不満の矛先は値上げしたつくり手たる企業に向かい、お詫びする企業もある。

 一方、欧米人も同様に、「値上げは困る」「これでは生活ができない」との反応がある。だが、不満の矛先は値上げした企業ではなく、値上げせざるを得ない状況に追い込んでいる「社会そのもの」に向かう。だから、その改善策を政策に強く求めるのである。

 こうした違いが生まれる背景には、……

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